46話 一人旅 ~初仕事~
「おかえりなさい! どうでしたか? 害虫はいなくなりましたか?」
その言葉で、古びた校舎から帰って来た私達を出迎えたのは管理官だ。
特に何事もなく、ただただ害虫を駆除してくるのが私達の仕事⋯⋯ではなかったはずなんだけど。
まぁそういう約束だからね。管理官のプログラムに反応した場所へ行き、敵を排除なり必要なものを拾ってくる。
その代わりに私達はこの素晴らしい居住区を築く事ができた。
「なんの問題もないよ。また何かあったら言ってね」
私は管理官にそう言うと自分の部屋に戻り、ベッドに横になった。
この菜園に来てから結構日にちが経った。管理官の頼み事を聞きながら、私達は居住スペースを作り、外壁を修理してこの立派な菜園⋯⋯街を築き上げた。
最初はボロくて背の小さな白い柵に囲まれて、その中にビニールテントのような小さい建物があり、少しの畑と少しの作物しかなかった。
まぁ、それだけでもこの世界じゃ立派な菜園なんだけどね。
でも私達は自分の身を守るために防壁を強化して、私達を狙う敵が入って来れないように、プログラムしたタレットを設置した。
プログラムから何からは、管理官の中に設計図と共に全て記憶されているから、私には関係ないんだけどね。
そしてビニールテントだった建物は、取り壊してもっと頑丈で壊れにくいレンガで出来た立派な建物に進化した。
取り壊しとかはさすがに手作業だったけど、なんか自分で作る家ってすごく楽しくて、特に苦だとは思わなかった。
そしてその進化した建物の中には、室内で育てられる作物を、専用の部屋を作りそこに移動して、私達も一人一人部屋を用意した。
外の畑はそのまま活用しているんだけど、畑の周りに頑丈な木で作った柵を立てて害虫から守るように強化した。
前の菜園とは見違えるくらいに成長したこの街を見て、私は思わず笑みを浮かべた。
自分達で作ったっていう事もあるんだろうけど、まさかここまでしっかりとした街を作れるとは思っていなかったからな。
さすがに人は、私とプリンだけだけど、ロボット達もいるし、ちゃんと会話もできるから別に寂しくはない。
この世界で大輔を見つける事が出来たら、この街で一緒に暮らしていきたい。
最初の頃はリアルに帰りたいとか思ってたけど、別に今はそうは思わない。こんな人生もいいかなって思ってる。
「おーい、何ボーっとしてんだ。こっち来て手伝ってくれ」
私がこの立派になった菜園を見て笑みを浮かべていると、プリンが優しい声で私を呼んだ。
「うん。今行く」
私はそう言ってプリンの元へ走って行った。
「何を手伝えばいいの?」
「このデカい木が邪魔だ。力を貸してくれ」
どうやら街の外壁から飛び出ているデカい木をどかそうとしているらしい。
でも私なんかじゃ力になれないと思うんだけどな。
そう思いつつも二人で力を合わせてどかそうとするが、やっぱりびくともしない。
「ねぇ、これ動かすの無理じゃない?」
私は思わずそう言ってしまった。
「何をしているんですか? ここは私がなんとかしますから、あなた達は仕事をしてください」
私達がびくともしない木に手間取っていると、管理官が来てそう言った。
でも、人間の私達でも動かせない木を、ロボットに動かすこ事なんてできるの?
まぁ、いいけどさ。それより仕事ってまたプログラムが反応したのかな?
なんかスパンが早いな。今度はなんだろう。
「街で暴れているレーダーを始末して来てください! いいですね」
レーダーかぁ⋯⋯今度は害虫なんかより手ごわそうだな。
レーダーとは、いわゆるギャングみたいなやつらで、悪さばかりしているどうしようもないやつだ。
人々を殺して物を奪って自分達が生き抜く。そんなやつらがレーダーだ。
私はレーダーは嫌いだけど、人間らしいっちゃ人間らしいよね。
リアルでもそんなやつらはいると思うし。私はちょっとどうかと思うけどね。生きる為には何かを犠牲にしなきゃいけない時もあるよね。きっと⋯⋯。
「で、その街ってどこなの?」
「ここから北に行った所にある、ヴァルグンベル!」
北って⋯⋯デスアロウの棲家じゃん。
まじかぁ⋯⋯。それはレーダーどころじゃないと思うんだけどな。
「早く仕事を済ませてくださいね! レモネードを作って待っていますよ!」
はいはい。行くしかないかぁ。まぁプリンと一緒だし大丈夫か。
「じゃあ行こう、プリン」
私達が目的の場所に行こうと準備するために、居住区に向かおうとすると、管理官が呼び止めた。
「待ってください。行くのはあなた一人です」
そう言って管理官は私のほうを向いて言い放った。
「そっちのあなたには、別な仕事がありますからね! 人材は有効に使うのです!」
え、ちょっと待って! デスアロウの棲家がある北に私一人で向かうの?
いやいや、あり得ないでしょ。
「大丈夫か? テン」
気を使ったプリンが、私に優しく語りかけた。
「う、うん。大丈夫に決まってんじゃん」
本当は大丈夫じゃないけど、これ以上プリンに心配かけるわけにもいかないし、何より私一人でも戦えるって、身を守れるって証明したかった。
不安だけど一人で行くしかないよね。
「そうか? 気を抜くなよ」
プリンのその言葉に私は笑顔で答えた。
「私は大丈夫だからそっちも頑張ってね」
そう言って私はプリンに背を向け、この街の入り口へ向かった。
一人は怖いけど初めから私は一人だったし。
大丈夫、絶対上手くいく。
私はそう自分に言い聞かせて街を後にした。
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