第67話【嫌なとき程、体感時間が長いって言うよね】


 ――――上空2000M地点――――


 魔王様もとい影武者は、二日酔いで口元からは酒が零れ、瞳からは大粒の涙を流しながら、〝幽怨血ゆうえんち〟という、不思議な重力に引き付けられるが如く落下していた。


『ひぐゔゔぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ゔっ゙!!』


 浮き上がる無数の雫は、空から降り注ぐ流星の様に、陽の光を浴びながら煌びやかに輝きを放つ。


〝拝啓魔王様へ〟


 貴方が、お亡くなりになり早数日が経ちました。

 娘様や妃様は、偽物である影武者ぼく魔王様ほんものと信じ疑っていません。

 何やら心苦しい所もありますが、楽しい日々を過ごしています。

 貴方様への思いを胸に(未婚の)父として、そして一人の(四十六)男として、今生きるこの刻を精一杯過ごしていきたいと思います。


 と言う事を考えて紛らわそうとしたが、やっぱり怖いので影武者は思考するのを止めた――――


【母上へ 魔界の瘴気も相まって体が燃えてきたんだけど……まぁ大変、地上まで残り時間ががががが――――これで生きて帰ってきたら、母上に会いたいな】

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