第45話 反撃
「全力で相手の前線をかき回せ」
宮間が続ける。
「お前はどうせ前半途中で交代だ。体力をこの十分で使い切れ」
「ひど~い」
またかすみは腰をくねらす。しかし、確かにかすみは前回の試合は前半で交代だった。
「思いっきり追い掛け回せ。つぶれてもいい。死ぬ気で追いかけろ。出し惜しみするな」
宮間は、力強く言った。そして、その後、何事かかすみに耳打ちした。
かすみは試合が再開すると宮間に言われた通り、最前線からめくらめっぽうその俊足を飛ばしてボールを追いかけまわした。かすみは性格はおっとりしているが、そのキャラクターに似合わず足は本当に速かった。それがあきらめることなく次から次へとプレッシャーをかけてくる。これには相手選手も驚いた。相手選手のパス回しも焦りが出て、少しずつバックパスが増え始める。
すると次第に、金城の最終ラインが少しずつ上がってきた。それに連動するように前線の選手も自然と前がかりにいけるようになってきた。
「よしっ」
宮間がしてやったりと呟く。
金城が前からプレッシャーをかけられるようになると、相手はちょっとした混乱状態になっていった。明らかにミスが増え、前に行けなくなっていく。
宮間は味方に更に細かく指示を出し、相手を追い詰めていく。そういった指示には不思議と右サイドハーフの麗子も素直に従う。
すると、その相手の混乱の隙を突き、宮間が相手のパスをつっかけ、マイボールにした。そういう相手の弱ったところを突くのが宮間は本当にうまかった。
そして、それを素早く走り出したかすみに送った。かすみは宮間のボール奪取と同時に、すでに一瞬のスピードで右サイドの裏に抜け出していた。宮間はこうなることを予測し、かすみにボールを取ったらすぐに相手DFの裏に走り出すように耳打ちしていた。
「は、速い」
繭がそのかすみの動き出しの速さに驚き、ベンチで思わず叫んでいた。かすみはやはり、一瞬のスピードは超人的なものがあった。
そして、そこにボールが通った。かすみは完全に裏を取った。しかし、シュートを狙うには角度があり過ぎた。更にゴール前には誰もいない。
「・・・」
仕方なくかすみは一瞬の判断で反対サイドのやや下がった位置のかおりに、低く速めのクロスを送った。
それはうまく相手DFの間を抜け、かおりの足元に届いた。しかし、その位置もシュートを狙うには遠く、角度もあり難しかった。しかし、であるにもかかわらず、かおりは何の躊躇もなく、ワンタッチでそのままおもいっきりシュートを打った。
「おおっ」
その判断の潔さと、狙いの意外性に観衆から、声が漏れる。
難しい角度で少し距離があり、しかも横からの速い難しいボールであるにもかかわらず、かおりはしっかりとそのボールを足に当てた。かおりは身長が大きい割に、本当にゴール前での足元のシュート技術は高かった。
「おおおっ」
観衆から更に大きな声が上がった。かおりの放ったシュートは、ゴール右隅上に向かって巻きながらキレイな弾道で飛んでいく。
観衆も繭たちベンチメンバーも、ピッチの敵味方の選手たちもその弾道をスローモーションのように見つめる。
そして、
「やったぁ」
繭はベンチで立ち上がり飛び上がった。かおりのシュートは見事狙った通りゴール右上隅のボール一個分の隙間に収まるようにきれいに決まった。これには、相手ゴールキーパーもどうしようもなかった。
「おおおおっ」
シュートの見事さに、少ないながら観衆から大きな拍手と歓声が溢れるように起こった。
かおりは強みのシュートの巧みさで、ゴール右上ぎりぎりに、シュートを見事叩き込んだ。
「やった、やったぁ」
ベンチでは繭以下、今日は同じくベンチスタートの志穂と信子さんとたかしとが抱き合って飛び上がるようにして喜び合った。
金城は一点返した。一瞬の隙を突いた、素晴らしいゴールだった。
「かおりちゃん、すご~い」
繭は興奮して飛び跳ねながら思わず手を叩く。今までの沈滞したムードを一気に吹き飛ばす本当に素晴らしいゴールだった。
ピッチの選手全員がかおりの下に集まり、その全身を叩き、手荒い祝福を送る。
「お前は天才、天才」
野田と仲田がそう叫びながら、バシバシとかおりを叩く。かおりは味方選手にもみくちゃにされながら、笑顔でそれを受けている。
「よくやった」
宮間もかおりに近寄りその高い位置にある背中を叩く。宮間もご満悦だった。
「いける。いける」
ベンチの繭もさっきまでの落ち込みはどこへやら、興奮し拳に力が入っていた。
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