第66話 たまには連休が欲しい

私達がソフィテウスに来てから、かれこれ半年が経とうとしている。

ジーナもあの事件以来しばらく休み、学院に顔を出すこともなかったが、2週間もすると復活。

今ではまた元気に学院に通い、ミリアーヌ様とご飯を食べたり、ユニに武術を習っている。

彼女が顔を出した際には、当選私もホッとしたが、ミリアーヌ様を始めとする女性陣の喜びようはすごかった。

この世界で女子会という言葉を聞いたことはないが、女性だけでお祝いをしに行ったらしい。

余談だが、ユニ曰くジーナは槍の適性があるらしい。どんな武器でも一通りの指導ができるのは父親譲りとしか言えないな。ジーナについては、才能と呼べるほどかは言わなかったが、努力を続ければそれなりには使えるというのがユニの評価だ。


平和なものだ。

知り合いが誘拐されることもなければ、罪悪感に悩まされる執事に殺してくれと頼まれることもない。

一応言うと、アーデルは保安隊に引き渡した。その後に特に興味もないが、それなりに殺している以上処刑か、研究内容に興味を持った貴族あたりに飼われているかもしれないな。

まあ、私は正義の味方ではない。私や関係者に火の粉が及ばないなら、それで結構だ。

そしてマルコさんとの間にはあれから何もない。お互いに大人ということだが、それにしても予想以上にそれまで通りだ。

そもそもの話、万が一私がゼルバギウス家の長男だと認められたところで、何があるというわけでもないのだ。

この大陸の実力主義は根強く、貴族も例外ではない。

むしろ貴族こそ実力主義の権化であり、次男以降が当主になるどころか、男子に力なしとなれば内政に才のある女子が当主となり、実力のある騎士団長を婿に迎えることもある。まあ、これは本当に稀なことらしいが。

と、言うわけで貴族としての教育を受けていない私では対抗馬どころか、神輿の役にも立たないのは火を見るよりも明らかだ。まあ、多少話題にはなるかもしれないが。

結局、冷静になればなるほど、忘れることこそお互いのためだと分かる。

これはそう言う問題だ。


さて、そんなある日。

非番の日に、日課である稽古を終えたユニからこんな提案があった。

「ルーク、剣を買いに行きたい。」

「剣?」

「そう。今使っているのが、そろそろ折れそう。」

そう言うユニの手には昔から使っている剣が握られている。

「それって確か、冒険者になってすぐに買ったやつだよな?」

「うん。」

私には見ただけでは分からないが、他ならない持ち主のユニが言うのだ。振っている途中で、違和感を覚えたのだろう。

「そう言うことなら、ハマトに行くか。今更だけど、行きたがっていただろう?」

「うん!」

私の提案に、ユニは元気よく頷いた。


機構都市ハマト。知識と技術を旨とする共和国において技術を支えている都市だ。

テオがクチュールで見つけてきた、活字で印刷された本を作るための活版印刷を発明した場所であり。

鍛治技術も発展しているこの街では、質の良い武器が生産されていることで、冒険者の間では、首都のソフィテウス以上に有名、憧れの都市でもある。


「とは言え、1日での往復は流石に無理だしな。テオ達にも協力してもらおう。」

別に難しいことではなく、テオ達に私たちの勤務の日を1日代わってもらうだけだ。3日もあれば、往復の時間を除いても、剣を探す時間は確保できるだろう。

ちょうど今日は今週6日目。そして覚えているだろうか。週の8、9、10日目は貴族院は休みになる。つまり明後日からのミリアーヌ様のお休みに合わせてなら、3連休の休みもお願いしやすい。

休みを取るのも気を使うが、働くとはそう言うことだ。


そうと決まれば話は早い。テオ達から了承の返事をもらった私は雇い主であるレイ様とミリアーヌ様に報告に向かった。

そう。ここまでは順調だったのだが…。


「話はわかった。では、折角だ。私もハマトに行くとしよう。」

こんな言葉がレイ様から飛び出した。

「なぜかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「実は私も、そろそろ武具などを新調しようと思っていてな。幸い次の休みは珍しく予定もない。どこに行こうかと思っていたのだよ。」

貴族にとって留学は見聞を広めるためでもある。そのため、週の終わりの休みを使い、ソフィテウス近隣の都市に行くことは珍しくない。

とは言えだ。折角のユニとの小旅行。出来ることなら2人で行きたいし、ユニも顔にこそ出さないが、喜んでいないのは分かる。

どうしたものかと思っていると、

「もちろんタダとはいわん。つまりは道中の護衛を頼むと言うことだからな。報酬の他に、我がゼルバギウス家と懇意にしている武器商人を紹介しよう。ルーク達がただ行って店を物色するよりは、良い品が見れるはずだ。」

その言葉が、決め手になった。

「ありがとうございます!」

私が何かを言う前に、ユニがいつになく元気に答える。

それを聞きレイ様は、

「はっはっは。喜んでくれたようで何よりだ。では、明後日の朝、出発するとしよう。」

と答えるのだった。


「ルーク、さっきはごめん。」

「気にするようなことじゃないさ、ユニ。」

2人になるとユニが謝ってきた。レイ様の同行に返事をしたことについてだと思うが、

「そりゃ、名にし負うゼルバギウス家の紹介だ。きっと良い武器もあるだろうし、ユニが興味を持つのも当然だ。」

「うん。」

まだ元気がないな。しかし、だ。

「そもそも、貴族の提案で理不尽と言うような内容でもない。私だって最後は断れなかったさ。」

「けど、2人で行きたかった。」

「それは私もだ。またいつか、2人でどこかに行ってみよう。」

そう提案すると、

「ん、わかった!」

と、やっと笑えてもらえた。



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