108話 HUNTER研究所 ~ザナへの来客者~
◆◆◆
この街、ザナの門には人が集まっていた。
俺は急いで門へ向かう。
途中、マールと合流し状況を確認する為問いかけた。
「おい、マール! 何があった?!」
「わかんないよォ。銃声が聞こえて慌てて来たんだよォ」
どうやら空耳ではないらしい。
俺が作業場で取引している時だった。
あの響き渡る銃声を聞いたのは⋯⋯。
カチャーータッタッタッーー
俺は念の為、銃を手に持ち入口に向かった。
プリンに頼まれた以上、何か問題が起こっては困る。
「どうしたっ?! 何があった?!」
入口に着くと、門に集まる人混みを掻き分け事態を把握する。
どうやら怪我人は出ていないようだ。
すると銃声は外からか?
誰かが撃たれたって事はなさそうだ。
それを確認すると俺は安堵し、門の外から聞こえる少し
「開けてくれませんか? 暫く外にいて⋯⋯もう歩けません。助けて下さい⋯⋯」
声の主は女だ。
俺はその様子を確認する為、門に付いている小窓をゆっくりと開けた。
ーーパコッ。
「⋯⋯誰だ?」
「あっ⋯⋯私は⋯⋯クリス、クリスよ。お願いします。入れて下さい。怪我人もいるのです!」
その女はクリスというらしい。
そしてクリスは怪我人を見せる為、そいつの腕を掴み無理矢理小窓の前に立たせた。
怪我人という割にはやけに雑に扱うな⋯⋯。
俺はこいつらに胡散臭さを覚えた。
「そいつ、怪我人か?」
「え、えぇ。ほら⋯⋯この通り!」
「ヴアぁぁぁぁ!」
クリスという女が怪我人の足にポッカリ空いた穴に、指を勢いよく突き刺した。
ズボンに空いた穴を見る限り、これは銃で撃たれた痕だ。
って事は相手は人か?
それにさっきからこいつら、クリスってやつに従っているようにも見える。
クリスとやらは笑顔を絶やさない言わば美形の女だが、他の男共の顔にまるで笑顔はない。
怪我人はともかく、他の奴らは皆クリスの顔色を伺っているみたいだ。
こいつらはなんなんだ?
どんどん疑問と不安が溢れ出てくる。
「お願いだ! 入れてくれ! じゃないと俺達⋯⋯っ! ぐぅあぁぁぁ!?」
怪我人が全てを言い終える前に、クリスが傷口に指を突き刺した。
「おい?! 大丈夫か? とりあえず入れ、治療してやる」
俺はそう言うしかなかった。
「ありがとうございます。よかったですね」
クリスが怪我人に目を落とし微笑む。
先程言いかけた言葉が気になるが、今はまぁいいか。
こいつの治療が先だ。
この街には幸い医者がいる。
俺はこの怪我人を医者の元へ連れて行き、その間クリスを見張っていた。
怪しい行動をされては困る。
街の真ん中の広場でクリスを引き止めた。
「おい、こっから先は入るな」
「あ⋯⋯ごめんなさい。そうですよね、私達みたいな見ず知らずの人を⋯⋯」
俺がクリスと話していると病院から出てきたマールが駆け寄った。
「あの人、大丈夫そうだよォ」
「そうか、よかったな?」
クリスのほうを向きそう問う。
正直こいつには街に居られたくない。
どうも信用出来ない。
「あっ⋯⋯え、えぇ。ありがとうございます。そちらの子は⋯⋯?」
クリスの顔に一瞬戸惑いが見えた。
「マールだよォ。よろしくねェ」
マールは何も疑っていないようだ。
するとクリスは一緒にいた男に視線を向けた。
「クッ⋯⋯」
その少し小太りの男は何か気まずそうに目線をズラす。
いずれもローブに身を包みフードを深く被っている為、その表情は伺えない。
「連れのやつ、怪我が治ったら街から出て行ってもらうぞ」
こいつらは街にいられると危険だ。
俺の悪い奴センサーが働いた。
どうも胡散臭い奴には反応するようだ。
「え、えぇ。怪我は⋯⋯どのくらいで治りますか?」
俺はマールを見た。
「あ、2、3日くらいで治るってよォ」
「ふふふっ⋯⋯そうですか。では3日はここにいてもいいですか?」
クリスは笑顔でそう問う。
「あぁ、仕方ねぇ。だが、変な真似はすんなよ」
「えぇ、わかっています」
「ならいい」
どうやら常識は弁えているようだ。
「ですが⋯⋯ここにいる間、この子を借りてもいいですか?」
「マールか? なんでだ?」
何故かはわからないが、クリスがそう言ってマールを指さした。
マールに何かあったらテンが悲しむ。
テンが悲しむ姿は見たくない。俺は危険を察知し断ろうとすると、マールが口を開いた。
「あたしはいいよォ」
「本人もこう言っているし、いいですか? 大丈夫、何もしませんよ」
何もしないと言う奴に限って何かするんだ。
でも⋯⋯マールもいいって言ってるし、俺が見張っていればいいか。
「わかった。話しをするならあそこを使え。ただ、俺が外で見張っている。その事を忘れるな」
「随分警戒されるんですね。でも⋯⋯わかりました。ありがとうございます」
そしてマールとクリス、それに小太りの男は街の一角にある丸い建物の中に入って行った。
※
「マール⋯⋯私達がわかりますか?」
マールは首を傾げた。
クリスと小太りの男は一斉にフードを外し顔を晒す。
「⋯⋯え? 兄⋯⋯ちゃん? 兄ちゃんなのォ?!」
「マール⋯⋯! 悪かったな、一人にして」
マールは小太りの男に強く抱きつき、クリスを睨み上げた。
「何ですか? その目は?」
「あんたが何でここにいるのッ?! あたし達をあんな目に遭わせてッ!」
マールは怒りを露にしクリスに怒鳴りつけた。
すると小太りの男はマールの肩を掴み宥めた。
「マール、落ち着け」
「マール、あなたに頼みがあります」
クリスの頼みは何だろうか。マールには憎しみしかない。
クリスの言葉に耳を貸さず背を向けている。
「あんたの頼みなんて聞くと思うのォ?!」
「⋯⋯私の言葉には耳を貸さないようですね。仕方ありません。ドルタ、あなたから説明してあげて下さい」
クリスはそう言うと小太りの男⋯⋯ドルタのほうを向き笑みを零した。
「⋯⋯わかった」
ドルタは、窓の外を眺めているマールの背中に語りかけた。
「マール、そのままでいい。聞いてくれ」
「⋯⋯」
「俺達のコミュニティは壊滅した。お前達が来た後、謎の狂人に襲われたんだ。それで⋯⋯俺達以外は皆死んだ。その後暫くこの世界を放浪した。そんな時、このラジオを聞いたんだ」
ドルタはそう言うとテンが録音したラジオを聞かせた。
カチャーー
「まさかお前がここにいるとは思わなかったけどな。それで、その⋯⋯テンはいるのか? プリンとかいう奴も⋯⋯いるのか?」
「⋯⋯」
「俺達を⋯⋯このコミュニティに入れてほしい」
マールは沈黙を破らなかった。
しかし何か答えなくてはと、一生懸命言葉を探しドルタを見つめようやく口を開いた。
「管理官は⋯⋯?」
マールのその問いにドルタは気まずそうに目線を外した。
「殺したのッ?!」
「⋯⋯私が射殺しました」
クリスティのその言葉を聞きマールの拳にグッと力が入る。
しかしその拳を振り下ろすのを堪え、強く言葉を投げ掛けた。
「皆に相談してみる⋯⋯でも、クリスティは入れないッ! 覚えておいてッ!」
そう言うとマールはすぐにこの部屋から立ち去りツキの元へと向かった。
※
「よぉ、マール。なんか元気ないな。何かされたか?」
マールが目に入ると、何故か元気がない。
俺の脳裏に不安が過ぎりそう問う。
「ううん⋯⋯大丈夫ゥ! そういえばプリンはァ? ちょっと話したい事があるのォ」
どこか言いずらそうに俯きながらそう言う。
「なんだ、どうした?」
「あのねッ⋯⋯」
マールはクリスティや兄の事、警察署での出来事を事細かに語った。
許せねぇ。
テンが危険な目に遭ったという事。
それを聞いた俺が黙っていられるわけない。
俺は憎しみが込み上げてきて、クリスティの元へ行こうとした。
「⋯⋯」
すると、マールは無言で「行くな」と言わんばかりに、俺の服を引っ張った。
俺はマールの頭に軽く手を乗せため息を一つ。
ここはプリンが帰るまで待ったほうがよさそうだ。
◆◆◆
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