時の万華鏡(公募版)

(完) 香澄の日記(一〇)

なおサンフィールド家と関わりのある人物を中心に、ここ数年間ほどの変化の過程を箇条書きで述べていく。

　　　　　『サンフィールド家との出会いによる変化の過程について』

一 高村 香澄……ワシントン大学心理学科卒の二三歳。トーマスとの出会いによって、香澄は人を愛することの大切さと哀しさ・忘れかけていた人の温もりなどを学ぶ。教育実習の一環における出会いだったが、香澄にとってトーマスはかけがえのない存在になった。およびトーマスとの出会いによって、人生に大きな影響を受けた内の一人でもある。

　しかし香澄の想像以上にトーマスの抱えていた心の傷と闇が深く、彼女の目の前で少年は他界してしまう。そしてその現実に耐えきれなくなった香澄の心に、深い傷が残る。それは香澄の日常生活にも大きな影響を及ぼすほどで、去年進学する予定だったワシントン大学院進学の道を延期する。

　さらに解離性同一性障害と夢遊病を患ってしまうほど、香澄の心身は疲労してしまう。その事実に耐えられなくなり一度は自殺を図るものの、親友や家族たちの説得により何とか思いとどまる。

　最終的にこれらの病気と向かうことを決意したものの、治療のために数ヶ月ほど、ワシントン大学メディカルセンターへの入院を余儀なくされる。それによってワシントン大学院への進学も、さらに半年ほど延期になってしまう。

二 マーガレット・ローズ……ワシントン大学音楽学科卒の二三歳。大学卒業後、彼女は女優の道を歩むためにベナロヤ劇団の劇団員となる。一時は香澄のように日常生活に大きな影響が出ることも懸念されたが、マーガレットはその気持ちを何とか抑えることが出来た。

　香澄の教育実習を支援するという目的で、ハリソン夫妻の自宅でトーマスと出会う。マーガレット自身もトーマスの死を深く哀しんでいる一人だが、将来の進路に影響が出ることはなかった。

三 ジェニファー・ブラウン……ワシントン大学心理学科卒の二二歳。親友のマーガレットと同じく、香澄から教育実習のサポート要因としてトーマスと出会う。香澄やエリノアのように精神病を患うことはなかったものの、ジェニファーもまたトーマスの死を深く哀しんでいる。

　香澄と同じ歩幅で心理学を学びたいという気持ちが強く、ジェニファーもまた大学院進学の道を半年ほど延期することを決意。当初は香澄本人から猛反対されるものの、ジェニファーの説得により彼女からも承諾を得ることが出来た。

四 エリノア・ベルテーヌ……ワシントン大学心理学科に在籍する一年生。一九歳。フランスにいた時にトーマスたちと出会い、アメリカへ留学した際に彼らの自宅でホームステイすることを約束する。しかし後に彼らが他界してしまったことを知ったエリノアは、その深い哀しみから拒食症を発症する。およびサンフィールド一家との出会いによって、その人生に大きな影響を受けた内の一人でもある。

　当初は親友の香澄たちと仲違いしていたエリノアだが、フローラとケビンの説得によって前を歩くことを決意する。同時に香澄たちとも無事仲直りして、彼女たちと哀しみを共有する関係になる。むしろ一度仲違いしたことによって、香澄たちとの間により強い絆が生まれた。まさに不幸中の幸いとも呼べる状況。

五 ケビン・T・ハリソン……ワシントン大学院教育学部卒の四五歳。博士号を取得。香澄に教育実習の一環として、トーマスの心のケアを依頼した人物。しかしケビン自身もトーマスが自らの意志で他界するとは思っておらず、そのことが原因で香澄が心に深い傷を負ったことを、ケビンもまた哀しんでいる。

　サンフィールド家と良好な関係を築いていただけに、彼らが他界してしまったことはケビンの心に深い傷を残してしまう。しかし職を辞するほどではなく、今現在もケビンはワシントン大学の教員として働いている。

六 フローラ・S・ハリソン……ワシントン大学院心理学科卒の四四歳。博士号を取得。香澄に教育実習の一環として、トーマスの心のケアを依頼した人物。ワシントン大学の教員だけでなく、臨床心理士・AMISA職員としての顔を持つ才女。

　後にケビンと結婚し良好な関係を築くものの、彼女たちには子宝が恵まれなかった。そんな時に親友のサンフィールド夫妻の忘れ形見のトーマスを、自分たちの養子として向かい入れる。

　子宝に恵まれなかったこともあり、年頃の少年トーマスを本当の息子のように溺愛していた。しかしトーマスの亡き両親への想いの深さを感じ取ることが出来ず、彼はフローラの目の前で自殺してしまう。突拍子もなくトーマスがいなくなったことを受けて、フローラへ強い絶望感が襲いかかる。

　さらにその影響は香澄とエリノアにも及んでしまい、彼女たちに精神病を患わせてしまうという、フローラの予想外の出来事が起きてしまう。

　表向きは平静を繕っていたものの、その自責の念に耐えられなくなったフローラは、ワシントン大学教職員を辞することを決意する。さらに臨床心理士・AMISA職員をとしての職についても、無期限で休職することを発表する。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完