香澄の信じる道

香澄の日記(七)

 [二〇一五年八月二五日 午前六時〇〇分……私がトムと出会ってから約数年が経過するが、今日までその面影に苦悩する日々が続く。だが恩師のフローラをはじめ親友のメグたちの尽力によって、私を束縛していたと思われる心のさらしをほどくことが出来た。

 特に命をかけて私を説得してくれたフローラの強さと優しさには、感謝してもしきれないほどだ。フローラいわく、このプランは数時間ほどで考えたものだと話してくれた。……まったく、彼女の頭の回転力の早さには脱帽するわね。


 それから吉報がもう一つある――トムとの一件でこれまで仲違いを起こしていたエリーとの関係も、一ヶ月という時が経つことでようやく修復されることになりそうだわ。一ヶ月――言葉にすればほんの短い期間ではあるけれど、私にとっては数年間の出来事のように感じたわね。

 天国で眠るトムたちには色々と迷惑をかけたけれど、これでようやく彼らを安心させることが出来る、そう思うと心がほっとするわ。


 二〇一五年八月二七日 午後三時〇〇分……自分の過去と真正面から向き合うことに決めた私は、この日ワシントン大学メディカルセンターという医療機関でカウンセリングを受けている。その目的はただ一つ――私が発症してしまった二つの精神病、解離性同一性障害と夢遊病を治療するために他ならない。


 担当医のダニエル・エバンズ医師から詳しいお話を聞くと、現状においては特に大きな問題は認められないとのこと。入院期間は最低でも数ヶ月となる予定だけど、SSRI(通称 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(通称 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)と呼ばれている抗うつ剤については、今のところ使用予定はないとエバンズ医師は教えてくれた。

 それに加えてエバンズ医師は私が女性であることを配慮してくれたのか、キャサリン・パープルという女性を担当看護師に任命してくれた。担当医とはいえ男性のエバンズ医師には伝えにくいこともあるから、彼の小さな心配りはとても助かるわ。そしてキャサリン――もといケイトもメグのように気さくな性格なので、今後しばらくは彼女のお世話になることも多いわね。


 さらにエバンズ医師とケイトはトムとも接点があるようで、生前彼の心のケアの担当者でもあった。さらにフローラの心のケアの担当医でもあるため、エバンズ医師とケイトの二人なら、私の病気の治療も適切な方法で行ってくれると私は信じている]

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