パンの夜明け 前編
ツカサは能力だけが武器ではない。
話術、コネ、情報網。
そして前世の知識が役に立つこともある。
今回はそんな話。
「ドッブレさん今月の利息分受け取りに来ましたよー」
日が昇る前。
ツカサがパン屋の裏口から現れ、金の徴収に来ていた。
「あぁツカサか!よく来たな。ほら!これが今回の利息分と少し返済分も入れといた」
ツカサの呼び出しに答えたのは屈強な身体にいくつもの傷がついた歴戦の兵士を思わせる男だった。
「おお!儲かってるんですね!兵士をやめてパン屋に転向するって聞いた時はどうなるかと思いましたけど」
「そこは俺の腕前と兵士時代のつながりでうまくやってるさ!近くの駐屯地にパンを収めることになってから大儲けさ!ははは!!あいたたた……」
「おっと?どうかしました?」
「いや、兵士をやめる原因になった腰痛が最近酷くてな」
「教会とか病院は?」
「行ってみたが魔法はその場しのぎだし薬も痛み止めがそんなに効かねぇんだよ」
ドッブレは腰を叩きながらツカサに説明した。
「体調には気をつけてくださいね」
「おう!お前らに金返すためにも頑張るぜ!」
ツカサは少し心配ながらその場は帰ることにした。
「ドッブレさんが腰痛で倒れた!?」
「教会の治癒でも医者の薬でも駄目らしい。医者の見立てでは全治二週間だそうだ」
ツカサはスケイルの部屋に呼び出され、話を聞いて驚いた。
「ギックリ腰かヘルニアか?とにかく安静にしとかないと……」
「ギック?ヘル?なんの話だツカサ?」
「あ、なんでもないです!でも二週間安静にしてて治るなら良かったじゃないですか」
「いいわけないだろ。店の営業もだがドッブレは駐屯地にパンを納品してるんだ。一度でもそれが止まったら彼の信用はガタ落ち。二度と軍関係の仕事は来なくなっちまう。そうなりゃ店をたたまなくちゃいけなくなる」
「そ、それ大変じゃないですか!」
スケイルの説明を受けて自体の危険性を理解するツカサ。
「よってツカサ!お前にこの事態の打開を頼みたい!うちの名前や権力にお前の能力!何をしてもいいから店の営業と駐屯地への納品をなんとしてでも完了させろ!」
「待ってくださーい!」
「話は聞かせてもらったっす!」
スケイルの部屋の扉から少女と女性の声が聞こえた。
「自分達にも何かさせてほしいっすよ!」
「わたしもー!」
扉が開くとそこにはトリスとミーファがいた。
「はじめまして。ドッブレの娘でスプレっていいます。今回は父のためにこんなに来ていただきなんとお礼を言ったらいいのか」
頭を下げるスプレは茶髪に緑目の少し幼さが残る体型をしたエプロンの似合う少女だった。
「気にしないでくれ。さっそくだけどスプレはパンを作ることは出来るのか?」
「これがわたしの作れる唯一のパンなんですが……」
スプレが出してきたのは少し長細い表面も程よい茶色をしたなんの変哲も無いパンだった。
「じゃあみんなで食うか」
「いただくっす」
「いただきまーす!」
ツカサ、トリスとミーファはそのパンを一口食べた。
「う、不味くないっす!決して不味くは無いっすけど……」
「何か物足りないのー!」
トリスとミーファの反応はイマイチだった。
「これは……コッペパンじゃないか!」
「「「コッペ?」」」
「あ、いやなんでもない!とにかくこれ単体じゃ物足りなさが勝ってしまうな。そうだ。ここに砂糖とバターはあるか?」
「え?ありますけど……」
スプレは砂糖とバターを取り出した。
ツカサはパンを横に開き、そこにバターを塗り、砂糖をふりかけた。
「な、何するんすかツカサ!」
「食べ物で遊んじゃ駄目ですよー……」
「いいからいいから……よし出来た。これを食ってみてくれ」
「えー……」
「お砂糖入ってる……」
「騙されたと思って!」
「わ、私食べますっ!」
スプレが先陣を切ってツカサのパンを一口食べた。
「……美味しい!まるでお菓子みたい!」
「え?本当っすか!?」
「じゃあわたしもたべるー」
スプレの反応を見てトリスとミーファも一口食べた。
「す、すごいっす!甘くて美味しいっす!」
「ツカサさん!パンにも詳しいんですかー!?すごーい!」
「あーまぁそんな感じだよ。もしかして甘いパンや惣菜の入ったパンなんて聞いたことない?」
ツカサはこの時の皆の反応からこの世界ではまだパンは主食という概念から抜け出していないのではないのかと考えた。
「自分は無いっすね。でも美味そうっす!」
「わたしもなーい!」
「父からそんな話は聞いたことないですね」
「やっぱり、でもそうなら何とかなるかもしれない!」
「本当ですかツカサさん!」
ツカサの発言に笑顔を取り戻したスプレ。
「スプレは早速このパンを大量生産してくれ!」
「分かりました!大急ぎで仕込みます!」
スプレは大急ぎで小麦粉を取りに行った。
「トリスとミーファは俺と一緒に来てくれ!材料を仕入れに行くぞ!」
「材料?パンの材料ならあるっすよ」
ツカサの指示にトリスが疑問を抱く。
「確かに純粋なパンの材料ならここにあるな。でもこれから俺たちが仕入れるのは今まで誰も考えたことのないパンの材料だからな!」
ツカサとトリス、ミーファの三人は市場の方に向かって歩き出した。
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