第83.6話 令和元年7月28日(日)「昨日のこと4」和泉真樹
いまも昨日のファッションショーのきらびやかな光景が目に浮かびます。
キラキラした思い出は苦しい練習に耐えるパワーをわたしに与えてくれます。
安藤先輩と一緒に行くことができて本当に良かったと思います。
わたしは何度かアイドルのコンサートに両親に連れて行ってもらったことがあります。
そのひとつひとつがとても大切な思い出で、いまも鮮明に覚えています。
ファッションショーはコンサートとは違うものと思っていましたが、負けないくらい刺激的でした。
そんなショーと同じくらい衝撃的だったのが安藤先輩のお友だちでした。
以前、幼なじみの方の写真を見せてもらい、一度お会いしたいと思っていました。
アイドルに負けないくらい、それどころか、わたしが見たどのアイドルよりも美しいと思う顔立ちをしていました。
日本人離れした白く透き通る肌で、顔の作りも彫りが深くとても日本人には見えません。
本当に生きて存在しているのか疑いたくなるような神秘性を感じました。
実物は写真とは少し違った印象でした。
もっと近寄りがたく、人を寄せ付けないようなイメージを抱いていたのですが、日々木さんはとても親しみやすく、聖母のような笑顔を常に浮かべていました。
歳下の私にもとても丁寧で、尊大なところは微塵もなく、こんなに美しいのに性格も素晴らしいだなんて信じられない思いでした。
お話しできたのはわずかな時間だけでしたが、わたしにとって貴重な体験でした。
安藤先輩はどの選手よりも黙々と熱心に練習に打ち込みます。
無口な方なので、安藤先輩と交流する選手は多くありません。
しかし、その方々はみんな本気で世界を狙っているアスリートです。
中途半端な気持ちのスイマーにとっては、安藤先輩は居心地の悪い存在なのではないかとわたしは思っています。
わたしはアイドルになりたいという夢を持っていますが、いまは競泳にすべてを捧げています。
アイドルやオシャレはあくまで気分転換のためで、競泳が第一なのは揺るぎありません。
わたしは大会などで数多くのトップ選手とお会いしました。
幸いなことに、わたしのことを可愛がってくださるトップ選手もいます。
第一線で活躍している選手の多くとも面識があります。
そして、そういう方たちと自分との差についてよく考えます。
練習を重ねることで追いつく部分もあると思います。
一方で、トップ選手には内面の部分で他より優れた方が多く、そこは練習だけでは身に付かないのではないかと感じています。
日々木さんは安藤先輩と一緒にいることが相応しい存在だと納得しましたが、わたしとは1歳違いで、1年後にわたしがあの境地にたどり着けるのか自信がありません。
昨日会った方々の中には同じように感じる人が他にもいました。
わたしが凄いと肌で感じる人は、自分に自信があり、それでいて周囲に気配りできる方が多かったです。
どっしりと立ちながら、周りもしっかり見ている人。
安藤先輩もそうですし、日々木さんやそのお友だちの日野さんもそんな人でした。
正直、羨ましいと感じました。
安藤先輩は公立の中学に通っていると聞きましたが、こんな人たちに囲まれているのです。
きっとお互いに良い影響を与えているのでしょう。
切磋琢磨できる環境なのだと思います。
わたしは私立に通っていますが、残念ながらわたしは浮いた存在です。
周りの子はみんな普通で、表立ってはともかく、裏では陰口ばかり言っています。
ひとつのことに打ち込むわたしは、彼女たちから見れば愚か者なのだそうです。
わたしはそれをバネにして競泳を頑張っています。
それでも、時には共に励まし合える仲間が欲しいと思ってしまいます。
滅多に会うことはできませんが、繋がりを持ったアスリート仲間は全国にいるので、彼ら彼女らに助けられて、いまのわたしがいるのだと思います。
今日で合宿が終わりました。
安藤先輩ともお別れです。
昨日受けた刺激を胸に、明日からも頑張ろうと決心しました。
††††† 登場人物紹介 †††††
和泉真樹・・・中学1年生。全国レベルのジュニアの競泳選手。目を引くほどの美少女。
安藤純・・・中学2年生。全国レベルのジュニアの競泳選手。
日々木陽稲・・・中学2年生。安藤純の幼なじみ。ロシア系の容姿を持つ超絶美少女。
日野可恋・・・中学2年生。純や陽稲のクラスメイト。美少女の範疇にいることは間違いないが、どの程度かは見る人に依る。
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