31、クラリック消滅

 時   二〇二五年十月十九日(日)正午前、

     ミサイル迎撃後

 場所  G市O区、大東重工O区工場



 大東重工O区工場の広大な離着陸ポートに、攻撃を終えたステルスヴィークル編隊が降下した。着陸した編隊中央に、指令機のローター・ジェット・ステルス戦闘爆撃ヴィークルがいる。

 指令コクピットのディスプレイに、大東重工O区工場と航空研究所の透視映像があり、航空研究所に白く輝く二体の身体放射がある。情報収集衛星が捕捉した透視映像と、各ヴィークルの探査波の合成映像だ。


 梨田司令官は、ディスプレイを各ヴィークルへの指示映像に切り換えた。

「各機クルーは機内に待機。探査波エコーを監視し、身体放射波探査を続行しろ。

 コマンドは、装備で身体放射波探査を続行し、ターゲットを殲滅しろ。この区域に一般人はいない。いるのはすべて奴らだ。容姿が女子どもでも躊躇せずに殲滅しろ。

 よし、行け!」


「司令官は、本機から指示をしてください」

 指令機から降りようとする梨田を、コクピットの機長が気づかった。

「私が行かねば、誰が見極める?」

 梨田は、機長とクルーに笑顔を見せた。


「そうですが・・・。セルから抜けでた奴らが、単体で攻撃することはないのですか?」

 梨田の横で、特務コマンド指揮官が訊いた。


「奴らの精神と思念は単独存在できない。たとえ単体で行動できても、我々の身体放射波探査に引っかかる。我々以上に鮮明な反応が出る・・・」

 梨田はディスプレイを工場と航空研究所の透視映像にもどした。

「倒れた二人を見ろ。この色が何を示す?」

 損傷した身体と千切れた部位のどちらも紫から白へ発光し、放射エネルギーが人間以上であるのを示している。

「わかりました」


「背後を頼む・・・」

 梨田は、特務コマンド指揮官を見た。

「了解しました」

 指揮官はレーザー銃を構えた。その場を囲む三名の特務コマンドとともに、梨田の身辺警護体制をとった。


 梨田は臨戦態勢の指揮官とともに、指令機を降りた。

 歩きながら、装備から、流線型の本体に槍の穂先のような銃身が付いた、繋ぎ目のない滑らかな銀色の銃を抜き、ハンマー部のシャフトを引いた。

 情報収集衛星の探査で、大東重工G市O区航空研究所のコントロールデッキは、研究所の地下サイロのミサイルと、O区工場とT市工場のミサイルの発射を管理していることが判明している。



 対衝撃ガラスで囲まれた発射コントロールデッキに転がる二人のうち、一人は白髪まじりの髪の眼鏡をかけた河本だった。高級な紺のスーツは、航空研究所の屋根を昇華して到達したレーザーで、腹部ごと焼失してぽっかりと大穴が開き、焼け焦げた床のコンクリートが見えている。レーザーで焼かれた部位は焦げて出血もない。

 もう一人は顔の半分を焼失した頭部と、首から下だけの身体に分離している。


 梨田は、身体が分離しても、各部が生きている二人を確認した。


 精神生命体のニオブは、ネオロイドやペルソナやレプリカンの頭部にいるわけではない。セルが破壊すれば、精神生命体もセルと同じにエネルギーバランスを崩し、破壊したセル間隙から、時間とともに拡散して消滅する。

 注意しなければならないのは再生だ。切断分離した部位同士を近づければ、精神生命体はセルを再生し、元のネオロイドやペルソナやレプリカンに再生する。

 ただし、セル再生の主体が神経細胞の再生にあり、数週間に大量の精神エネルギーを使う。その間、精神生命体はネオロイドやペルソナ、レプリカンとしての活動ができない。


 梨田はスカウターで、清州地球防衛軍総司令官へ映像通信した。

「清州、こいつは河本だ。こっちは村野だ」

「セルごと消滅しろ。消滅時に実体が知れる」

 清州地球防衛軍総司令官が命じた。

「了解、このまま映像を送る」

 話しながら梨田は銃を河本に向けた。


「やめろ。お前たちアーマーに、我々クラリックを裁く権限はない」

 河本は、破壊されたセルの腹部からもれ出る自己精神を、精神エネルギーで食い止めていたが、自己拡散覚悟で全精神エネルギーを使い、梨田の精神と身体に、破壊の思念波を浴びせてきた。


 思念波を浴びた梨田のバトルスーツが白紫に発光した。

「裁かない。亜空間ターミナルは消えた。クラリックは逃げられない。この世から消えてもらうだけだ」

 梨田はトリガーを引いた。


 一瞬に河本の身体が収縮し、砂を崩すように細かな塵になり、昇華するように消えた。その瞬間、河本の身体形状が淡い光で残り、白く発光した鷹になったが、それもすぐさま消えた。

 さらに梨田は他の一人に銃を向け、トリガーを引いた。

 身体が消える一瞬、村野の姿が現れて、白色発光した鳥の形になり、すぐに消えた。


「司令官。最初からその銃を使用すれば良かったのでは?」

 指揮官は梨田の特殊武器を見て、遠隔攻撃を考えている。

「遠隔操作では、誰が消えたかわからんだろう」

「そうですね・・・」

 指揮官はレーザー銃を構えたまま、三名の特務コマンドとともに、梨田の身辺警護を続行した。


 梨田は考えていた。

 人間として生活しているクラリックが、いきなり一般人の前から消えれば、問題になる。それに、人間として行動していた奴らの実体が知れない。

 奴らは政府に通常の地対地ミサイルだけを発射した。

 もし、核弾頭を搭載していればこうはゆかない。現代の核弾頭搭載ミサイルはターゲット付近で迎撃されれば起爆する。奴らがそれを使わなかったのは、何としてもこの社会を支配したいからだ・・・。

 それにしては攻撃がお粗末だ。

 政府を攻撃すれば八重洲の本社も被害を受ける。なぜ、簡単に叩きつぶされる攻撃をしたのだろう・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます