第112話 やっぱり眼鏡なんか大っ嫌ぃ!



「んーーーー、流石に今日は疲れたわ。。。帰ったら桃にマッサージでもしてもらわなアカンな♪」


「。。。待ってたっスよ、先輩♪」


「なッ!」




 新魔法協会本部の会長室。

 予定よりも大幅に延びた会議も漸く終わり、帰路に着こうとしていた雪乃は暗い部屋に入るなり魔法を帯びた幾本ものに囚われる。




「誰ゃ。。。ウチにこないなことして、何が目。。。。。クッ!そこは、ダメ。。。」




 まるで獲物に襲いかかる蛇の様に這いずる紐達は、一瞬にして雪乃の自由を奪い、この二年で更なる姉力の向上を果たした艶やかな肢体にキツくキツく絡み付く。そして物理的拘束を終えたソレらは、操る魔法を阻害レジストしても解けはしない。




「イヤだなぁ♪誰!だなんて、ボクですよボ〜ク♡。。。ねぇ、先輩?

 たった二年ぽっち会わなかっただけで、ボクのこと忘れてなんか無いっスよね。。。?」




 阻害雪乃対策。。。

 暗い部屋に息を潜ませ、雪乃を待ち伏せていたのは二年前に死んだはずの紫電色の戦乙女。正確には、ダークネスと化した命にグチャグチャに壊された本体オリジナルに、人知れず最期の止めを刺した分身体の培養クローンである。




「すみ。。。ちゃん?」


「そおッス♡先輩の可愛い可愛い後輩のぉ〜、スミレッス♪良かったぁ、もし先輩が思い出してくれなかったら。。。スミレは悲し過ぎて、先輩のことついブチしちゃってたかもしれないッス♪

 。。。先輩?スミレ再会はスゴく嬉しんスけど、実は今。スミレは国連の反魔法組織に飼われているッス。そして今夜、スミレ達はこの旧日本跡地へ大規模な侵攻を開始するッス。。。。。」


「なんやて!?そんなこと許されるワケ」


「。。。先輩、先輩は焦り過ぎたんス。世界は未だダークネスロリッ娘の恐怖を忘れていないッス。

 そんな中で魔法を使える集団が独立を宣言すれば、魔法使い達が再び世界に牙を剥こうとしているとかなんとかその恐怖心を煽って、容易に世論を味方に出来るんス」


「そんな。。。ウチはただ」


「先輩、先輩は昔から優しくて正しぃ。。。スミレはそんな先輩が大好きッス♪だけどやっぱり、力無き正義はただの夢物語でしか無いんスょ」


「せやけど!それでもウチは。。。(ン!!!)」


「。。。。。先輩。無条件降伏、してくれないッスか?」




 スミレは雪乃にキスをし、寄り添いながら耳元で囁願をする。それは決して叶わない恋への惜別のキス。。。彼女は、雪乃が降伏などしないことを知っている。そして培養クローンである彼女の体内には、自爆装置制御端末が組み込まれていて雪乃がNOと返答した瞬間に、ソレは起爆するだろう。。。


 半径50キロは軽く吹き飛ぶ、魔力の暴走を利用した最新の魔法少女爆弾戦略兵器。しかも端末に行動を制限されているスミレには、雪乃を逃がす護ることも、自ら死ぬ止める事も許されてなどいない。


 言わばスミレは現在いま、魔法少女達が近く辿ることとなるかも知れない運命を先駆けている。それでも雪乃と共に終われるのならば、飼い殺されても悪くは無ぃ。。。そう考えた諦めた上でのキス、そして抱擁であった。




「コニャニャチ、おっとっと!うわー、もしかしてお取り込み中。。。だったかな???」




 しかしそんなシリアスな空気をブチ壊す様に、暗い会長室にもう一つの影が現れる。それは影と言うよりは、白くてニョロン♪と愛らしい

 かつて偽りの白き姉に、闇へと堕ちた魔法少女の体内に寄生していた本体を壊され、消滅したはずの、若しくはである。




「あ〜。。。コレはコレは誰かと思えば、えらい懐かしいさんやないか♪」


「ヤァヤァ♪久しぶりだね。。。えっと、今は雪乃?で良かったんだっけ?」


「そやね、今のウチは雪乃でおうとるよ。それで?ずっと音沙汰無かった妖精さんが急にこないな所にどないしたん?」


「イヤね♪漸くコッチの世界に復活出来たからさ、久しぶりに世間話でもと思って来んだけど。。。。。そういうプレイ中なら出直すよ???」


「ウッフフフ♪プレイ中て、ウチがどんな楽しいことして見えたん?」


「せ、先輩!今は笑い事じゃ!!!」


「。。。フフ、スミちゃん?そないな火の着いた爆弾でも持ったみたいなお顔して、何をそんなに焦っとるん?♪」


「だって!私の身体には、爆。。。!?アァァァァァァァァァァァ!!!!!」




 身体が内側から引き裂かれる様な痛みはある。しかしどういうワケか、スミレの身体が爆発四散することは無い。

 そしていつの間にか絡み付く紐を凍て砕いていた雪乃と、逆に首から下を氷漬けにされていたスミレ。困惑と怯えの混じる顔の彼女に、雪乃はいつものしい眼鏡越しの笑顔をただ向けるのだった。。。。。




『最終話となる予定でしたが、長くなり過ぎましたので2、若しくは3話に分割します。申し訳ございません。』

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