第14-1話 チュパカブラ(1)

 オカルト研究部の部室はたくさんのモニターに囲まれていた。

「わたくしの魔法『まじかる☆くれあぼえらんす』ですの。財力ポイントを三千万ほど消費して発動した遠隔透視魔法ですの」

 各モニターには中学棟から高校棟までの各教室の授業前の風景が映されている。突如起きた出来事に教師も生徒も戸惑っているようだが、おおよそパーティか何かだと受け入れているようだ。

「前から思ってたけど、うちの学校の人ってどこか抜けてるわよね」

「変な人が多いですよねー」

「おまいう」

「ふえ?」

 ひなたは首を傾げた。

「で、クソ先輩。こんなのほほんとした空気で一体どうやって吊り橋効果なんて仕掛けるつもりなのかしら?」

「そこも抜かりなく準備がありますが……ちょっと待ちなさい。あなたたちは中学一年生。わたくしは高校一年生で先輩ですの。目上の者に対してもっと敬意を表すべきではありませんか?」

 千瀬はこめかみを押さえながら、小さくため息をついた。

「あのね、愛結さん。目上と年上は違うのよ。単に自分より年齢を重ねた人を年上、経験が豊富で能力や人格のある人を目上って言うの。その点、愛結さんは敬うに足る人かしら?」

「へ?」

「大体『目上を敬う』文化は、『年上の方が経験を重ねている分、能力や人格があるから敬うべきだ』って論理よね。引っくり返せば、経験を重ねているにも関わらず年相応の能力も人格もない無能な先輩はゴミクズ同然。容赦なく貶めていいってことになるわ。立てて欲しけりゃ目上らしさの一つも見せて貰らえないかしら?」

「うう!?」

「そもそもそんな簡素な作りの魔法少女衣装着て満足するだなんて信じられない。見た目重視の可愛らしいフリフリつけて、どうせ『可愛い衣装が着たい~!』って単純な気持ちでやってるんでしょうけど……衣装に対する愛がない時点でコスプレイヤー失格よ! 恥を知りなさい!」

「うううぅ……う!? あれ!? わたくしは何で叱られてるんですの!?」

 いつの間にか罵倒の焦点が変わっていることに気付き、愛結は目を白黒させた。

「ふえー、今日の千瀬ちゃんはやけに辛辣ですねー」

「まだ敏感体質を治す薬を作って貰ってないからね。内心凄く気が立ってるんだよ。後、千瀬ちゃんも裏でこっそりコスプレイヤーしてるから。ディープなオタクの立場としては軽い気持ちでコスプレされるのが気に入らないんだろうね」

「同族嫌悪なんですね。でも、そろそろ止めたほうがいいのではないですか? 愛結さん、右目と左目の焦点が合ってませんよ」

「私がなんとかするよ……千瀬ちゃん、そこまでにしておくんだよ! 愛結さんのライフはもうゼロなんだよ!」

「HANASE!」

「ノリノリですねー」

 感情を爆発させた千瀬を止めるにはサブカルチャーのユーモアを織り交ぜて説得するのが一番だと知っている紺乃は、某アニメのネタを織り混ぜて突っ込んだ。それが功を制したのか、千瀬は少し機嫌を取り戻したようだ。

ついで紺乃は精神崩壊して床に丸まった愛結に近づいた。

「大丈夫、愛結さん?」

「わたくしなんて生きている価値がないですの。放っておいて欲しいですの」

「そんなことないんだよ。愛結さんにもいいところはたくさんあるんだよ。だから、こっちの世界に戻ってきて欲しいんだよ」

「ほんとですの? じゃあ、わたくしのいいところを教えて欲しいですの」

「………………」

「思いつかないんですの!?」

「愛結さんのいいところは『ですの』って口癖だけでキャラの書き分けができて楽なところです」

「意味がよく分からないんですの!?」

 愛結は目をぱちくりとさせた。

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