第82話 最下層

現在、ダンジョン地下8階に私達が到着して1時間ほどが経っている。

「なんか、思ったよりも普通に進めて良かったね。」

これはテオのセリフだ。

ここに来て初めは、迷路のように入り組んだ道に不安を感じたのだが、思っていたほど複雑ではなかった。

確かにたまに左右に分かれる道もあり、行き止まりに着くこともあるが、今のところ少し歩けば行き止まりかどうか分かるのでそこまでストレスに感じはしない。

その結果としての、先ほどのテオの言葉だ。

また密かに心配していた罠の類も今はない。

いや、前世で読んだ小説では、ダンジョンといえば数々の罠が印象的だったのだが、流石にダンジョンアントではそこまでは出来なかったのだろう。

今歩いている道も、床こそは何人にも踏まれたせいか平らになっているが、天井部分は丸みが残っており、ここが巨大な蟻の巣なのだと改めて実感する。


「それにしても、多い。」

そういうのはユニだ。

彼女は今もまたダンジョンアントを1匹叩き斬っている。剣を鞘に戻しながら、うんざりするように呟いた。

「確かに、な。」

私も同意の言葉を返す。

既に何匹のダンジョンアントを狩ったのか、数えるのも面倒になった。

まあ、苦労をするわけでもなく、先ほどの虎の魔物との戦いの後だから余計に単純作業のように感じるのかもしれないが。

ここでは、上の階に出てきたような小さいというか、普通のダンジョンアントの方が少なく、その大部分が全体が大きく、特に巨大な顎を持つ個体がメインになっている。

単純に大きくなっただけでなく、胴体に対する顎の比率も大きななっており、おそらくだが、地球の蟻のように同じ巣の中でも役割分担があるのだろう。


さらに歩いていけば、遂に階段を見つけた。

階段の前には4という数字。

薄暗い中地図に目を凝らせば、この階には7つの階段があるらしい。

ダンジョンに入る前にも確認したが、1の階段は基本的に一本道でほぼ上下の移動のみで、番号が増えるほど、階ごとの移動も増え、面倒だが実入りも多いようだ。

「ここまでくれば、さっさと下の階に行き、1の階段で戻る方が楽だろう。」

みんなでそう話した私達は、さっさと下の階に向かっていった。


地下9階も、地下8階と同様、薄暗く蟻の巣らしい階で、地下8階以上にダンジョンアントが現れた。

暗く狭い道を歩いてきたからか、疲労困憊でこそないが、やや疲れを覚えた私達は口数も少なにどんどんと歩いていく。

1時間ほど歩いた先には、3と書かれた階段が。

私達は互いに頷き、そのまま下に降りるのだった。


遂に私達はこのダンジョンの最下層、地下10階に到着だ。

地図を見ればここもほぼ地下1階のように構造で、大きな空間が1つあり、その周りに短い通路で繋がった、階段のある部屋がいくつかと、ギルドで聞いた立ち入り禁止の横穴のある部屋があるらしい。

上から見れば、大きな丸にピョコピョコとキノコがいくつか生えているような形だ。

私達の降りた階段は中央からは少し離れているようで、要するにキノコの傘部分。そこの1つにいる。

早い所上への階段を探そうとしたその瞬間、

「ギャア!!」

という叫び声が、耳を打つ。その後、それに続いて、

しっかりしろだの、助けてだのの言葉も。

咄嗟に私達は声のした方に走り出す。

通路を抜け大広間に出ても、誰もいない。

見回せば、一際大きな通路から喧騒が聞こえている。

私達はさらに走った。


かくして私達の目の前には、4人の男女と彼らを囲むように大量のダンジョンアントが。

どうやらここは横穴へと続いているらしい。

巨大な横穴が、部屋の向こうに見える

「助けに来ました!」

そう声をかけると、

「!!ありがたい!頼む!」

と剣を構えた大きな男が言葉を返してきた。よく見れば4人のうち1人の男性が倒れ、彼を守るように返事をした男性と槍を構えた男性、ハンマーを振り回す女性の3人が、なんとか倒れた彼の元にダンジョンアントが行かないように奮闘している。

が、いかせん数が多く、いずれは飲み込まれよう。

まずは数を減らす必要があるな。

「ランス。」

言葉とともにイメージを作り魔法を放つ。

地面から無数の土の槍が飛び出し、ダンジョンアントを串刺しにした。

その合間を縫うように、ユニは駆け出し次々とダンジョンアントを斬り伏せる。

テオはテオでアイラの横から弓を構え、名も知らない3人の討ち漏らしを的確に撃ち抜いていく。

不幸中の幸いは、ここにも月光花が天井を埋めており、ダンジョンアント達が上にはいないことだろう。上に行けば、あの球体に捕まるだけだからな。

私が1度魔力を解くと土の槍はただの土に戻り後には穴の空いたダンジョンアント達。

しかし、まだまだ生き残りはいる。

私は再度魔法を使い、残りのダンジョンアント達を串刺しにしていくのだった。



どれだけ経っただろうか。

動くダンジョンアントがいなくなったころには、床はダンジョンアントの素材で埋め尽くされており、土の部分が見えないほどだった。

荒い呼吸の音が、ダンジョン内にこだまする。


とりあえず一難去ったと思われるところで、アイラが倒れた男性へと駆けていくのだった。


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