第37話 試合には勝ったが・・

 ピーッ、ピーッ、ピーッ

「勝ったな」

 終了のホイッスルと同時に、勝ち誇った顔でにやりと宮間が笑みを浮かべる。

 19対0

 圧倒的な勝利だった。金城町の選手たちも、久しぶりの勝利に全員安堵と共にうれしそうな笑顔を浮かべる。

 今季初勝利に、監督も信子さんも笑顔で喜んでいた。

 それとは対照的に、相手選手は虚ろな表情で俯き、中には泣いている選手もいる。

「・・・」

 繭は、そんな光景を見つめ、サッカーの残酷さを知った。勝つチームがあれば負けるチームもある。それは当たり前のことなのだけれど、それはやはり残酷なことだった。

「勝負って残酷だな・・」

 繭は一人呟いた。

「勝ったぜぇ」

「わっ」

 そんな感傷に浸っていた繭の視界いっぱいに、試合の疲れなどどこ吹く風な元気いっぱいの宮間が現れた。

「はっはっはっ、参ったか。この野郎」

 そして、悲しみに暮れる相手選手のところに行って、自分を誇示するように、相手選手たちに向かって大きくブイサインを出しながら、満面の笑顔で相手選手に迫る。

「へっへっへっ、どうだ参ったか。えっ、参ったか」

 他のチームと対戦すれば自分たちも弱いことなどつゆ忘れ、宮間は相手選手たちの顔を覗き込むように大いに勝ち誇る。

「な、なんて、大人げない・・💧 」

 繭が味方ながらちょっと引き気味に呟く。

「へっへっへっ、参ったか、この野郎、この野郎」

 相手選手はあまりの大敗に心底ショックを受けている様子だが、宮間はそんなことおかまいなしに、瀕死の動物に更にとどめを刺すかのようにちょっかいを出すことをやめない。

「またやろうね、まっ、また勝っちゃうけどね」

 宮間は調子に乗りまくっている。

「・・・」

 しかし、心のできている隣り町商店街の選手たちは、そんな宮間を相手にせず、スタンドに立つ応援団の前までゆっくりと歩いて行った。

「応援ありがとう。不甲斐ない試合を見せちゃってごめんなさい」

 そして、その前で深々と頭を下げた。

「本当にごめんなさい」

 応援団の一団がそれを見つめる。大差の大敗。罵声を浴びせられてもおかしくない場面だった。

「いいんだ」

「またがんばろう」

「次だよ次」

 しかし、応援団の中からは、温かい声が次々と起こった。

「ありがとう」

 選手たちはそんな温かい言葉に涙をこぼした。

「よくがんばったよ」

「うん、最後まで諦めず戦ったよ」

「うん、よくやった」

 応援団の中から、更に温かい拍手まで起こった。

「ありがとう」

 選手たちはそんな温かい対応に涙を溢れさせた。

「へへへっ、負け犬同士、励まし合ってな」

 しかし、宮間は、そんな空気に水を差すように、まだ一人ちょっかいを出している。

「スポーツマン精神の欠片もない・・、というか、人間としてどうなのか・・💧 」

 繭がそれを見て呆れ、呟く。

「もう、恥ずかしいわね。やめなさいよ」

「なんだと」

 麗子だった。

「あちゃ~」

 繭は目を覆った。共通の敵がいなくなったとたん、二人の対立は、あっという間に復活した。

「お前がなぁ、もうちょい動けたら、もっと点取れてたんだぞ」

 宮間がすかさず言い返す。

「あらっ、あなたが調子に乗ってゴール前に陣取ってるから、他の選手が邪魔で点が取れなかったのよ」

「なんだとコラッ」

「何よ」

「まあ、まあ」

 そこに、慌てていつものように野田と仲田、志穂が仲裁に入る。

「試合には勝ったわけですから、仲良く仲良く」 

「だいたいなぁ、お前は・・」

 しかし、宮間と麗子がそんなことで収まるわけがない。ヒートアップしそうな二人の喧嘩に他の金城のメンバーも慌てて駆けつけ、二人を囲むように止めに入った。

「俺たち、これからも何があっても応援していくから」

「うん、絶対応援する」

「ありがとう」

 金城の二人の醜い対立の一方で、隣り町商店街の選手と応援団の間には、負けた中にも新たな感動と絆が生まれていた。

「試合には勝ったけど・・、なんだか人間としては負けた気が・・💧 」

 繭は、そんな相手選手たちの姿を見て思った。

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