15.確信犯

 花火から帰って以降、昂宗の生活はもとに戻った。朝から晩まで大学で勉強し、いな穂の都合がつく日には、「喫茶ちくわ」に行って彼女と会う。変化と言えばたまに知大に会うようになったぐらいだ。知大はいつも忙しいみたいだが、予定が合えばいな穂が連れて来てくれる。

 それ以外は何も変わらなかった。ギターは未だ物置に立てかけられたまま、ケースすら開かれていない。昂宗は勉強を言い訳にして、触れられないでいた。

 そのまま8月は過ぎ去り、9月になった。依然として暑さは変わらないままだ。

『どうしたの?』

 いな穂がアイスティーのストローを噛みながら、昂宗の目の前でフラフラと手を振って聞く。窓に面した横並びの席がズラリと並ぶ中、一番奥の席にいな穂、その横に昂宗。「喫茶ちくわ」でのお決まりの席で二人はが、たびたび昂宗はぼんやりしていた。

『そう言えばね。ふじ乃ちゃんがあの曲いいですねって言ってたよ』

 特に気にした様子も見せずに、いな穂は話を続ける。

『なんだっけ? あの……元気なやつ』

『覚え方が独特だね。えっと、前話していたやつだから……トゲトゲの「嫌い」かな?』

『そうそう! だってタイトルの割に前向きな曲だからさちょっと覚えにくくて。すごくロックだよね』

『でも、あれってよく聞けばすっごいネガティブにも取れるんだけどね』

『え?』

『しかもかなりエッチだったり』

『え? え? どういうこと!?』

『それは内緒。解釈は本人に委ねられていますので、いな穂ちゃんがあの曲をどのように受け取るとしても、それを妨害してはいけないのです』

『いいじゃん、教えてくれても!』

 いな穂が上目づかいジリジリと詰め寄ってくるが、昂宗はそれを笑いながらかわす。

『トゲトゲのボーカルの人が言っていたんだけど、「俺の音楽には俺なりの意図がありますが、それは俺だけのものです。聞いてくださる皆さんに押し付けるものではありません。作り手の意図と全く違う、下手すれば真反対の解釈ができる。それってとっても面白いことじゃありません?」って。かっこいいよね』

『うーん。わたし的にはその人の意図こそ一番大切にされるべきだと思うけどな。自分がこう伝えたいって創ったものが、全然違う風に伝わっていたら悲しい気がする』

『そうかな? ぼくは良くも悪くもそれでいいと思うよ。一度誰かに伝えたくて手放したものは、すでに自分のものではなくそれを受け取った誰かのものだからね。少なくとも自分が伝えたものと誰かが受け取ったものでは、もはや別物だ。

 それに言葉にしても音楽にしても、結局それは「伝えたいもの」を無理やりしたものだ。そして、その具体物からもう一度抽象物に戻す時に生まれる絶対的な隙間を埋める作業は、どうやったって他人には干渉できないからね。意図を100%伝えるということが、そもそも無理な話だよ』

 いな穂は頬をプクリと膨らませて、

『難しい話してる……』

 不満そうだ。

『語ってくれるね。昂宗くんって曲でも作っていた事あるの?』

 Mune。歌。ギター。バンド。本物と自分。挫折。始まり。終わり。始まり、そして終わり。


『待っているから』


 花火をした日の、知大の言葉。走馬灯のように、突然フラッシュバックした。息が苦しい。全身から嫌な汗が噴き出してくる。

『大丈夫?』

 いな穂が昂宗の肩に触れながら覗き込んで聞いた。

 昂宗は心配させまいとコクコクと頷いてから、

『大丈夫』

 そう書いた。

『ごめん、ちょっと急用を思い出した』

 いな穂がそれを読んだのか、それすら確認することなく昂宗は荷物をまとめて千円札2枚を机に置く。

「それじゃ、」

 昂宗は「喫茶ちくわ」を飛び出した。

 もちろん急用など昂宗にはない。あればよかったのに。飛び出したはいいものの、だからと言って思考は止まらない。吐き気がする。こういう時いつもどうしていた? 何も考えたくないとき、何をして心を落ち着けた? 昔だったらギターを……

「まずい」

 胃の中のものが逆流してきた。嚥下して強引に抑え込むが、その場しのぎにしかならない。なぜか「山」という漢字が頭に浮かんだので、「やまやまやまやまやまやま」と唱え続けることで頭の中を「山」でいっぱいにし、どうにか部屋に戻るまで耐えた。鍵を開けてトイレに駆け込んだ。全部吐き出せば楽になると思って便器にしがみついたが、何も出なかった。ただただ吐き気がするだけだ。そのくせ、えずきは止まらない。

 苦しくて仕方なかった。それならいっそと思い、昂宗は手を喉の奥に強引につっこんで無理に吐こうとした。それはどうにかかなった。

 ことが済んで、昂宗は手を洗い口をゆすいで部屋に倒れ込む。

「べんきょう、しよう」

 顔色悪いまま勉強道具一式が入ったバックを手に持って、昂宗は大学に向かった。


 それから一週間、昂宗はいな穂を避けた。

 毎日連絡が来るし、話がしたいと言ってくれる。しかし昂宗はそれを拒み続けた。いま、いな穂に会えばこの前の繰り返しになる気がしたからだ。気持ちが悪い。

 何も考えたくなくて、昂宗は一心不乱に勉強に打ち込んだ。

 専門書を探して図書館の書庫を見て回る。調べた図書番号を求めて順番に見て回り、目当ての本の番号に辿り着いた。しかしながら、そこに本はなかった。誰かが借りているらしい。データベースを見る限り貸し出し中になっていないため、いま図書館で読まれているのだろう。

 また明日に見に来ようと思いながら、適当に気になった本を手に取った時、昂宗は肩を叩かれた。振り返ると、知らない小柄な男性がいた。風貌はどう見ても40歳に近いおじさんだ。図書館の職員だろうかと考えを巡らしていると、

『あの……』

 男性の背は昂宗の肩程もなくかなり低いのに、さらに身体を縮こまらせてモゴモゴと何かを言おうとしている。

 昂宗はとりあえずスマートフォンを取り出してメモアプリを開く。男性は口を止めて、目を丸くして昂宗を見つめる。

『すみません。ぼくは耳が聞こえないので話しかけられてもよくわかりません。なにか御用ですか?』

 男性はクシャリと髪を右手で握り、慌てたようにスマートフォンを取り出して、

『そうでしたか。すみません』

 打ち込んだテキストを見せた。それから、手に持っていた本を差し出した。それは昂宗が探していた本だった。どうして? そう思った昂宗が尋ねる前に、

『すみません。あなたがデータベースで調べているのをたまたま見えてしまい、それで気になりまして。これ、名著ですから私は何度も読んでいるのでお渡ししようと探していたのです』

 昂宗はそれを受け取った。

「ありがとうございます」

 男性は少し驚いたようだが、それから嬉しそうに笑った。

『いつも図書室で勉強されていますよね。よく見かけるので、それもあって是非とも本を渡したいと思ったのです。法曹の世界でも目指されているのですか?』

 昂宗は法学部だ。だから法律の勉強をしているだけで、法曹——つまり弁護士や検察官、裁判官——を目指しているわけではない。将来、何になろうかなんて、考えたこともなかった。

『いいえ。ただ、勉強が好きでしているだけです』

『なんと。それならますます素晴らしいと思います』

『どういうことですか?』

 男性は少し考えるように手を止めてから、偉く長い時間、自分のスマートフォンとにらめっこしていた。それから見せられた画面には、かなり長い文章があった。

『目標のために頑張るのは、たぶんみんなできるのです。なんせ「目標」ですからね。また「頑張ること」が目的で、手段として「目標を立てる」という人もいらっしゃるでしょう。それは別に悪いことではありません。頑張るというのは実に大切なことです。それに、頑張っているうちにいつしか手段と目的が逆転してしまうこともあるでしょうし——実際のところ、そういう方の方が多かったりするかもしれませんね。

 なにより、頑張らないならば、その「目標」は果たして、その人にとっての「目標」となり得るのか、という問題がありますから、目標のために頑張るのはいわば必然と言えるでしょ……』

 スマートフォンには長文が打ち込まれてあり、昂宗がそこまで読んだところで、男性は急に画面を伏せた。

『すみません。まだ読み切れていないのでもう一度見せてもらえませんか?』

『いやいや。そんな。こんなおじさんの自分語り読んでも仕方ないですよ』

 恥ずかしそうにモジモジしている。

『そんなことありません。なんだかいまのぼくにとって意味のあるお話な気がします。是非とも聞かせてください』

 男性が恐る恐る「そう?」と言うので、昂宗は頷く。

『ありがとうございます。そう言っていただけるなら。あくまでも僕の持論ですから、気分を悪くされたら、申し訳ありませんといまさらですが断っておきます』

 そう書いた文章を示してから、男性は先ほどの文章をまた見せた。続きから読み始める。

『……目標のために頑張ることはそれほど難しいことではないと申し上げましたが、ですが「好き」という理由だけで頑張れるというのは、なかなかできることじゃありません。好きなことなら頑張れるとは言いますが、意外とそうでもないのです。例え好きでも、それでも人間は安全安心・楽に逃げてしまいがちじゃないですか——それは「本当に好き」と言えるのかと思われるかもしれませんが、ここでは置いておきましょう——。加えて、好きなものは。経験はございませんか?

 ——恥ずかしながら、私にはあります。

 私があなたぐらいの時は、法律を学ぶのが大好きでありながら、結局、研究から逃げてしまいました。勉強しても勉強しても、むしろわからなくなる。けれど周りはできる人たちばかりだった。その結果、自信の無さから来る不安に押しつぶされて、法律なんて二度と見たくないと思うぐらい嫌いになりました。その後、私は何となくで民間の企業に就職してしまいました』

 お目汚しいたしました、と言わんばかりに男性はお辞儀をして、はにかんだ。

『それで、——』

 昂宗は話しの続きをしようとしたところで手を止めて、文章を打ち直した。 

『あの、すみません、よければいったんお名前を教えてもらえませんか? ぼくは須賀屋昂宗と申します。法学部一回生です』

『そう言えば自己紹介していなかった。須賀屋さんですか。ご丁寧にありがとうございます。私は片植かたうえ寿之ひさしと申します。見ての通り……と言いますか、話した通りいい歳したおじさんです。今年で35歳になります。2年ほど受験勉強して今年やっと合格しました。ですから私も須賀屋さんと同じ一年生です。今後は同級生として、よろしくお願いしますね』

 寿之が控えめに伸ばした手を、昂宗は取った。それから昂宗は話を続けた。

『それで、どうして片植さんはもう一度大学に通おうと思ったのですか?』

『後悔したんですよね。やはりこれが一番の理由です。

 もちろんお仕事は充実していましたよ。それなりにやりがいもあって、同僚たちもいい人たちに恵まれて、楽しかったです。けれど、お仕事に慣れてきて余裕が生まれてきた頃、ふと考えちゃったんですよね。なんで自分がこの仕事をしているのか、なぜ働いているのか。すると大学時代に法律から逃げたことを思い出しちゃって、それ以降、頭から離れなかったんです』

『すごい行動力ですね。そう思って実際に動ける人は、めったにいないはずです』

『そうかもしれませんね。しかしこれは私の行動力がすごいわけじゃないんです。むしろ私には人並みの行動力すらありません。私はただ恵まれているだけなのです。

 最初、普通の人と同じように私は全く行動できませんでした。誰にも相談できずにひとりウジウジと、日々を過ごしていたしていたのです。そうですね……約2年ほどでしたかね。30歳になったかなっていないかの頃からずっと言い出せず、悩んでいました。

 その優柔不断な背中を思い切り押してくれたのが妻でした。いや、正確には思いっきり私の頬を殴ったのです。しかも仕事帰りの疲れている時に突然です。普段の私の振舞いからなにか感じ取っていたのでしょう。しかし私にとってはあまりに突然のことだったので、驚きすぎて理解が追い付かず、頬に痛みを感じませんでした。そのまま私が呆けていると、何も言わずに寝室に入って行き、戻って来ました。そして机に叩きつけたものが、私たちが将来子どもを授かった時のためにと溜めていた預金通帳でした。

「これで大学にいけ。そんで思う存分研究してこい」

 そう言ってまた私を殴りました。今度は私の胸をです。その力は弱弱しかったのに、物凄く痛かった』

 その時の光景を思い出しているのか、寿之は少し上を見ながら微笑んでいた。

『かっこいい奥様ですね』

『はい。私にはもったいないほどです』

『それで、学費はその貯金から?』

『はい。妻も働いているのでかなり貯まっていました。今も妻は私の分まで働いてくれています』

『迷いはなかったのですか?』

『妻は付き合っていた頃からずっと子どもが欲しいって言っていました。だからこそ、彼女の行動が一体どういうことなのか、何を尋ねずとも理解できたのです。彼女は、すでたくさん迷って、そして最後には覚悟を決めてくれた。それ以上、私に何を迷うことがあるのかと。次の日、思い切って退職願を提出しました。怒られると思っていました。最悪ぶん殴られる心積もりもしていたのですが、受け取った上司はまさかの大爆笑。それから頑張って来いと優しく言ってくれました』

 何も見ていない昂宗ですら感動する話だった。ウルウルと瞳をさせながら、

『素敵なお話ですね』

 寿之を見ると、彼の瞳にも少し涙が浮かんでいた。

『ありがとうございます。

 私は大変恵まれており、ここまで素敵な人生を歩んでくることができました。学問から逃げ出してしまいましたが、そのおかげで就職先でたくさんの仲間に出会えました。お仕事のおかげで取引先で妻にも出会えました。そして彼女は、こんな不甲斐ない男の妻になってくれました。学問に向き合わなかったことを今更に後悔しましたが、おかげでもう一度周りの人たちに支えられて自分があるということを改めて理解できました。それから行動することができました。そして今日、須賀屋くんにも出会えました。

 振り返ってみれば当たり前のように見える私の道なりですが、当時の私にはお先真っ暗でした。この先が崖につながっているのではと、日々ビクビク怯えながら歩いていたのです。

 結果論で物を言うことは簡単です。

「私は運命に導かれました」

 その一言で片付きます。けれどそんなことはない。私は歩んだ道は、私と私のことを支えてくれたたくさんの人で作り上げたなのです。神様だけに感謝はしません』

 そう打って見せた後に、寿之は『ごめんなさい。また自分語りしてしまいました。悪い癖なんです。いつも妻に怒られてしまう』と書いて、またはにかんだ。

『いえ。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました』

『お役に立てたならば、私も嬉しいです』

『最後に一つ、聞かせていただけませんか?』

『私に答えられるものであれば』

『ぼくにも、好きだった物を嫌いになった経験が二度あります。一度は克服したんですが、また嫌いになってしまいました。前回は気持ちを切り替えるだけであっさりと克服することができました。しかし今回は、考えるだけで苦しくなって、辛いです。克服しようと思ってそれに触れようとすると、それだけで手が震えて吐き気がして、』

 ここまで打つ頃には、すでに昂宗の額からは滝のように汗が噴き出していた。手は震えて、まともにフリック入力をすることができない。息が苦しい。ひざから崩れ落ちそうになったところを、寿之が抱きとめる。

『大丈夫ですか!』

 何とか左手を上げて応える。幸いにもここが書庫であったおかげで、人目はなく大事にならずに済んだ。寿之は昂宗に肩を貸しながらなんとかテーブル席に昂宗を連れて行き、座らせる。

 寿之は鞄からビニール袋を取り出して昂宗の口に当てて、背中をさすった。それからやっと昂宗は、自分が過呼吸になっていることに気が付いた。寿之に支えられながらゆっくりと呼吸することに集中したことで、しばらくして落ち着くことができた。

『よかった。落ち着いたみたいですね』

 寿之の口がそう動いたのが分かった。そして新品のミネラルウォーターを開けて昂宗に渡した。

「ありがとうございます」

 大きく息を吐いてから昂宗は言った。そして一口飲んだ。

『大丈夫ですか?』

 寿之はそうスマートフォンに打ち込んで見せた。

『はい。もう大丈夫です。ご迷惑おかけしました』

『須賀屋くんは若いのに、もうすでになにか大変な過去を背負っているのですね。

 誤解を恐れずにいうと、素晴らしいことだと思います。私の人生なんて基本薄っぺらですから——そうは言っても、私は自分の人生を誰よりも誇りに思っています。もちろん——、宿命を背負った生き方に憧れてしまったときもありました。

 細かい話は聞きません。ですが、凡そのことは察しました。

 須賀屋さんはその「好きな物」に対してなんらかのトラウマがあるのでしょう。嫌いとは少し違うのかもしれません——だって「好きになりたい」という感情が嫌いから生まれるなんてありえないことですから。トラウマを取り除き、もう一度それと向き合う方法を探していらっしゃるということなのでしょう。

 私は人より多く失敗してきましたが、そのたび満身創痍になりながらではありますが、なんとか乗り越えてきましたから、失敗の大先輩してアドバイスさせていただきます。

 立ちはだかる壁を壊す方法ですが、持論では3つあります。

 一つは誰かに助けてもらう。みっともないかもしれないけれど正攻法です。みんなでかかれば壊せない壁なんてありません。私はほとんどをこの方法でどうにかしてきました。

 もう一つはただ待ち続ける。壁が腐ってして簡単に壊せるようになるまで、もしくは自分が壁なんて物ともしないぐらい成長するまで、待ち続けます。いわゆる「いつか時間が解決してくれる」という物です。これもある種の正攻法ですね——今の私がまさにその方法でもう一度法律に挑戦しているわけです。

 最後の一つは大博打。ただがむしゃらに真っ向から挑む。まず、間違いなく負けます。それでも立ち上がって、負けて、また立ち上がって。何度でも挑んで挑んで、挑み続ける。拳は原型を失くし、足腰に力が入らなくなってもう二度と立てなくなるかもしれない。心が壊れるかもしれない。全部失うかもしれない。それでも愚直に挑むのです』

 昂宗はそれを読んで何も反応を返さなかった。寿之は続けた。

『どれか一つを選ぶ必要はないんですけれどね。上手に組み合わせて使ってください。個人的には2つ目をオススメします。

 ……もし、須賀屋さんが3つ目を選ぶとしても、私は止めません。しかし一言だけ。ただ一度だけ振り返って、自分の歩んできた道を見てください。きっと壁をぶち壊すヒントがあるはずです。だって、須賀屋さんがいま立っている道も、歩いてきた道も、そしてこれから歩むはずの道も、どれも一本に通じた同じ道ですから』

 寿之はやっぱりはにかんだ。昂宗は心の中で、寿之の言葉を反芻した。それから大きく頷いて、

『わかりました』

『生きている限り後悔はつきものです。人間は何をしても、結局後悔するのでしょう。だからそんなことを悩んでいたら何もできないのです。後悔しないための究極のリスクヘッジはです。私は絶対に嫌ですよ。死ぬぐらいなら、後悔した方がいい。

 けれどやっぱり後悔はしたくない。だから、未来の自分がするかもしれない後悔なんて見なかったことにして、せめて今の自分が後悔しない方を選んで生きようと思っています。

 それでは、自分語りおじさんはこれにて失礼させていただきますね。長い間、ありがとうございました。またお話しましょう』

 寿之は深くお辞儀をした。最後は、はにかまなかった。

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