11、離婚前提

 時   二〇二五年七月二十日(日)正午前

 場所  N市T区、自宅 



 理恵たちがやってきた。菅野のくわしい自己紹介とともに、バーベキューパーティーがはじまった。

 理恵は細事にこだわらないおおざっぱな性格だ。菅野は長身で外見は理恵に似ているが、几帳面な性格は理恵と似ていない。二人とも互いの性格を受けいれようとしない。二人がなじめないのは見ていてよくわかる。

 私はなぜか酔えず、何とか話を合わせていた。理恵と妻は酔ってしまい、ふだんは飲まない、と聞いていた菅野も、かなり酔っていた。


 夕食がすんで片づけが終わった。

 妻と理恵は雑談しながら居間で横になった。

 私はオープンキッチンでビールを飲みながら、バーベキューの残りをつまみ、菅野に、理恵との生活を訊いた。

「性格が合わないから、別れるつもりだ」

 菅野は淡々と言う。

 二人とも考え方の相異から、互いを思いやる気持ちが薄れていた。

 結婚当初のちょっとした行き違いが、そのまま大きな溝に発展した夫婦だった。夫婦生活も菅野はかなり淡白だった。


「それじゃあ、理恵さんに興味がないんだ」

 私はそれとなく言い、菅野と顔を合わせぬよう、皿のチーズステックを口へ運んだ。

「理恵はあの顔とスタイルだから、人目を惹きますよ・・・。

 でも、いっしょに生活したら、おおざっぱな性格は、事細かな銀行員に不向きです。こっちが家事まで面倒見なきゃいけない」

 菅野は、自分は一般人と立場がちがう、と言いたいらしかった。


「二人で家のことをしないのかい?」

「僕は、男ですよ」

 菅野は、お前は家事をするのか、と軽蔑するように私を見ている。

「まあ、子供ができれば、女は家にいるんだからね・・・」

 私は調子を合わせた。

「子供を持つ気はないです。理恵も働きたいらしいし・・・」

「そうか・・・」

 子供を持つ気がないのはお前だけだろう。お前は、理恵を自分の母親のようにしたいのだろう・・・。私は憤慨した。


『省吾、こいつはクラリックに洗脳されてる。怒りの感情は悟られるぞ』

 了解した・・・。

「離婚したら、二人はどこに住む?」

 私は怒りをおさえて訊いた。

「今住んでるマンションは僕の親父の物だから、僕が住みます。理恵の実家もW区にあるけど、理恵と不仲な兄夫婦だけだから帰れない。新しい所に移るしかないです」


「慰謝料は?」

「ありませんよ。二人とも合意だから」

「理恵さんの住む所が無くなるんだ」

 なんて奴だ。理恵を大切には思わないのか?嫌ってるのか?

「新しい物件を探してやりますよ。銀行を通じて探せば、すぐ、安く借りられる・・・。

 奥さんも、田村さんと離婚するって、僕と同じようなことを言ってたけど、そうなんですか?」


『こいつ、ケイコに関心があるぞ・・・』

 わかった・・・。

「まあ、妻も似たようなもんだね。離婚したいとなれば見境がない。あとのことなど考えてない。独りになっても親の遺産がかなりあるから、生活は困らないはずだよ・・・」

 菅野へ当てつけのつもりだったが、親の遺産と聞き、菅野は妻の親の遺産に興味を示した。勤務先の銀行に預金させたいらしい。


「それなら、どうして、いっしょにいるんです?」

 菅野は何か考えているらしかった。

 私は、酔って眠っている妻と理恵を見た。

「独りで居られないからだろうね・・・。

 今日はこのまま、うちに泊まればいい。二人にそれぞれ部屋を用意したから、二部屋に分かれても、一部屋でもいいよ」


「さっき、奥さんからも理恵について聞かれたんです・・・。いっそのこと、たがいに離婚前提で、妻を交換しませんか?」

『省吾、こいつ、理恵が省吾をどう思ってるか、聞きだしてる。それに酷いマザコンだぞ』

 思ったとおりだ・・・。母親のような存在を欲してるんだ・・・。


「いつから?」

「今から、どうです?」

 菅野の返事に、私は思わず吹きだしそうになった。

『笑っちゃだめだ。嫌そうに承諾して』

 了解。

「いいでしょう・・・」

 私は、渋々、承諾したように言った。


 菅野は理恵と妻を起こして説明した。

 理恵は菅野の説明に納得したらしかった。妻は、菅野との同居で私と距離ができる、と考えたらしく、私と理恵がどうなろうと気にしていないようだった。

 急遽、話がまとまった。後日、荷物を運ぶ予定で、夕刻、菅野は妻を連れ、代行ヴィークルで、菅野のマンションがあるW区へ帰っていった。


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