92話 ザナ ~働く人達~
街に入りまず目に入ったのは、向かって右手にズラっと並ぶ、横長の窓が付いた丸い建物。橙色の丸みを帯びた建物が、二つずつ積み重なって出来ている。
下の建物には横長の窓が、上の建物はベランダのような鉄で出来た骨組みが突き出ている。
ここは居住地なのだろうか?
窓から見える内装は、ベッドやタンスといった人が暮らしていそうな物が置かれている。
この位置からは入口は見当たらないが、この建物はどこから入るのだろうか?
二つ奥の同じような外見をした建物の窓には人影が見える。
こちらを睨むようにジッと見ている。ここにはあまり訪問者は来ないのだろうか? 珍しくて見ているのだろうか?
どちらにせよ、そこまで凝視されるとこっちとしても怖くなってくる。
私はその人から目線を外し入口左側の建物に目をやった。
そっちはとても人が住めるような状態じゃない程朽ち果てている。
この世界ではお決まりだが窓ガラスが割れ、コンクリートで出来たその建物は酷くくすみ、おまけに1台のトラックが頭から突っ込み、そのせいでコンクリートが破損している。
しかし何故だが、その建物の中からは機械音が鳴り響き、騒がしく人がいる気配がする。
その左手のコンクリートの建物と連なるように、正面にも同じような外見の建物が見える。
正面の建物の窓を見上げていると、その真下にある入口に誰かが入って行くのが見えた。
後ろ姿だが一度見たら忘れない程の長髪の白髪⋯⋯あの男だ。
やはりこの廃墟にしか見えない建物に、人が住んでいるのだろうか?
「まずあそこ見てみるぞ」
私達は左手のコンクリートの建物に足を運んだ。
中へ入ると⋯⋯ここの住人なのだろうか? 沢山の人が何かの作業をしているようだ。
機械音の正体は木材を切る機械やミシンの音、さまざまな音が混ざり合い、あのような騒がしい音が外まで聞こえていたのだ。
皆、入口から中央を避けズラっと並ぶ木の机に向かい、黙々と作業をしている。
そしてその中央には一つの長テーブルが。
そこには一人の老婆が座っており、カゴに入った物や後ろに並ぶ棚から物を取り出し、目の前の一列に並ぶ人々に配っている。
ここは何なのだろうか⋯⋯? 皆何をしているのだろうか?
そんな疑問がある中、私はこの建物の中をくまなく見渡す。マールがいないか探す為だ。
「ここにはいないな」
そう言うとプリンは振り返り入口の外へ歩いた。
「え、もうちょっと見てみようよ。何してるのか気になるし」
その私の言葉を無視するかのように強ばった表情で再び外へ歩き出した。
「ここには遊びに来たわけじゃない」
確かにそうだけど⋯⋯。
私は後方をチラチラ見ながら、膨れた顔で先を急ぐプリンの後を追いかけた。
そしてプリンは、先程白髪男が入って行った建物に向かった。
入口に立ち、割れた窓から顔を見せる白髪男を見上げた。
「いくぞ」
その声と同時に私達は中へと足を運ぶ。
中には、天井から崩れたであろう瓦礫が散らばっていて、中央にひっそりとある上り階段が瓦礫に埋もれて顔を出していた。
先程入って行った白髪男は、こんな小汚い所に住んでいるのだろうか?
益々不安になってきた。
ガタッーーバキッーーガッーー
今にも崩れ落ちそうな階段を上る。
二階に上ると一つの部屋を除き瓦礫に埋もれていて、通路すらまともに歩けない状態だ。
そして瓦礫に埋もれていない唯一の部屋。その扉を開く。
ギィィィーー
「どうだ? ザナは気に入ってくれたかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます