三章幕間 喪うモノ、得るモノ②



 海上を隔つ、虫かご風の結界魔法が消え去った頃。珍しく穏やかに喧騒する夜街の空を、一陣の颯が吹き駆けていた。




「。。。ふ、ぶき」


「喋ってはダメ!一颯は私が絶対助ける!あと少し、あと少しで協会本部だから!もう少し頑張って!」


「ふ、ぶき。。。お、願い。下ろし、て。。。」


「ダメ!!!本部に着けばきっと、きっと一颯は助かるの!着けさえすれば、きっと、大丈夫だから!」


「ふぶき。私の、さいごの、おねがい、だから。。。」


「。。。ヤダ!!!最期なんて言わないで!!!

 一颯は助かる、助かるの」


「おね、がい。。。もう、魔力の、、が、始まる。。。だから。。。最期は、二颯とふたりが、いい」




 あと少し、きっと大丈夫。

 そう自らにも言い聞かせながら、ポタリポタリと延々降り急いでいた颯の赤き軌跡は、目に着く限りで一番高い高層ビルの屋上に止んだ。




「ふ、ぶき。。。?何だか、今日はとっても、静か、だね?」


「肯定。。。悲鳴一つ聞こえない、良い夜。。。」


「ふぶき。。。?もう少し、ココ、お肉着けないと、男の子、に、モテない、ぞ?♪」


「否定。。。私は一颯が居れば、男なんか要らない。それに私の胸は一颯より2㎝大きい勝っている、だから寝心地は私の方が良いに決まっている」


「フ♪妹の、クセに、生意気、だぞ。。。?帰ったら、いっぱい、いじめて、大きく、して、あげ、る。。。」


「。。。今日は、私の、番だけど。

 特別になんでも許すから。だから、一緒に帰ろう?帰って、シャワーを浴びて、いつもみたいに。。。二人で一緒に、」


「ふぶき、ごめん。。。ね」


「嫌だょ。。。謝らないで。本当にごめんと思うのなら、私を置いて、逝かないで。。。」


「ごめん。。。ふぶき、私の、さいごの、おねがい。聞いて、くれ。。。る。?」


「うぅ。。。なぁに?」


「。。。トドメを、さし、て?」


「!!!?そんなの出来!」


「もう魔力が!(ゲホ、ゲホゲホ。。。ゴポ)。。。抑えて、おけない、の。

 私は、あの子の、一部に、なんか、なりたく、無い!。。。だから、その前に、私の全部を。。。二颯に、あげたい、の。。。。。。ずっと、ふぶきと、一緒に、居たい、から。。。おねが、い、私を、殺し、て」


「。。。お姉ちゃん」


「ふぶき、愛、して、る。。。ずっと、側に、居るから。お、ねがい。。。」


「お姉ちゃん。。。」




 双人が最期に交わす唇は、総てを奪う致命の口付け。

 哀しき涙に濡れる妹とは対照に、胸に懐かれる姉は幸すら垣間見せるほど穏やかであった。



「ありがとぅ、二颯。大好きだょ♡」



 永い永いキスの終わり、緑の光粒となって崩れ逝く魔法少女は惜別の涙を浮かべつつも、



「一颯!私も大、」



 優しく微笑みながら、妹の中へと霧散した。



「好き。。。。。。い、ぶき?。。。一颯。

 イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」




************




 悲痛な叫びが止んだ跡。

 赤みを帯びる月下に佇みしは、独り遺された

 その胸には唯一残ったお揃いの髪留めを、その身には殺した姉の総てを、



「殺す。。。アイツだけは、赦さない!!!」



 そしてその心には激しく吹き荒ぶ復讐の狂嵐を宿す。

 新たに深く哀しき深淵の底へと堕ちた緑色の魔法少女もう一人の妹が独り。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る