第33.5話 令和元年6月8日(土)「キャンプの思い出」麓たか良

 キャンプ二日目の夜。

 夜空が一瞬明るくなった。

 遅れて、かなり大きな音が轟いた。

 ワタシは雷が鳴り響く中、男子のロッジに踏み込んだ。


 何人かの男子がワタシに気づき、ギョッとした顔をする。

 ワタシはそれを無視して目的の部屋に向かう。

 ノックもせずにドアを開けると、3人の男子がこちらを向いた。

 ちょっと睨んだだけで、彼らはおとなしくなった。


 3人を引き連れて、別の部屋に行く。

 ドアを開けると、男子3人が立ち上がって出掛けようとしていた。

 ワタシは連れて来た3人を部屋の中に入れ、ドアのところに立った。

 6人を確認する。

 日野から閉じ込めておいてと言われた6人で間違いなかった。


「お前ら、笠井に頼まれて、日野を脅しに行くんだって?」


 ワタシの言葉に、彼らは脅されたような顔になる。

 こんな奴らが束になったところで日野の敵ではないだろう。

 クラスの中にももっとマシな奴はいる。

 笠井もどうせ集めるならもう少し骨のある奴を集めろよと思ってしまう。


「今日はお前らを逮捕するために警察が来てるんだってよ」


 男たちは今にも泣き出しそうだった。


「本当だぜ。賭けてもいい。なんなら今から確認に行くか?」


 チビりそうな顔を見て、ワタシは声を出して笑う。


 警察が来ているのは本当らしい。

 日野の知り合いの警察官だそうだ。

 知り合いといっても、こんな山奥に呼んでこれるというのは普通じゃできない。

 警察だってヒマじゃない。

 犯罪が起きた後ならともかく、前もって動くのは余程のことがないとあり得ない。

 そして、こんな普通の中学で余程のことなんてそう起きるとも思えない。

 日野にそれだけの力があると思った方がいいとワタシは感じた。


 最近はもう日野と敵対しようとは思っていない。

 よっぽど無茶なことを言われたら別だが、今回のようにワタシ向きの頼まれ事ならむしろ歓迎だ。

 簡単に利用できる相手じゃないと分かっているが、こうして恩を売りつけておけば、何かあった時に助けてもらえる可能性はある。


 男子を言葉でいたぶっていると、日野からもういいというメールが来た。

 もう少し暴れてスッキリしたいところだが、あまりやり過ぎて日野の不興を買っても困る。


「もう終わりだってよ」


 ワタシの言葉に安堵の空気が流れた。


「次はもっと楽しませろよ」


 そう言って部屋を出た。




 翌日、キャンプが終わり、バスで学校に帰った。

 学校についてすぐに笠井に呼び止められた。

 笠井から声を掛けられるなんて珍しいことがあるものだと驚いていると、笠井は不機嫌な顔で「日野がアンタに礼を言えって……」と口にする。


「死ぬほど嫌なんだけど……」と笠井はブツブツ呟いている。


「礼は?」


 ワタシはこの状況に笑ってしまう。

 笠井はそんなワタシの顔を見て、顔を真っ赤にして怒鳴るように「ありがとうございました!」と言って走り去った。


 ワタシは笑いが止まらない。

 こんな愉快な思いができて、日野には感謝するばかりだ。

 笠井を嫌っている恵にも話してやらないと、とワタシの心は浮き立った。

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