【エリノア・ジェニファー・フローラ編】
鋭すぎる感性
終章
【ジェニファー・エリノア・フローラ編】
ワシントン州 シアトル郊外 二〇一五年八月二四日 午後八時〇〇分
ワシントン大学からオレゴン州ポートランドへと向かうため、ケビンが運転する車にエリノア、ジェニファー、そして彼の妻フローラが乗車している。目的地はもちろん、かつてトーマスたちサンフィールド一家が住んでいたお屋敷。
午後七時〇〇分ごろに一同はワシントン大学を出発しており、道の混雑状況などを考慮すると到着時刻はおそらく翌日の午前〇時〇〇分から一時〇〇分くらいが妥当だろう。
「こんな時に限って、道が混んでいるとはね――ジェニー、エリー。現地に着くまでもうしばらくかかるから、今の内に少し仮眠したらどうかな?」
若干苛立ちを見せながらも、後部座席に座っているジェニファーとエリノアの心身を気遣うケビン。助手席に座っているフローラについても、ケビンと同意見だった。
「そうですね。現状において今の私たちに出来ることは何もないと思うので、ケビンとフローラのお言葉に甘えて少し横になります。さぁ、エリー……トムのお家に到着するまでまだ数時間以上あるから、今の内に少し体を休めないと……」
ジェニファーは素直に首を縦に振るものの、少し険しそうな顔をしながら祈りを捧げるようにして両手を組んでいるエリノアから答えは返ってこない。もしくは“私は大丈夫よ”という、彼女なりの意志表示なのかもしれない。
エリノアにおける今の心境は、まさに自分のことよりも香澄の心身を案ずるものに近い。エンパスと呼ばれる人一倍感性が鋭い故なのか、香澄が感じている苦しみを自分のことのように考えているのだろう。
それがエリノアの優しさでもあるのだが、皮肉にもそれが彼女自身を余計に苦しめてしまう。四人の中で一番心身を疲労しているのは十中八九エリノアであり、このままでは現地に到着するまで彼女の精神はもたないだろう。そんな状況を懸念したフローラは、
「――エリー。香澄のことを心配しているのは、ここにいるみんなも同じよ。でも今のあなたに……いえ、私たちに出来ることは何もないわ。むしろ香澄のことを大切に思っているなら、今はしっかりと体を休めるべきよ」
エリノアを出来るだけ刺激しないように優しく説得する。
そんなフローラの言葉に心を動かされたのか、最初は眉間に一本のシワを寄せていたエリノアの表情も次第に穏やかになっていく。
「わ、分かりました。そうよね、今はフローラの言う通り少し横になります」
一人でいると暴走してしまいそうな自分に言い聞かせるように、独り言のように同じ言葉を繰り返すエリノアだった。
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