54話 烈火の中のオートマン ~絶望~

「やめて!」



 私は銃を向けている男を睨みながら管理官に覆いかぶさった。本当は怖いけどもうダメだと思った管理官が無事だったのに、これ以上殺させない。



「ほほう⋯⋯ねぇちゃん、どいたほうが身のためだぜ? 俺はねぇちゃんごと撃つ事だって出来る。そんな使い物にならねぇロボットかばったっていい事ないぜ?」



 男は撃つ気満々らしい。でもここでどいたらダメな気がする。管理官は大切な家族だしこのまま男の好きなようにはさせない!



「どく気はねぇみてぇだな。フン⋯⋯ねぇちゃんの根性に免じて殺さないでおいてやる」

「あんた達の目的はなに?」



 銃口を下げた男に私がそう問うと、男は鼻で笑いながら無茶な事を言ってきた。



「俺達の望みはただ一つ。仲間を殺した代償を払ってもらう。何かわかるか? 供給だ」



 男は声高々にそう言った。



「供給って⋯⋯こんな世界で供給なんて無理だよ」



 ここの菜園だってもうほとんど荒らされて修復不可能なくらいになってるのに、どうやって供給しろって言うの?



「いいか、もう一度だけチャンスをやる。供給をしろ。食料を俺達に定期的に持ってくるんだ。俺は気が長いほうじゃない。答えを間違うな」



 そう言うと男の仲間達がタンクを持ち菜園の各所に移動した。



「な、なにする気?」

「いいか、答えろ」

「だから供給は無理だって! あんた達に与える食料なんてこれっぽっちもないし」



 私がそう言うと男は銃口を私に向けた。



「それがねぇちゃんの答えだな。よし⋯⋯」



バンーー



 男は口元を片方だけひきつらせ私を見た。

 そして私に向けていた銃口を天井に向けて発砲した。



「え⋯⋯?」

「ねぇちゃんは答えを間違った。悪いな」



 そう言って男は建物の外へ歩いて行ってしまった。


 私はこれから何が起こるのか考えるのに少しの時間がかかった。

 建物の外を見ると男の仲間達が持っていたタンクから何かの液体を菜園中にばらまいている。



「ちょっと! 何する気よ?」



 私がどうあがこうが時すでに遅かった。


 男が私に背を向け菜園の外に足を運んだ瞬間、仲間達がマッチに火を付けそれを地面に落とした。

 こいつらこの菜園を燃やす気だ。

 そう気づいた私は管理官を連れ出そうと部屋に戻り、菜園の外に運んだ。



「管理官⋯⋯しっかりして! この菜園はもうダメだから⋯⋯」

「私は⋯⋯ここに置いていって下さい⋯⋯」

「ダメ!」



 そんな事できるわけない。

 せっかく生きてるってわかったのに、こんな炎に包まれた場所に置いてなんかいけない。



「フン⋯⋯」



 いち早く菜園の外に脱出していた男は私達を見て鼻で笑った。



パンパンパンーー



「なんだ⋯⋯?」



 その銃声が聞こえた瞬間、側にいた男の仲間の一人が倒れた。

 私は何が起こったのかと当たりを見渡していると、その銃声が側面から聞こえたものだと判明した。



「おい、何があった?」



 側面から現れたのはプリンだった。



「プリン⋯⋯」



 また絶妙なタイミングで助けにきたプリンを見て私は涙がこぼれた。


 プリンは私と管理官を守るように目の前に背を向けて立ち、男達に向かってアサルトを乱射した。



ドドドドドーーピュゥンーードドドドドドドドーーピュゥン



「⋯⋯どこにいても探し出すからな!」



 男は捨て台詞を吐き慌てて仲間と一緒に逃げて行った。



「おいテン、何があった?」

「あいつらが⋯⋯ロボット達を殺して⋯⋯この菜園を⋯⋯」



 私がそうプリンに言うと、プリンはすぐにここを離れようと荷物をまとめ、泣きべそをかいて座っている私の腕を掴み立たせた。



「管理官も⋯⋯」



 管理官は動くのがキツそうだけど、何とかゆっくりだけど動けるようだ。



「あぁ⋯⋯」



 後ろを向くと天まで届きそうなほど勢いよく燃え盛っている。

 建物は崩れ落ち、かつての菜園は⋯⋯私達が苦労して施設を増やし強化した立派な菜園の姿はもうない。




 こうして私とプリンと管理官は当てもなく、この弱肉強食な世界を放浪する事になるのだったーー

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