夢心地な恐怖
ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年八月一五日 午前二時四〇分
謎の人物の声に戦慄を覚えながらも、何とか相手と言葉を交わすマーガレットとジェニファー。だが二人の動揺ぶりは尋常ではなく、その理由は問いかける謎の人物。
「そ、それはその……夜中に喉が渇いてしまって……」
何とか力を振り絞りながらも、とっさに浮かんだ答えを述べるジェニファー。
謎の人物からの問いかけに怯えながらも、マーガレットとジェニファーはなぜか相手の姿をただ凝視している――いつになく大きく目を見開いているものの、恐怖のためか相変わらず喉から言葉が上手く出せない。
そんな二人の仕草や言動にどこか不信感を抱きながらも、マーガレットとジェニファーへ部屋に戻るよう優しく言い聞かせる。
何とか体に残された力を振り絞ることによって、少なからずだが言葉を発せられるようになったマーガレットとジェニファー。そこで二人は謎の人物へ、“あなたこそこんな時間に何をしているの?”と尋ねる。
すると謎の人物もまた、彼女たちと同じ理由で“喉が渇いたからお水を飲みにきた”と話す。ただ“どういうわけか、自分の口の中にフルーツを食べたような甘い口当たりが残っている”と話していた。
どうやら無意識の内に冷蔵庫のフルーツを食べていたようで、その時の記憶が抜けているようだ。支離滅裂な言動も見られることから、この人物は精神病――夢遊病を発症していると思われる。
夢遊病とは睡眠障害の一種で、脳が眠りに入っているにも関わらず体が動いてしまう心の病。代表的な症状として、本人の意思とは関係なくリビングや冷蔵庫などにある食べ物を食べてしまうことが多い。
主な発症原因について個人差はあるものの、過度の精神的ストレスが引き金となる事例が極めて多い。しかも発症している本人はその自覚がないため、第三者に指摘されて初めて気付くケースも少なくない。
その後も謎の人物がマーガレットとジェニファーを心配する言葉を投げかけるものの、当の二人にはその言葉が頭に入ってこない。彼女たちの精神的ショックも計り知れないものがあり、軽い放心状態になっている。
「あ、あの……その……」
必死の思いで相手の名前を口にしようとするが、恐怖のあまり思うように言葉が出ない。
いつになくはっきりしない二人を見て軽い苛立ちを覚えながらも、“言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい”と優しく問いかける謎の人物。だがその言葉を聞いてもなお、マーガレットとジェニファーらは恐怖に怯えたまま。……時折見せる謎の人物の優しそうな笑顔と白い歯を見るたびに、心の震えが増すマーガレットとジェニファー。
そして現状を何とかしようと唇を強く噛みしめながらも、喉に詰まりかけた言葉を発するマーガレット――何とか平静を保とうと作り笑顔を見せるが、その笑顔がむしろ彼女の恐怖に怯える心理を
だが謎の人物は二人のことよりも、なぜ自分の口の中にフルーツの香りがするのかどうしても腑に落ちなかった。そのことについてマーガレットとジェニファーへ問いかけると、怯える彼女たちの口から驚くべき真実が語られる。
「……まるで何かに取り憑かれたかのように一心不乱になって、あなたは冷蔵庫に入っていたフルーツを食べていたのよ。○○○○」
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