081. 初デート? 3/4 ― 順調 (黒羽)
景色を見ながらボートを
目的の場所に着いた。この池で、一番景色が良いと言われている場所だ。休日になると、ここにボートがたくさん集まる。今日は平日なので空いている。
「
「この池は人口じゃなくて、元からここにあったそうです。円境湖に似せて周りを整備したらしいですよ」
お嬢様は景色に目を向けたまま、小さい声で、そうなんだ、と呟いた。
そーっと近づいて、ピッタリくっついた。お嬢様が僕のほうを向いた。逆側に逃げられても、ボート中は狭いのですぐにくっつき直せる。
お嬢様は逃げなかった。
「バランスが~」僕のほうに少し押し返してきた。
どちらかに寄って座ったところで、このボートは大して傾かない。
(かわいい)
「ちょっと寒いですね」
お嬢様の手を握った。本当は寒くない。手を握るための口実だ。
「寒いなら、戻る?」
「い、いえ。手だけなんで! まだ、景色見てたいんで!」
「そう? 大丈夫? 風邪引かないでね?」
僕の心配をしながら、お嬢様は視線を景色に戻した。僕の手の上にもう一方の手を置いた。温めてくれている。
(あ、危なかった。いつも通り普通に握ればよかった。まだ、戻るには早い。まだ、こうしてたい)
お嬢様は背もたれと僕に寄りかかっている。これまで、本を読むときなど、僕とくっつくことを当たり前にしてきた。その成果が出ていると思う。
(いい雰囲気? キス……してもいいかな? 早い? やっぱり、デートを成功させて、最後にキスをするのがいいかな? でも、今も……。あ~、でも、それで警戒されても困るし)
「私が、
「僕の写真は別にいいですよ。気にしないでください。……キリカ、辛いですか?」
「制御するのが
「旦那様のこと、大好きですね」
「うん。大好き。ちょっと過保護だけどね」
「あれは、ちょっとなのかな……」ボソッと呟くと、お嬢様が僕の顔を
「やっぱり? ちょっとじゃないと思う?」
「ま、まあ、少し……」
「そうだよねえ。
「男の子の格好……、おかしいと思ってたんですか?」
「思ってたよ。だからお父様に、なんで? って聞いたよ」
「聞いたんですか!?」
「うん。なんで外に遊びに行っちゃいけないの? なんで買い物中、ずっと手をつないでなきゃいけないの? なんで男の子の格好なの? って聞いたらね。……さて、問題です。お父様はなんて答えたでしょうか?」
お嬢様は話の途中でニヤリとすると、クイズに切りかえてきた。
「かわいいからですか?」
僕がそう答えると、ブスッとした顔をして、答える気ないでしょ、と口を尖らせた。
「決まりだからって言われた」
「決まりですか?」
「うん。
「……嫌ではなかったんですか?」
「百貨店の中を自由に見てまわれないのが不満だったかな。本屋とか。でもそれも、
「僕と過ごすの楽しいですか?」
「うん。楽しいよ」
お嬢様は僕の手をギュッと握りながら、にこっと微笑んだ。
「……あ、黒羽! ここ外!」
「誰も見てませんよ」
我慢できず、頬にキスをした。お嬢様が頬を膨らませている。その頬を指で押すと、口から空気が抜けた。また膨らませたので、また押した。何回か繰り返した。
「も~、黒羽、しつこい」
「
「だって、黒羽が押すから。……ふふ」
(かわいい)
「写真撮らせてください」
「さっき、撮ったでしょ」
「まだまだ撮ります」
「ええ~。うーん、じゃあ、あっちの景色と撮って」
お嬢様は、僕に椅子の端に寄るように言うと、自身も端に寄った。バランスを気にしている。
「落ちたら大変。はやく、撮って~。きれいな景色入ってる? 白鳥の首の間とかに。もっと、横にずれたほうがいいかな?」
「そのままでいいですよ」
パシャッ
「あ、も~、撮るときは言ってよ」口を尖らせながら、隣に座り直した。
「言っちゃうと表情が固まるじゃないですか」
「ひ、ひどい。好きで固めてるわけじゃない。……ん? まだ一回も言ってないでしょ」
「それじゃ、
「にー」
「ぶっ、くくく。あはは。ほら、固まるじゃないですか」
写真に浮かび上がってきたお嬢様は、視線だけこちらに向けて、あとは白鳥の進行方向を向いていた。肩が少し上がっていて、力が入っているのがわかる。口は『に』の形になっているが笑顔ではない。
「そ、そんなに笑わなくても。黒羽だって、カメラ向けられたら、こうなるから! いや、ならなそう……。っていうか、どんな写真も絵になっちゃいそう! これまで撮ってきた記念写真も変なの一枚もないし! なんかズルい!」
「ふ、ふふふ。そろそろ戻りましょうか。お昼を食べましょう。何食べたいですか?」
「えっと、何があったっけ?」
何を食べるか考えながら、二人でゆっくりと
そのまま手をつないで、軽食売り場へと向かった。
「迷うね!」
「そうですね」
「フライドポテトは絶対食べたい。あと、ホットドッグ……。うーん、やっぱり焼きそばかなあ。でもなあ……」
パシャッ
「写真撮ってないで、黒羽も選んでよ。決められない」
「写真も大事なので」
「も~。黒羽が決めていいよ」
「それじゃ、お好み焼きとたこ焼きとあとはジュース二つで」
「フライドポテトが入ってない!」
「だって、僕が決めていいんですよね?」
「意地悪」
「さ、買いに行きますよ」
軽食を買い、芝生が敷き詰められている場所に向かった。他の人たちもしているように、僕たちもレジャーシートを広げ腰を下ろした。
「いただきまーす」
お嬢様は嬉しそうにフライドポテトを頬張った。フライドポテトとたこ焼きと、ホットドッグとジュースを二つずつ買った。フライドポテトとたこ焼きは半分こだ。
美味しそうに食べているお嬢様の写真を撮った。
お嬢様がたこ焼きを食べさせてくれた。熱くて口の中を
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