第52話 いわゆる1つの温泉回

ヤタの町にある冒険者ギルドで、ダイさんが依頼について報告してくれる。

なお『顔』については伏せてもらうようお願いした。

余談だが、いるのは職員ばかりで冒険者はほとんどいない。全くいないわけではないが、見たところそこまでの実力者はいないと思う。まあ、だから私達が呼ばれたわけだ。

ダイさんもロックリザードは個体数が少ないと言っていたし、ここを拠点にするのは難しいのだろう。これからは分からないがな。

ダイさんの説明に、初めはギルドの職員も半信半疑だったが、私がダンジョン産の収納袋(ということにしているただの袋)から、40匹近いロックリザードの死体を出すと、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。


結局その後、ダイさんとミカさんがギルド職員を護衛して洞窟を見に行くことになったが、そこはもう私達とは関係のない話だ。

報酬と素材を参加者の頭で割って、1人大銀貨30枚。つまり一般的な人の年収を1日で稼いだことになる。

まあ、先立つ物は必要だしな。金がないのは首がないのと同じとは、よく言ったものだ。


「じゃあな。」

「元気でっすよ。」

それなりに色々あった今回の依頼も無事に終え、ダイさん達、アーウィンさん達とはここで別れる。

冒険者通し、縁があればどこかで会うだろう。

「さて、どうしようか、というところなんだが。」

「温泉?」

「ルーク、楽しみにしていたもんね。」

「ま、あたいらも疲れたし、宿を取ったら温泉を探そうぜ。」

仲間達から次々と返事が来る。

自分を理解してくれる仲間はありがたいが、そんなに分かりやすいだろうか。いや、今回は仕方ないな。

「それについては問題ない。ギルドで温泉に入れる宿屋を聞いてある。」

「どんだけ温泉が楽しみだったんだよ……。」

テオが呆れているが、まあ、とってもだ。

「じゃあ、行こ。」

「ああ、そうしよう。」


かくして私達は、この温泉街でも2番目という宿屋に来た。

因みに1番は貴族専用なので、私達が使えるものとしては最高級だ。


「おお、すげー広いぜ。」

受付を済ませてまずは部屋に行くと、アイラがそんな声を上げる。

だが、私も同意見だ。

「流石に普通の宿屋とは違うな。」

「だね。これなら3人家族ぐらいなら暮らせるんじゃない?」

「いい部屋。すごい贅沢。」

「まあな。けどたまにはいいだろう?」

因みに1人銀貨5枚。先程の稼ぎのせいで大したことないと思いかけたが、一般人5日分の収入を一晩でと思えば、やはり贅沢だろう。

「それにこのぐらいでないと面倒になる。」

「だいぶ稼いだもんね。」

「なんでだよ、テオ?」

「つまりさ、僕たちがお金を持ってるのは、この町の冒険者はみんな知ってるんだよ。」

「そう。だから、下手に簡単な宿屋に泊まるとトラブルになる。」

「はあ、なるほどなぁ。」

アイラの質問に、テオとユニが答える。

アイラは感心しているが、実際その通りだ。

私達は襲われても対処できる自信があるが、アイラに関しては荒事は避けるべきだろう。

人間、金が絡むと馬鹿をするものも出てくるからな。

「その点、この宿屋は大商人なんかも使うらしいからな。さ、もういいだろう。荷物を置いて鍵を閉めたら、温泉に行こう。」

待ちきれずにそう言う私に、仲間達はやれやれ、と笑うのだった。


白い湯気がきらめく金髪にかかり、

改めてその美しさを強調する。

細く、しかし十分な筋肉のついたその肢体はしなやか、という言葉を体現しているかのようで、その姿は、なんとも言えない色香を漂わせていた。

その滑らかな肌は、世の女性の大半から妬まれても仕方ないと思わせる。

「ルーク?」

首を傾げ、こちらに向ける顔は温泉のために軽く赤くなり、それがその人物の肌の白さを際立たせている。

「早く入りなよ。せっかく僕たち2人しかいないんだからさ。」


まあ、テオなんだがな。


念のため言っておくと、ここは宿に付随した浴場の男湯だ。

空間には湯気が広がっている。

山に湧く源泉から引いた温泉を、木で作った仕切りに貯めているそこは、まさに日本で見る大浴場のような風景だった。

仮面を収納した私は湯に浸かる。

仮面自体は防水も完璧で、流石ミリア師匠というべきだが、折角の温泉だ。全身で楽しまねば、バチが当たるだろう。それに、気配探知はしているので、もし他人がくればすぐに分かる。

「ふううぅ。」

思わず息が漏れる。生き返る気分だ。

「ルークって、たまにおじさんくさいよね。昔からだけど。」

「ほっといてくれ、テオ。」

そこは勘弁してほしい。肉体のおかげでだいぶマシだが、それでもたまに前世の癖は出てしまうものだ。


「この温泉って不思議だよね。こんなにお湯を無駄使いして大丈夫なのかな?」

「問題ない。これは地面から水のように湧いているからな。」

「え?そうなの?」

「さっき宿の人に聞いてな。もともとここはロックリザードの皮を取るための人々の休憩所程度の役割の小さな村だったらしい。同時にここら辺に何故かお湯が湧き出る泉があることも知られていてな。昔ある冒険者が寒い時期に、泥を落とすつもりで入ったら存外気持ちよくてな。思いついたそうだ。」

「思いついたって?」

「これは金になるってさ。」

もともと入浴というか水に浸かる文化は、共和国にはあったらしい。これは私の推測だが、風の影響か何かで潮風を強く受けるため、ベタベタした体を洗うために始まったのではないだろうか。

グラントでは水で体を拭くか、夏場に水に入るくらいだったな。もしかしたら、海側の地域にはあったかもしれないが。


しばらく私達は雑談を交わしながら、湯を堪能した。

「ところでさ。」

「どうした?」

「ダイさん達の前で仮面を取っちゃっても良かったの?」

そのことか。

「まあな。」

「まあなって、なんで?」

「なんで、と言われても、あの時はあれが最善だと思ったからな。それに、こういう言い方はなんだけど、ダイさん達とはここだけの関係だ。だから、もし私の素顔を見て嫌われるならそれでもいいさ。」

「そんなものなのかな?」

「まあ、そう思えるのはテオ達のお陰だよ。」

「僕達の?」

「そうだ。私の素顔を見ても受け入れてくれた仲間たちや師匠がいる。」

「だから、他の人には嫌われても気にしないの?」

「気にしないって程じゃないけどな。わざわざ嫌われたいわけじゃないし。けど、今回みたいにこの『顔』が役に立つなら、そっちの方が大切さ。」

「ふーん。分かるような、分からないような。ま、ルークがいいなら、いいのかな。」

「そう。それでいいのだ。」

「ぷっ。なにそれ、変な言い方。」


こうして私達は温泉を堪能するのだった。

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