第103話 青いワンピース

楽しそうなユニとアイラ。

歩いていると、1つの店が気になったようだ。

そこでは地面に布が敷かれ、左から女性、女性、男性の順に3人の人間が立っている。

そして真ん中の女性が左右の男女をそれぞれ示しながら、客に商品のアピールをしていた。

つまり、真ん中の女性が店主であり、左右の男女はマネキンのようなものらしい。

周りを見ればどこの店にも人が複数いて、そういうものらしい事が分かる。


「なあ、ユニ。これ良くないか?」

「ん。」

アイラがそう言って指差すのは、マネキン役らしい女性の服。

綺麗な青が目に飛び込んでくる。

半袖と膝あたりまでの長さというシンプルなワンピースは、温暖な気候の王国でよく見かける涼しげなデザインで、鮮やかな青色とよくあっている。

腰の部分はベルトで絞るようだ。

藍色のベルトは深みがあり、青色の鮮やかさを際立たせている。

「気に入ってくれかな?」

真ん中の店主らしい人物が声をかけてくる。

ボサボサの髪が特徴の若い女性だ。

「この青色は、ユラべという花から取った染料を使っていてね。ここらじゃよく見かけるけど、ここまでムラなく綺麗に染めるのは難しいのさ。」

つまり、それだけ自分の腕が確かだと言いたいのだろう。

「それにこのベルトは、インディゴディアーを使っていてね。最近運良く仕入れることが出来たんだけど、長持ちするよ。」

「どうする、ユニ?」

アイラがユニに問いかける。

「うーん。」

即答はせず、こちらに目線を向けるユニ。

意見を言えということだろうか。

ユニが着ている姿を想像してみる。

旅の間、肩を過ぎるまで伸びた金色の髪は相変わらず陽の光を受け輝いていて、このワンピースを着た姿はきっと、太陽の輝く夏の空のようだろう。

きっと似合うに違いない。

「良いんじゃないか?きっとよく似合う。」

なので素直にそう答えた。

それに、ユニは今もだが、動きやすさ優先の半袖にズボンという男と変わらない服装ばかりだ。

なので、たまにはこういう服を着たユニを見たいという気持ちもある。

「そう。」

ユニはそう言って微笑んでくれた。

「ん、買います。」

結論が出たようだ。

私は内心ホッとする。白状すれば女性に服のことで意見を求められても上手く答える自信はない。

今回は一択な上素直に答えて良かったが、これが複数の選択肢になったとき、果たして上手く答えることが出来るだろうか。

あくまで前世の本での受け売りだが、女性の満足する答えを出すのは至難の技だと聞くしな。

まあ、そんなことを考えていると、

「よし。あたいも買おう。」

という声が聞こえる。

どうやら、私とユニが話しているうちにも、アイラとテオとの間でやり取りがあったらしい。

「はい、毎度。」

そう店主が答え、店、つまりは布の後ろに畳まれた服を出してくる。どうやら同じデザインの違う大きさのものをいくつか用意しているらしい。

それを出し、アイラやユニに重ねている。


「うーん。」

と唸る店主。

というのもだ。サイズを見たところ、アイラに合う物はあったそうだが、ユニに合うサイズが無かったようだ。

そっと、平均よりも低い所にある彼女の頭に目を向ける。

「ま、無い物は仕方ないよね。じゃあ、今日の昼に商人ギルドに来てよ。」

と言われる。

「商人ギルド?」

とみんなして首を傾げると、向こうからも質問された。

「あれ?お客さん、他所から来た人?」

「ええ。ゼルバギウス領の出身でして。ここには旅の途中に寄ったんです。」

「なるほどなるほど。じゃあ説明させてもらうね。と言っても大したことじゃないけど。」

と店主が話し始めることには、ここの市での出店の際には、ある程度の服を用意しているが当然サイズが合わないことも多く、そう言った客は市場のすぐ横にあるギルドにてサイズを測り、在庫にあればそれを、なければ作製という流れになるらしい。

「まあ、うちはこの青色が売りだし、染色した布は沢山あるからもし在庫がなくても明日には作らせて貰うよ。」

とのこと。

結局、アイラもその時にギルドで試着するということで、昼に商人ギルドで合う約束をする。

「ギルドの中の休憩所か。もしくはほかのお客さんがいて計測してるかもしれないから受付で私の名前を言ってくれれば良いよ。遅れたけど、私はアレット。今日は私の商品を選んでくれてありがとうね。」



その後、と言っても既に日は高くなっており、適当に近くの屋台で食事を済ませれば昼の鐘がなる。

その音を聞いた私達はギルドへと向かうのだった。

するとすぐにアレットを見つけることが出来た。

「やあ、来てくれてありがとう。家に戻って在庫もいくつか持ってきたから、早速試着してみてよ。」

そう言って、ユニとアイラを連れて行く。おそらくギルド内の部屋を取っているのだろう。

私とテオは受付前のスペースに置かれた椅子に座って待つことになった。

「そう言えばさ。」

暇をつぶす間、テオが本で読んだという話を教えてくれる。

なんでも、ここは昔から綿花などの栽培で栄えたわけだが、当然それらは人の手で糸にされ、布にされていた。

もちろん機織り機はあったらしい。

しかし数十年前、カタルス共和国との交流の中でより布を作る魔道具が開発される。ルストラも資金などの面で協力していたそうだ。つまりはスポンサーだな。

そして、魔道具が完成するや都市の南側に大規模な施設を作り、結果それまでとは段違いの量の布を作り出すことが出来るようになったそうだ。

今日行った市場も、そうして布に余剰が出来たことで開かれるようになったらしい。


そんな話をする内に、アレットが1人で戻る。

そして、

「さあ、お嬢様達が待ってるよ。」

と、私達に声をかけるのだった。

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