100話 ザナ ~募集ビーコン~

 ザナに帰って来た。

 下水道の入口、梯子を登るとあの建物に出る。


 コウガの死体はというと⋯⋯下水道を抜けた先の土に埋めた。

 身ぐるみはがして⋯⋯。コウガの装備は私が着用している。あまり気分のいいものではないが。




 私達はこれからこの街に住み、住民に適度な労働とその対価を渡し、街や外壁の強化、人を集める為に様々な事をしなくてはいけない。

 街を治めるとはそういう事なのだろう。


 この街は現状とてもじゃないけど、街とは呼べない。

 壊れた建物に瓦礫、突っ込んだトラック。とにかく第一に住人の過度な労働を辞めさせた。

 無理して働いたって過労死するだけ。

 濁った空気の汚い街、それをまずは変えなくてはいけない。


 私は街の東にある丸くて黄色い建物、そこの一角をシャワー室にする事にした。

 しかし現状、シャワー室を作るような道具に機材は何もない。


 私の頭に一瞬過ぎった。管理官がいたらな、と。

 忘れていたわけではないが、管理官をどうにか見つけなくてはいけない。

 そこで私はツキに相談をしてみた。



「ね、人が集まる方法ってなんかない?」

「あぁ⋯⋯それならビーコンでも使えばいいんじゃねぇか?」



 その手があった!

 私はすぐにピンときて、早速作業に取り掛かった。


 ビーコンとはスピーカーを使い、ラジオを通して発信出来るもの。

 これを使えば、募集を聞いた管理官がここに来てくれるかもしれない。


 早速Pitboyピットボーイを開きビーコンを作り上げた。

 簡単な基本となる物なら、このPitboyピットボーイから作り出せるから便利だ。



「えっと⋯⋯募集ビーコンっと」



 これだな。必要な素材を確認した。




ーーーーーーーーーー

設計図 募集ビーコン

 材料:木材10

 説明:人を集めるのに必要。ラジオを通して募集出来る。

ーーーーーーーーーー




 これなら簡単に作れそう。

 この街に倒れている木を切って、木材としてインベントリに入れれば作れるだろう。


 私は早速トラックが突っ込んでいる建物の裏手に回った。

 そこには大量に木々が倒れている為、木材集めには打って付けの場所だ。



「あっ! おねえちゃん!」



 私がそこへ向かっていると、畑を耕しているヒナがいた。

 またイザリスと一緒に暮らす事が出来て本当によかった⋯⋯そういう気持ちでヒナの頭を撫でた。



「このトウモロコシ、またおねえちゃんにあげるね!」

「うん、頑張ってねヒナ」

「バイバイ!」



 元気になったようだ。さすがにもうトウモロコシはいらないけど⋯⋯。

 まぁヒナがくれるなら一緒に食べるのも悪くない。


 そのヒナと一緒に畑を耕しているのは母親のイザリスだ。

 イザリスはヒナと話している私に軽くお辞儀をして、再び仕事に戻った。



「木材⋯⋯結構あるな」



 近くにある為、また必要になったらいつでも来れる。

 私は必要な分の木材を両手に抱え、インベントリを開いた。



「大丈夫かい? 手伝おうか?」



 両手一杯に木材を持っている私を気遣ってくれたのは⋯⋯。



「アレンだよ。よろしくね」

「アレンね、ありがとう」



 決して名前を忘れていたわけではない。

 というか、この人を見た事がなかっただけだ。

 赤毛で背が高く笑顔が素敵な男性。


 これだけの住人がいれば全てを覚えられない。

 全員と話したわけではないし、引きこもっているような人もいる。

 皆の顔と名前を覚えるのは時間がかかりそうだ。



「あ、こんくらいでいいよ」

「そうかい? もし良かったら今度食事でも⋯⋯どうだい?」



 いきなりのナンパか。

 私は木を切るのを手伝ってくれた恩もあるし、傷付かない程度に軽くあしらった。



「あ、うん⋯⋯また今度ね」



 それも精一杯の笑顔で。



「本当かい? 約束だよ!」



 赤毛のアレンはそれだけ言うと残りの木材を渡し、足早に去って行った。



「ふぅ」



 私はその木材を元にビーコンを作った。

 そして無線も。

 街のど真ん中にビーコンを立て、スイッチを取り付けてオンオフを切り替えられるように設置した。



「これでよしっと!」



 作った無線を手に持ち試しに言葉を発してみる。



「あーあー、テスト」



 すると、ビーコンの先のほうにあるスピーカーから、私の声が反復して聞こえてきた。

 満足した私は早速募集のメッセージを作り録音した。



「えーっと⋯⋯」



ワンワンーー!



「ちょっとポチ! 今録音してるから静かに!」



 そう言えば街の外に待たせていたポチもしっかりいる。

 ポチの子屋も後で作ってあげよう⋯⋯そう思いながら再び録音に戻る。



「ここはウェスタランドの西にある街、ザナ。ここに一緒に住んでくれる仲間を募集しています。これを聞いた人はザナに集まって下さい。どんな人でも歓迎です⋯⋯って、どんな人でもは言いすぎか。うーん、この街のルールに従う人。これでいいか。皆~! 来てね~」



 こんな感じでいいかな。

 この放送を聞いたツキがすぐに駆け寄って来た。



「おまっ⋯⋯何やってんだよ?」

「何って、募集してるの! これを聞いた管理官が来てくれるかもしれないし」

「それはいいけどよ、途中のアホみたいな言葉も入ってたぞ? それに⋯⋯ラジオを聞いた変な奴まで来たらどうすんだよ?」

「アホって言うな! ってか、変な奴って?」

「いい奴ばっか集まるわけじゃないんだぞ?」



 私はこの録音を繰り返し流した。

 これで周波数を合わせた人には聞こえるはず!

 ツキに何て言われようとこの録音でいいや。また録り直すのは面倒だ。



「まぁ⋯⋯もう流しちまったもんは、しゃあないか」

「そうそう! 細かいなぁ、ツキは!」



 これを流して数日待ったらさすがに誰かは来るだろう。

 私はそんな淡い期待を胸に待ち続ける事となった。

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