第三章 森と砦と
3.1 森の中の遺跡にて①
滑らかに削ってある羽根ペンが、茶色みを帯びた『紙』に流麗な線を描く。
「……できた」
修辞の時間に習い覚えた短文を書き終わり、羽根ペンを紙から離したサシャの、微かに赤らんだ頬に、トールは静かに頷いた。
まず、この森に自生する植物を観察し、北向の都の側にある湖で漁師見習いをしているクリスが教えてくれた弾力のある植物に似たものを探す。幾つかの候補を採取し、剥いだ皮を薪の灰と共に煮てから、別の水に浸して不純物を取り除く。そうやって取り出した『繊維』を丁寧に叩き、適切な長さに切って水に溶かし、近くの川沿いに自生していた細く丈夫な葦の茎を並べて木枠で留めた漉簀に流し込む。漉簀の上に平らに溜まった繊維を乾かせば、紙のできあがり。小学校の遠足や工学部の授業の一環として和紙作りを見学した時には簡単そうに思えたが、実際に作ろうとしてみると、植物の皮を煮るのも、紙の水素結合を確かにするための叩解も、実際に紙を漉く作業についても『難しい』以外の言葉が見つからない。インクの滲みを小さくするために漉く時に加える、動物の皮や骨を煮て作る『膠』の入手も大変だったし、羊皮紙と同じように『紙』の表面を滑らかな石で磨いて見た目を良くする工夫もサシャと一緒に行った。その結果が、この、見た目は良くないがきちんとインクが乗る、判読できる文字を書くことができる『紙』。
「作り方、ちゃんと書いておかないと」
机代わりに利用している、上面が滑らかな岩の上に羽根ペンを置いたサシャが、トールを手にしてページをめくる。
[あの丈の高い草、押し葉にしておくと良いんじゃないか?]
『本』であるトールに触れるサシャの柔らかい指にくすぐったさを覚え、トールは唇を横に引き結んで感情を抑えた。
「うん」
小さく頷いて再び羽根ペンを手にしたサシャの背後で、肩を並べて勉強しているトールの友人、
同時に思い出したのは、北向の都の南側に広がる『
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