第41話 『顔』

私は顔に魔力を込め始める。

当然、どうなっても構わないと思っていたあの夜とは違う。

これ程までに慎重になるのは前世を含めて初めてではないだろうか。

なにせ、愛する女性と大切な仲間達の命に関わるかもしれないのだから。


そうして1分もしないうちに、みんなから反応がある。

「うっ」

ユニが口に手を当てる。顔色も悪い。

これはテオも同様だ。

「大丈夫か!?」

私はすぐに込めた魔力を散らし、2人に声を掛ける。

「ちょっと吐き気が来た。」

「僕も。けどこれくらいならまだまだ耐えられるよ。」

そういう2人は確かに話しているうちにいつもの調子に戻っている。

「アイラはどう?」

テオがそう問いかける。

見るとアイラは最初からなんの変化もないようだ。

「アイラは平気そうだな。やはり魔力の問題か?」

「いや、ルーク。それもあるかもしれないけど、今回はあたいの予感が的中したってことだぜ。」

「予感?」

ユニが首を傾げる。

確かに試したい事があると言っていたな。

「まあ、大した事じゃないさ。ルークの顔に対してあたいの回復魔法がどれだけ効果があるのかと思ってね。」

「回復魔法をか?」

「面白いね。それでどうだったの?」

「ちゃんと効果あったぜ。あたいもみんなみたいに気持ち悪くなったけど、回復魔法を使うとすぐに楽になったんだ。とはいえ、偶然かもしれないし、もう一回、今度はユニとテオにも試したいんだけどいいかな?」

「ん。私は大丈夫。」

「僕もだよ。」

「そう言うことなら、私からももう一度頼む。」

私は再度、先ほど同様慎重に魔力を込める。

みんなの表情が歪んだところで込める魔力を維持。様子を伺う。

まずはアイラの顔色が戻り、そしてユニ達の肩に手を置くと、すぐさま2人の表情も元に戻った。

「どうやら本当に回復魔法は効果があるようだな。」

これは嬉しい知らせだ。

その後私達は、色々と条件なども変えながら私の顔について調べたのだった。


実験の結果、次のことが分かった。

まず、分かっていたことだが込める魔力を増やすことでより吐き気を催すこと。

距離が近い程効果が増すこと。

当たり前といえば当たり前だが、後ろに立っているなど顔が見えていないと効果が無いこと。

それと

「おええぇ…」

仮面を付けたまま魔力を込めると私自身が吐き気を催すことも分かった。


「大丈夫?ルーク。」

「ああ、落ち着いた。ユニ、ありがとう。」

背中をさすってくれるユニの手がありがたい。

「それにしても、こうなってくるともう技みたいなもんのだよね。」

テオが呆れた顔をしている。

「技、か。シンプルに『顔』とでも言おうか?」

「まあ、名前はなんでも良いんだけどさ。それこそ人間相手なら仮面を外すだけで無力化できるでしょ?」

「おいおいテオ。それは流石にルークが可哀想じゃないか?」

「いや、アイラ。大丈夫だ。心配してくれるのは嬉しいが、戦闘に置いては使えるものは使う。私達はそう教わったからな。ただテオ。私としても出来るだけ使いたくは無い。」

「そうなの?」

「ああ。相手が盗賊で私達以外が周りにいないなら別だがな。街中や護衛対象が近くにいる場合は無差別になりかねないし、顔を見ただけで死ぬなんて噂が流れれば冒険者として仕事が出来なくなる可能性がある。」

『顔』、でいいか、もう。

『顔』は確かに一見便利だが、結局殺すつもりが無いなら、デメリットの方が大きい。

私としてはこうして、素顔を受け入れてくれる仲間がいるだけで満足だ。

それこそ他の人に嫌われても構わない、が。

だからと言ってわざわざ嫌われる必要もないだろう。

「言われてみればそれもそうか。」

納得するテオに

「そもそも、今日のはルークや私たちの安全のため。」

とユニも声を掛ける。

ユニの言う通りだ。少なくとも今回分かったことは無駄ではないだろう。

「初めは反対もしたが、みんなのお陰で私も自分のことを少し知ることが出来た。ありがとう。」

そうお礼を述べると、みんなは笑顔で頷くのだった。


その後、私達はすぐに眠りにつく。


翌朝私達は島の人に見送られ、行きと同様ロックの船でクチュールまで戻るのだった。


「ありがとうな。あんなに早く魔物を退治してくれてさ。兄ちゃん達が来てくれて良かったぜ。」

「これも仕事ですから。それでも、そう言って頂ければ嬉しいです。」

「おうよ。ところで、この街にはまだ居るのかい?」

「ええ、まだ着いたばかりですし。もう少しこの街を見たいと思います。」

「そうかそうか。いや、なに。実は3日後に祭りがあってな。良かったら見ていかないか?」

「祭り、ですか?」

「おう。ピスクス祭りって言ってな。この時期にこの辺りに泳いでくるピスクスって魚の魔物の収穫祭だ。」

「ピスクスですか。初めて聞く名前ですね。」

「ピスクススは足が早いからな。上手いんだが、俺たちもこの時期にしか食えないし、あまり他所には流れないのさ。まあ、そんなわけで昼からは屋台でピスクス料理が食えたりもするからさ。良かったら見てくれよ。」

「教えてくれてありがとうございます。また、みんなで話し合ってみますね。」

「おう。じゃ、元気でな。」

「ええ。ロックさんもお元気で。島の方々にもよろしくお伝えください。」

ロックさんは話を終えると、そのまま港の人混みに紛れて行った。


「よし、じゃあギルドに報告に行こう。」

その後ギルドにて報告を終えた私達は昨日と同じ宿を取るのだった。


さて、まだ昼には遠い。今日はどう過ごそうか。

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