第72.5話 令和元年7月17日(水)「メール」林康子(おまけ)
さすが可恋ちゃんは仕事が速い。
夜、テレビを見ていると一通のメールが届いた。
『新しい練習メニューを考えてみました。根拠とした理論もまとめています。添付しましたので、印刷して顧問の先生とご相談ください』
なんと、素晴らしいことか。
わたしはスマホを手に感動に打ち震えたよ。
しかし、だ。
印刷ってどうすればいいの?
メールだって滅多に使わない。
まして、印刷なんてやり方がさっぱり分からない。
「お父さーん」
わたしは自分の部屋を出て、居間でテレビを見ていたお父さんに聞くことにした。
最近はあまり話す機会がないけど、こんな時はお母さんより頼りになるはずだ。
「ちょっといい? 友だちからメールが来たんだけど、それを印刷したいの。でも、どうやっていいか分かんなくて」
わたしは手に持ったスマホを見せながら言った。
「確認していいか?」とお父さんがわたしのスマホを指差す。
「うん」とわたしはスマホを手渡した。
お父さんは画面を見て、「ちょっと待ってろ」とすぐに言って立ち上がる。
両親の部屋に向かうので、わたしもついて行く。
お父さんは机の横にあるプリンタを起動させ、印刷の準備をした。
わたしは立ってそれを見ている。
やはり、こういう時は頼りになるなあ。
ケーブルを繋ぎ、印刷を始める。
次々と刷り上がった紙が出て来る。
印刷の具合を確認しようとお父さんがそれを手に取った。
「ちょっと読んでいいか?」
「うん」と返事する。
何か気になることでも書いてあったのかな。
お父さんは空手はおろか、スポーツにも無縁だったはずだ。
読み終わったものをわたしに渡す。
最初は1年生と2年生の練習メニューで、細かな注意書きがみっちりと書かれていた。
その後は理論なんだろう、漢字だらけの文章が並んでいる。
目が泳ぐとはこのことか。
ところどころに横文字もあり、もしかしてこれ読んでおかなきゃダメなのと叫びたくなった。
「凄い友だちだな」
読み終わったお父さんが言った。
お父さんもこれをスラスラ読めるんだから凄いよ。
「ボリュームこそ足りないが、大学の卒論レベルだろう」
「え? そうなの?」
卒論レベルと言われてもさっぱりだけど。
なんとなく凄そうだ。
「これだけのものが書ける高校生と友だちなら、仲良くなって勉強も教えてもらうといい」
「あー、そうだね……あはは」
これを書いたのは中学生だとはとても言えない雰囲気だ。
わたしは適当に誤魔化して自分の部屋に逃げ帰った。
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