暫定候補十二人 case.3 真実に近い少年

 その少年は、普段は何の変哲もない学生だった。何かのリーダーと言うわけでもなければ、一芸に秀でているわけでもない。勿論、文武両道成績優秀な優等生と言うわけでもなく、不良グループの頭と言うわけでもない。あくまで、そこそこに友人がいて、そこそこに校則違反をして、そこそこに勉強をして、そこそこに毎日を楽しんでいる普通の学生だ――何かの集団の中にいる間は。


「フフフフフ……」


 学校から帰宅すると、少年は一度自室に戻って、全体的に黒っぽいフードのついた服に着替える。そして、怪我もしていないのに眼帯やら包帯を装着し、マスクを装着。ついでに、逆十字のアクセサリーをジャラジャラとつけて完了だ。


「フハハハハハ……!!やはり俗世の空気はオレに合わん!!!!!」


 突然ベッドの上で腕を組み、高らかにそう叫んだ。一人っ子であり、両親も普段殆ど家にいない為、特にその行動を突っ込まれることはない。その為、彼はこの行動を毎日行っていた(両親が在宅中はやったことがない)。

 そう、少年はちょっと痛い奴だった。もっというと、中二病という奴だった。本気で自分のことを「魔王」だと思い込んでおり、日々、謎の呪文を唱えたり(殆どがどこかの宗教の文言を引用している)、謎の薬を開発したり(全て家にある飲み物を混ぜただけ。美味しいものはレシピとして残している。アルコールなし)、修行をしたり(毎朝のランニング、腕立て伏せ、腹筋、背筋など)、必殺技を考えたり(参考:プロレス、宗教の経典等)しているのだ。御蔭で、無駄に体はバキバキになり、謎の宗教知識やプロレス知識がついてしまっているが、本人は特に気にしていない。体育の成績が常に「5」で、多くの運動系の部活動から引っ張りだこであっても、特に気にしない。むしろ、運動部の助っ人には率先していく。魔王だから。王は下々の為になることをしなければならないと思っているから。


「さて。今日も我が軍勢の面倒を見るとするか」


 そんな自称「魔王」の彼が、ソダセカ――『育てて!世界征服』に目を付けないわけがなかった。ソダセカはプレイヤーが魔王となり、自身の僕となる魔物を育て、魔界を復興し、ゆくゆくは人間界を征服するゲームだ。そんなゲームに彼がのめり込まないはずがなかったのだ。

 最初はクラスメイトから「このゲーム面白いって近所のねーちゃんにすすめられたんだけど」と紹介され、自称「魔王」の割には世間体を気にし、友達付き合いも良い少年は、まあ、すすめられたし試しにやるかー、話題に付いていけなくなるもんなー、みたいなノリで始めただけだった。世界征服という文言に心がざわついたが、ただのゲームだし、と割り切れるぐらいには少年は常識があった。彼は、中二病であるが、常識がある良い奴なのだ。

 しかし――やってみると、何故だかどんどんのめり込んでいってしまった。

 まず、設定が良かったのだろう。特にプレイヤーが「魔王」という部分。自称「魔王」だから、そこら辺波長が合ったのだ。そして、魔王軍を結成するという部分。少年は日々思っていたのだ。魔王と名乗っているのに、しもべが一人もいないのは如何なものか、と。魔物の王、魔界の王なのに、未だに自分の国一つ、しもべ一人いないのは問題なのではないかと。普段、部活の助っ人やらボランティアなどで下々の為になることは魔王としてやっているけれど、それって自分の臣下でもないしなあ、と。しかし、それがソダセカでは全て揃ってしまうのだ。本当に、自分の国の為になることを王としてやることが出来るのだ。この部分に、少年は非常に興奮した。

 かくして、少年はどんどんゲームにのめり込んでいった。根が真面目だから、どの魔物にどんな役目を与えれば魔界が復興するのか、魔王軍が強くなるのか、魔物が効率的に育てられるのか――そんなことを、日々繰り返し考え、試し、失敗し、成功しながら。少年にとっては、魔王とは魔界の王。そして王とは、国の為に身を粉にして働き、国を導き、民を導くものと思っていたのだ。だから、国の為に一生懸命になるのは間違いではないと、本気で思っていた。だから、少年の魔界は堅牢な守りとしっかりとした政治、強力な魔王軍に支えられる大国へと生まれ変わったのは必然だったのかもしれない。


「このままいけば、オレが魔界に自ら君臨する日も近いな……!!」


 フハハハハハ!!!!と笑いながら少年は端末を弄る。

 ある日、少年はゲームをしながら考えた。どうして王である自分が、魔界にいないのかと。王ならば、実際に国に君臨すべきなのに、どうして自分は端末を通してしか自分の国を見ることが出来ないのだろうと。女子気がある少年は「ゲームだから」と一瞬考えたが……中二病でもあった為、一度本気で考えた。彼は真面目な常識のある中二病なのだ。そして、ある仮説を立てた。

 魔界は一度人間に滅ぼされている。その時、魔王は死んだとチュートリアルで説明される。しかし、実はお付きの魔物である〈クレナイ〉を筆頭に、生き残った魔物達の力で別の世界(この場合、少年が生きる世界)で生まれ変わらせ、取り敢えず魔王の安全を確保(魔王とは少年のこと)。そこから、スマートフォンを使用し、指示を出すことで安全圏から人間達に魔王の復活を完治させることなく、魔界を復興させるという手段を取ったのではないかと。そして、魔界が復興し、いよいよ人間界を征服したその時――魔界へ降臨するのではないかと。何故、スマートフォンなのかについては、魔物の不思議なパワーということにした。

 とにかく、少年はその仮説に基づいて、現在も魔王ライフを続行しているのである。


「次の征服にはストーリー解放まで待たなければならないが……まあ、些事よ。もっと魔界が強大で、強力でないとまた滅ぼされてしまう。それだけは避けねば」


 ブツブツと独り言を呟き、少年は今日も魔界を復興させる。

 はたして、少年の仮説が真実か否か――それは、「神様」次第である。

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