96話 ザナ ~大粒の涙~
「おかあさん⋯⋯」
ヒナは深い眠りについていた。
母親の夢でも見ているのだろうか。
あんな形で裏切られて、こんな小さな体で受け止められないよ⋯⋯。
あれからずっとヒナは私の腕の中で眠っている。
気が付いたらヒナは涙を流しながら目を閉じていた。
次の日。
ヒナが目を覚ますと何かを悟ったような悲しい顔をした。
そして何も話さずぐったりと体を委ねている。
「なぁ⋯⋯どうすんだ?」
空腹で気力もなく声を出すのも精一杯だが、そんな中ツキがやっとの思いで口を開いた。
しかしその問いに答える者は居らず、私は小さく首を横に振るだけ。
プリンは顔色ひとつ変えず寝そべり天井を見上げている。
マールもまた、声を出す気力さえ残っていない。あんなに元気なマールの笑顔を再び見る事は出来るのだろうか⋯⋯。
それともここから出る事すら出来ず、このまま飢え死んでしまうのだろうか⋯⋯。
私の頭の中は、グルグルとそんな最事だけが駆け巡る。
ーーシャシャ。
こちらへ近付いてくる音がする。
「⋯⋯ヒナ!」
鉄格子の外に顔を見せたのは母親。
今更、どの面下げて会いに来たのだろうか。
「おかあさん⋯⋯!」
今まで一言も声を出さなかったヒナが口を開いた。
「⋯⋯ごめんね」
ヒナの顔には未だ殴られたアザが残っている。
ヒナの声を聞きその姿を目にすると、母親は涙を見せた。
この瞬間悟った。
裏切ったわけではなかったのだろう⋯⋯と。
「今助けてあげるからね」
この時はまだその意味が理解出来なかった。
しかしすぐに母親の目論見がわかり、私達をこの檻から出してくれる命の恩人となった。
私の膝の上に座っていたヒナが飛び立ち鉄格子にしがみつくと、母親はその小さな手を柵越しに握った。
そして鉄格子に頑丈に付いている南京錠をカチャカチャと動かし、やがて扉は開かれた。
カチャーーゴゴガーンーー
音を立てて鉄格子が開くとすぐ様ヒナは母親に抱きつき、母親もまたヒナを強く抱きしめた。
「おかあさんっ!!」
「ヒナ⋯⋯ごめんね」
二人の目には大粒の涙が。
そして私は疑問に思っている事を口走った。
「ねぇ、なんで鍵持ってるの?」
その問いに母親は簡単に答えた。
ヒナと再会出来たのが嬉しかったのか、今までとは違って自然な笑顔で話し始めた。
「勘違いさせてしまって申し訳ありません」
まず母親の口から出た言葉はそれだ。
深く頭を下げると更に続けた。
「あの後、コウガ様と⋯⋯一夜を共に。⋯⋯それで寝ている隙に南京錠の鍵を取って来ました。コウガ様はまだ起きていません。逃げるなら今です⋯⋯」
なるほどな⋯⋯と理解した。
母親は母親で苦しい思いをしてまで娘を助けたかったんだ。
裏切った⋯⋯何て思ってしまって、私は少し悪い気持ちになった。
そして最後の言葉に含みを感じた。
悲しい表情をした母親の姿がある。
「ありがとう」
私はそう言うと母親の顔を一目見て立ち上がった。
すると私達を呼び止めるように母親が俯きながら言葉を放った。
「⋯⋯助けて下さい」
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