23、不審な文章
時 二〇二五年九月二十三日(火)秋分の日
場所 N市T区、自宅
日本列島の東海、関東、東北を台風が通過した。前回の台風につづく被害だ。日記に書いたのに、どうして被害が出たの?
そう思いながら、正午前の仕事場で、理恵は、私が書いたタブレットパソコンの日記を読んでいる。
突然、ディスプレイの文章のあと、新しい文章が現れた。次々に書き進んでいる。
「先生!見て!日記に文が現れた。かってに書き進んでる・・・」
「何か変わったこと、なかった?」
私はデスクトップパソコンで出版社の原稿を書いていた。
「何もないよ。日記を見てただけ・・・」
『こんなに災害がつづくのは、政治がまちがった方向へ進んでいるせいか?政府は新体制になったが、本来あるべき政府になっただけだ。
洋田総理の所信表明演説は漠然としている。総理でなくても話せる内容だ。ビジョンがない。
年金制度改革は、政権が変わるたびに担当部署が新設され、税金が無駄に使われてきた。
今回の新体制で、年金不祥事に関係したすべての関係者が、公務員政策立案推進実績責任法と公約宣言厳守責任法で処分された。
最初から年金通帳を作り、固定利率の年金積立記録を行政機関と個人で保管すれば、これまでの無駄はなかったはずだ。
全てが無計画な政治と行政で成された結果だ。
新体制になっても、政府と行政機関に、国民を守り給え、と祈る者も、守ろうとする者もいない。
まだ、政府内に過去の閣僚思想が残っている。学閥による選民思想だ。
内閣が、正義を理念にする閣僚と官僚を自由に選び、それらが各省庁のトップになれば良いのだが、帝都大学の学閥は内閣が選んだトップを馬鹿にするか、反発するだろう。帝都大学の学閥に人道的に優れた者がいるとはかぎらない。ずる賢いのが各省庁に多くいる。帝都大学の学閥は解体せねばならない。
閣僚と官僚を選ぶにあたり、EQを調べるのはだめだ。姑息な者はEQ試験の内容を把握して模範解答する・・・。
公約宣言厳守責任法は良い法律だ。発言を記録すればそれで人格がわかる。教育を変え、知識ではなく、人格を育てねばならない・・・』
「この文、日付を追って、先生の日記のあとに書いてる・・・」
『赤字財政の解消は・・・。
公務員、特に閣僚と官僚の人数と給料を削減し、行政機関の無駄をなくす。
実行途中で停止している公共事業を、最悪の条件下で調査し、利益を産む物は再開する。
既存企業を買収して国家資本の企業を設立し、利益で国家財政の赤字を補填する。
この際、旧国鉄のような扱いはせず、民間企業より厳しい条件を課して経営陣の給与を抑え、利益増加をはかる。利益が出ない場合、つまり、赤字が発生したら、すべて経営陣の責任とし、経営陣に補填させる。一般社員についても、業績の上がらない社員には責任をとらせる・・・。
以上を法制化する』
「書くのが止まったよ」
不審な文章が現れたのは、私が最後に日記を書いた九月十七日(水)の後の部分で、日記の一番最後へ移動した『未来のあるべき姿』の前だ。
私は今まで書いた日記が気になった。
「文章はバックアップ・ファイルとバックアップ専用HDに残ってる。USBメモリーにも保存してあるから心配ないよ。今は操作しない方がいいよ・・・」
理恵はそう言ってから、パソコンにくわしくない自分の言葉とは思えず、戸惑っている。
「うん、わかった。他に何か出てないか調べるよ」
以前、デスクトップパソコンに書いた日記は、USBメモリーに保存した。フォルダはそのままだ。
私はデスクトップパソコンの日記のフォルダを開いた。日記はそれまでの過去のものだけで、何も現れていなかった。思いついて、ネットワークを遮断し、理恵のデスクトップパソコンとタブレットパソコンを起動した。異常は理恵が見ている、私のタブレットパソコンだけだった。
「そっちの文は?」
「また、書き進んでる」
『・・・地方自治体へ移譲できる行政はすべて移譲し、あらゆる行政を単純化しなければならない・・・』
「理恵のタブレットパソコンの日記に、文章を書くな、と書く。そのパソコンに変化が出たら教えてくれないか」
「わかった。また書くのが止まったよ」
私は
『お前は誰だ。俺の日記に文章を書くな』
と書いた。
「先生の文章が出たよ、不審文のあとに・・・」
理恵が見ているタブレットパソコンの不審文のあとに、私の書いた文章が現れた。
私は他のデスクトップパソコンを見た。
「デスクトップは二台とも、何も出てない。変化はそのパソコンだけだ・・・」
マリオン、このタブレットパソコンと他のデスクトップパソコンの違いは何だ?
「タブレットパソコンが議長で、他が議員なんだ・・・」
「何だって?どういうこと?」
「このタブレットパソコンに、他のパソコンの文章が集められるんだと思うの」
不審文は理恵が見てるタブレットパソコンだけだ。もしかしたら・・・。
「俺が書いた文章のあとに、ただちに消せ、と書いてみて・・・」
「・・・書いたよ」
私が見てる理恵のタブレットパソコンに、何も現れない。
「今度は、理恵が書いた文と、俺が書いた文を消去して」
今日書いた文章だ。消去はできるはずだ・・・。
「了解・・・」
理恵は文章を消去した。
私が見ているタブレットパソコンから、
『お前は誰だ。俺の日記に文章を書くな』
の文章が消えた。
「理恵がいうとおりだ。議長意見は議員に伝えられないが、議員の意見を却下できるんだ。そのタブレットパソコンがメインで、他はサブだ」
誰かわからないが、内容は的を射てる。政治に関心ある者が書いてる・・・。
「他にも、稼動してるサブパソコンがあるんだね?」
理恵はタブレットパソコンの不審文を見ている。
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