第208話 令和元年11月30日(土)「感謝祭」リサ・フランクリン

 昨日キャシーからその話を聞いた時、怒りよりも呆れる気持ちがまさった。

 感謝祭のパーティの前日になって招待客が大幅に増えるなんてあり得ないことだ。

 いま日本で暮らしている家はUSの家より小さい。

 庭なんて猫の集会所くらいの広さしかない。

 だから、私やキャシーの友人を昼に呼び、パパやママの友人は夜に集まることになったほどだ。

 それでもかなりギリギリだったのに、これ以上増えていったいどうするというのだろう。


 その解決策はカレンからもたらされた。

 増えた人たちを寒い庭に放置するだとか、キャシーが責任を持って追い返すといった過激な案も提示されたが、私の両親が選択したのは隣りの空き家を一日レンタルするというものだった。

 このエリアは私たちの家と同じような庭付きの家が立ち並び、住人は異邦人がほとんどを占める。

 カレンは一度来ただけなのに、よく隣家が空き家だと知っていたものだ。

 不動産業者との交渉の結果、特別にレンタルできることになった。

 費用はカレンの意見によって、将来キャシーが払うと約束してパパが立て替えた。


 食べ物はケータリングで補うことができるが、残念ながら七面鳥はひとりあたり一口サイズとなってしまうだろう。

 そして、今朝早くにカレンとヒーナが家族の自家用車で手伝いにやって来た。

 飾り付けや食器など足りないものを持って来てくれた。

 キャシーに庭の掃除をさせている間、私とママ、カレンとヒーナ、それに近所のママの友だちふたりで掃除や客を迎え入れる準備をした。

 ヒーナの美的センスは写真家のママが感心するくらい素晴らしく、カレンはそれほど大きくないのに軽々と重い荷物を運んでいた。


 自宅は私がホステスで、私が通う高校の友人で日本人の女の子たち、ヒーナの姉のカナとその友人たちをもてなす。

 隣家はキャシーにホステス役を任せるのは不安なのでママがサポートし、カレンとヒーナもキャシーを手伝うと言った。


「ようこそ、歓迎します」と私は日本語で挨拶する。


 自宅に先に到着したのはカナとその友人たちだった。

 4人は可愛く着飾っていて、英語と日本語を交えながら挨拶した。

 カナは自分で作った料理をたくさん持って来てくれた。

 感謝の気持ちを伝えるとカナははにかんでいた。


 すぐに私の高校の友人たちも到着し、ホームパーティが始まった。

 互いに自己紹介をする。

 みんな高校生ということもあって、落ち着いた雰囲気で話が進む。


『日本では英語が通じないと聞いていたけど、みんな話せるから助かったわ』


 そう私が言うと、『少ししか話せないよ』と私の友人のひとりが言って、周囲も頷いている。


『こうして話ができているじゃない』と私は微笑む。


 謙遜は日本人の悪い習性だと思う。

 できることは胸を張ってできると言えば良い。


『たくさん勉強しているのだから、もっとスラスラ話したいのよ』


 そう話したのはこの場でいちばん英語を流暢に話すユエだった。

 私は日本語を勉強中なのでその気持ちは理解できる。


『そうね、その気持ちは分かるわ。でも、それを身に付けるためには積極的に話すことが大切だと思うわ。ユエのように』


「分かっているのよ」とひとりが日本語で言い、それに他の子たちも同意する。


 そこにカレンが現れた。

 カナが持って来てくれた料理を隣りの会場へ運んでくれると言う。

 初対面の私の友人たちに挨拶したあと、カナと料理を取り分けている。

 カナはトラブルを知っていたのでかなり多く作ってきてくれた。


『向こうはどう?』とその作業の合間に私が尋ねた。


『騒がしいですね。最初は準備が整っていることに驚いていましたが、男子たちはじっとしていられないようです。キャシーは彼らが暴れないように睨みを利かせていますが……。キャシーと一緒に外に叩き出した方がいいかもしれません』


 カレンはそう言って肩をすくめたあと、真面目な顔になって『G6の子がふたりいるんですが、居場所がない感じなのでこちらに連れて来ていいですか?』と私に相談した。

 私が了承すると、『あとで連れて来ます』と言って、料理を抱えて戻って行く。


 カレンが出て行くと、「あれで中学生?」「ペラペラだったね」と私の友人たちが騒ぐ。

 ユエも『英語、更に上達したんじゃない?』と感心していた。

 そんな中、カナが『7月にキャシーが日本に来た時、彼女は英語が通じないと言っていたの。当時は平均的な中学生レベルか、それより少し上くらいだったの』と発言した。

 私もカレンから1ヶ月キャシーの英語を浴び続けたから上達したと聞いている。


『言語の学習は自分のペースで頑張ることが大切だと思うわ』と私は苦笑するしかなかった。




††††† 登場人物紹介 †††††


リサ・フランクリン・・・高校2年生。2学期から日本の高校に通っている。日本語を勉強中。


キャシー・フランクリン・・・14歳。G8。リサの妹。勉強熱心で真面目そうな家族の中でただひとり勉強の意欲を持たない。代わりに驚異的な身体能力を誇る。


日野可恋・・・中学2年生。驚異的な集中力で学習能力が高い。一方で幼少期から空手を学び、戦闘能力も驚くほど高い。


日々木陽稲・・・中学2年生。世界的に通用する美貌とコミュニケーション能力を持つ。


日々木華菜・・・高校1年生。陽稲の姉。料理の腕に自信を持つ。


野上ゆえ・・・高校1年生。華菜の親友。広いネットワークを持つ。

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