友情と愛を感じる未来の中で
姉のような憧れの存在
オレゴン州 トーマスの部屋 二〇一五年八月二五日 午前四時一〇分
フローラやマーガレットに説得されつつも香澄の信念を変えることは出来ず、それどころか残酷な結末を迎えてしまった。トーマスに続いて香澄まで同じ方法でこの世を去ってしまい、あまりの恐ろしい光景に思わず目を背けてしまった者がいた。
ジェニファーは香澄がトーマスと同じ結末を迎えることを見たくないと思ったのか、彼女が引き金を引く瞬間目を背けてしまう。同時に銃声が聞こえると同時に、ジェニファーは膝をそのまま床に下ろし泣き崩れてしまった。
「と、トムに続いて香澄までいなくなってしまったら……この先私、一体どうすればいいの? そして何を楽しみに、この先生きていけばいいの?」
今でこそ親友のマーガレットやエリノアやトム、そしてフローラやケビンたちと良好な関係を築いているジェニファーだが、その裏には香澄の功績が大きく関係している。
人付き合いが苦手かつ内気な性格も関係していたのか、数年前のジェニファーは大学生活にどこか苦手意識を感じていた。朝食後大学へ行き、講義終了後に書店でアルバイトをする――そんな刺激のない日々が続いていた。
そんなジェニファーのありきたりな大学生活を一変させてくれたのが、香澄という女性の存在だった。香澄自身もあまり人付き合いが得意ではなかったものの、彼女は何かと面倒見が良い性格でもある。さらに香澄が色々とジェニファーのことを気にかけてくれたことで、彼女はマーガレットやハリソン夫妻をはじめ、トーマスとも良好な関係を築くことが出来た。
そして優しくて頼りがいのある香澄の性格に触発されたのか、これまで人付き合いに消極的だったジェニファーの考え方も少しずつ変わっていく。ジェニファーなりに積極的に行動し、彼女は自分の意志でエリノアという新しい友達を作ることが出来る女性へと成長する。
仮に香澄という女性と出会っていなければ、今のジェニファーは存在しない――香澄がフローラに憧れるのと同じような理由で、ジェニファーもまた彼女に強い憧れを抱いていた。さらに沈着冷静で頼りがいのある香澄に対して、一人っ子のジェニファーは彼女を実の姉のように慕っていた。
そんな香澄が目の前で自ら命を絶ってしまったことは、ジェニファーの心に深い挫折と自責の念を残してしまう。
やり切れない気持ちを抑えながらもゆっくりと瞼を開いたジェニファーは、その怒りの矛先をある人物へぶつけようと思った。その人物とは、香澄を説得するために銃を持ちだしたフローラのこと。今回の一件についても、元々フローラが銃など使用しなければ起きなかった事態でもある。
「も、元はと言えばフローラが説得に銃なんか使用するから、こんなことになったんですよ! わ、私の……私たちの香澄を……返してよ!」
大粒の涙を流し強い憤りを感じながらも、やり切れない気持ちをフローラへぶつけているジェニファー。だがこの時のフローラは、なぜかその場に立ちつくしているだけだった。
そんなフローラをさらに一喝しようと思った矢先、
「――ま、待ってジェニー。あ、あれを見て!」
ジェニファーの後ろにいたエリノアから突如呼び止められる。
一度は声をかけてきたエリノアの方を振り向きながらも、ジェニファーは彼女が指さす方向へ視線を移す。
「……! あ、あれは!?」
そこにはジェニファーやエリノア、そしてケビンをも驚かせる衝撃の光景が映っていた。はたして彼らは一体何を見たというのだろうか?
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