第21-7話 メイドカフェ(7)

「お兄ちゃんっ」

「ひなた!? 急にいなくなったと思ったら……なんだその服装は!?」

 メイド服を着て現れた妹に、護は目を見開いた。

「えへへ、友人の手伝いをしているんです。どうですか、似合ってますか?」

 ひなたは兄たちの前でくるりと翻って見せた。フリルのついたスカートがひらりと舞う。

「お、おう、似合ってるんじゃないか?」

「あれー? 今目を逸らしましたねー? どうしてですかー?」

「い、いやそれは……」

 動揺を隠せない兄の姿を見て、ひなたは上機嫌に微笑んだ。

「あっ、そうです! お兄ちゃん達のご飯を持ってきたのでした!」

 料理を零さないようにと千瀬が用意してくれたサービスワゴンの上に乗っていた三人分の料理をひなたは順にテーブルに乗せてゆく。

「あー、お兄ちゃんのは『もえもえ♡おむくん』ですねー? これはですねー、特別なおまじないがある料理なんですよー?」

「そ、そうなのか? 適当に決めたんだが……」

「まずはケチャップで文字を書くんですよ? 見ててくださいねー、わたし、ケチャップ文字には自信があるんですよー!」

「可愛い文字で書いてくれるんだよな……って明朝体だと!?」

「「すげえ」」

 トメ・ハネをきっちりした明朝体のフォントで「大好きです」と書かれたオムライスを前にして、兄たち三人は驚愕の声を挙げた。

「うふふー、どうですか? すごいでしょう!」

「確かに、うん、すごいけど」

「それでは、美味しくなる呪いのおまじないをさせていただきますね♡」

「ひなた、多分呪いじゃなくて魔法だ」

「お兄ちゃん、ロリコンになーれ♡」

「待て!」

「ご主人様、げんきになーれ♡ 後、下のほうもげんきになーれ♡」

「なんのおまじないだ!」

「萌え♡ 萌え♡ きゅん♡」

「「おおおおおおおお」」

 無邪気にダブルピースをして微笑むひなたに、悟と秋人は感嘆の声を挙げた。

「どうでした? お兄ちゃん達、元気になりましたか?」

「おう、元気になったぞ」

「下のほうも元気になりましたか?」

「それはなんの確認だ!?」

「お口でサービスしてあげましょうか♡」

「なんのお店だ!」

 熱っぽい視線を股間に注ぐ妹に、護は苦笑いを浮かべた。

「いいなあ、護には可愛い妹がいて。俺もこんな妹がほしかったなあ」

「悟にも兄弟いるじゃないか。やってもらえばいいだろ?」

「全員弟なんだけど?」

「ふむ、やはりメイドのご奉仕とはいいものだ。もう一品頼んで我が妹にもやって貰うというのは……ってものすごく嫌な表情をこちらに向けている!? だが、嫌々させるのも乙というもので」

『殺す』

「声にせずとも雄弁に伝わる殺気!? どれだけ嫌なのだー!?」

 強烈な視線を向けてくる千瀬に、秋人は震え上がった。

「お兄ちゃんを興奮させられてわたしは満足です!」

「こ、興奮とかはしてないけど……まあ、可愛かったんじゃないか?」

「えへへーっ! わたしもうはっぴーにこにこですーっ!」

 両手で頬っぺたをむにむにと揉みながら、ひなたはカウンター裏まで去って行った。

「おかえり。よかったじゃない。凄く好評みたいで」

「わたし、もう明日からメイド服で登校しますっ!」

「やめておくんだよ」

 本気でやりかねないのが怖いところだった。

「じゃ、練習はこれくらいにして。そろそろ混んでくる時間帯になってきたから、みんな気を引き締めていくわよ」

「「はいっ!」」

「後、紺乃。置いてきたサービスワゴンを持ってきて」

「うん」

 紺乃は護たちのテーブルへと駆けて行った。

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