44話 最愛の奇跡

◆◆◆


「ふぅ~すっきりした~」



 俺は峰野大輔みねやだいすけ。裕香と二人でゲーム三昧の日々を送っている。

 今日もこうやって、今はまっているF.o.D.を裕香と楽しんでいる。

 それなのにあんなことになるとはーー俺が少し便所に行っている隙に、あんなことが起こっているなんて⋯⋯誰も思わなかっただろう。




「お~い、大丈夫か~? また死んで⋯⋯」



 俺が便所を済ませて、階段を上って部屋に戻る時だった。また地雷にでも引っかかって死んでいるかと思ったんだが⋯⋯。

 この事態は俺の予想を遥かに超えていた。



「おい、裕香? どした? 変な冗談ならやめろよ」



 俺が部屋に戻った時は、ベッドに横たわりピクリとも動かない裕香の姿が。いくら体を揺すっても頬を引っぱたいても動く気配はない。胸に耳を当ててみるが心臓は動いている。

 どうしたものか⋯⋯。

 俺はアタフタしているとテレビから妙な光が出ている事に気が付いた。


 見た時はバグか何かだと思い気にも留めなかったが、ピクリとも動かない裕香を見ると気にもなってくる。


 俺はテレビに近付いた。

 すると心なしか光の強さが弱まった気がした。


 そのテレビの前には、ひっくり返った裕香の携帯が投げられていた。

 携帯を手に取り中を覗いてみると、F.o.D.の攻略サイトが開かれている。


 検索欄には、「F.o.D. バグ 光」と入力してあった。


 俺はその時、瞬時にただごとではないと察した。



「⋯⋯この中に?」



 俺は不覚にもそう思ってしまった。

 非現実的なのはわかっているが、この状況を見たら誰もがそう思うだろう。


 そして暫く光を発するテレビを眺めていると、急な睡魔が俺を襲う。

 いや、眠いわけがない。


 裕香もこういう感情だったのだろうか?


 少しの間、睡魔に抗ってはみたものの、もう限界だ。

 俺は倒れるように意識を失った。



「うぅッ⋯⋯!」






 ⋯⋯ここはどこだ?



 目が覚め辺りを見渡すと、そこはだだっ広い荒野⋯⋯見覚えのある景色。

 大きさの違うゴツゴツとした岩が突き出した乾いた大地、点々とある枯れ木⋯⋯その中にひっそりと佇む小さな小屋。


 俺は自慢じゃないが感は鈍いほうではない。だからすぐに察した。

 裕香はF.o.D.をやっている最中に、魂だけがゲームの中に⋯⋯F.o.D.の世界に入り迷い込んでしまったのだと。


 そんな非現実的な事を信じたくはないが、実際そうなのだろう。




 きっとあいつは俺を探している。あいつ案外、一人じゃ何もできないからな。

 コミュ障だから、きっと自分から話さないだろうし。

 変なやつに騙されてないといいけど。



「とにかく裕香を探そう」



 運よく目の前に小屋がある。俺はそこに立ち寄り、何か使えそうなものがないか探す事にした。

 少しの畑もあるし、もしかしたらここでしばらくは暮らせるかもしれない。


 しかし⋯⋯ここを通るやつを襲って武器を奪うか⋯⋯?

 いや、でもいきなりそれはまずいよな。

 偶然にも裕香がここに来て⋯⋯なんてことはありえないか。あいつがそんな抜群なタイミングで現れるわけがない。




「あ、誰か来た」



 俺が小屋を探索しながらこれからの事を考えていると、誰かが向こうから歩いて来たようだ。

 二人いるようだが⋯⋯いちおう外に出てみるか。



「あいつを見なかったか?」



 いや、待てよ。咄嗟にあいつとか言ったが、伝わるわけないよな。

 そもそも裕香が誰かと一緒なんて考えずらい。

 あいつが俺以外と行動しているわけがない。


 俺は人違いだと思い、無言でそいつらの前から立ち去り小屋の中に入った。

 一応変な行動されないように小屋の窓から二人が遠くに行くまで監視していた。



 すると男のほうはスタスタと先に歩いて行ったが、女のほうがこっちを向いて立ち止まり舌を出している。



「なんだあいつは?」



 思わずイラっときて、俺は顔が強ばった。

 女は俺に向かって舌を出すと、慌てたようにそのまま小走りで男の元に行った。


 あの感じ⋯⋯いや、まさかな。

 裕香は俺によく舌を出すが、裕香だとしたら俺が大輔だってわかっているはずがない。

 わかっていたら話しかけてくるはずだしな。

 あんな変な男といるわけもない。




 さて⋯⋯どうするかな。

 裕香を探すっつっても、どこにいるんだろうなあいつ。

 多分、この世界に来たらとりあえずあの酒場に行くよな。


 でもあいつがこの世界に来てから、どのくらい経ったんだろう?

 俺が便所に行っていたとはいえ、そんなに時間は経ってないよな。


 あいつらに聞いてみればよかったな⋯⋯女を見なかったかと。

 でも女っつってもいっぱいいるよな多分。俺の他にもプレイヤーはいそうだし。


 それに⋯⋯外見がなんか違うんだよな。

 俺は、俺がゲームでエディットしそうな外見だ。

 多分裕香もそれっぽい外見になっているはずだ。


 あいつはいつも何のゲームでもエディットに2時間以上もかけるアホだ。それを俺は側でずっと見ていたからな。

 あいつが好きそうな外見は熟知している。そういう点では案外見つけるのは簡単そうだな。


 しかし出会うのが大変そうだ。出会ったら、裕香かどうかすぐにわかると思うんだがな。




 でもさっきの女⋯⋯ちょっと裕香の好みの外見だったような⋯⋯?


 俺がこの世界に来れているって事は、他にも俺みたいなやつが紛れ込んでいる可能性もある。さっきの二人も多分外から来たやつらだよな。


 あの女の⋯⋯やっぱり気になるな。裕香だったら大変だし、変な男に騙されている可能性もあるよな。

 ちょっと後を追ってみるか。




「こっちに行ったか?」



 確かこっちのほうに行ったはずだが⋯⋯もうどっかに行っちまったのか?



グアァァァ!!



 くそっ! こんなときにグールかよ。

 あの小屋で銃拾っといてよかった。



パンパンパンーー



 まぁ、ピストルだけどな。最初はそんなもんよ。

 さっきのやつらから銃奪っておけばよかったか⋯⋯。



パンパンパンーーパンパンーー



 しつこいのぉ。

 まぁグールは一匹じゃ現れないから警戒はしてたけどよ。

 来るなら一気に来てくれないと。


 俺はリアルで結構、銃は好きだったから撃ち方とかは一応知っている。

 そこまでのガンマニアではないが、ある程度の事だけな。

 裕香だったらきっと、安全装置も外さずに撃とうとするんだろうな。本当馬鹿だよな。




 っと、グールは片付いたか。それにしてもここ、樹海みたいで迷いそうだ。

 あの小屋の物はあらかた貰ったし、もう戻る必要もないからいいか。道がわかんなくなったらPitboyピットボーイを見ればいいしな。


 このPitboyピットボーイは運よくあの小屋に置いてあったんだ。充電はしてあるみたいだし、大丈夫だろう。

 裕香を見つけたら帰る方法を探すだけだし。

 まぁここにいるっつう選択肢もあるが、それは裕香次第だな。あいつがいたいっつうならいてもいいが、そうじゃないなら帰る。


 こういうのはゲームで楽しんでたほうがいいんだよ。

 裕香もこの世界に来たのならわかっただろ。甘い考えだけでは生き延びれないって事を。






 さぁて⋯⋯どっちに向かうかな。


◆◆◆

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