第33話 神聖騎士団

魔法でチェルミ近くに飛んだ私達は、朝まで休み、辺りが明るくなった頃、門をくぐった。

クーベルの時もだが、こんなに早く戻るつもりは無かったんだがな…


そして今、私達はマーティン司教の教会に来ている。

「そんなことが…」

蓄音球とカタジナの証言を聞いた司教は、肩を震わせながら、顔を覆っている。

なお、カタジナとユニ、アイラの女性陣はケイトさんと別室にいる。

「私といては、落ち着かないね。」

男性の司教ということで、怯えるカタジナに気を使った結果だった。

「本当に謝るべき相手は他にいるが、それでも言わせてほしい。君たち、本当にすまなかった。」

「はい、分かりました。しかし、どうするべきでしょうか?」

「そうだね。まず私に言ってくれて良かった。村人に言っても、難しいどころかみんなが襲われた可能性もある。」

「やはり、彼女の危惧はただしかったのですね。」

「そうだね。実はあの村に行った冒険者が戻らない、と言う噂はあってね。しかし、そのまま違う村に行ったと言われれば、それが違う証拠もない。挙句には、村人がそんな奴は来なかったと、言いだす始末さ。」

「では、今回もそうなりますか?」

「いや、君たちが持ってきてくれた蓄音球とカタジナ君の証言があれば、神聖騎士団が動いてくれるだろう。」

「神聖騎士団?」

「まあ、騎士団とは付いているが教会からは独立していてね。言ってみれば、国規模の自警団さ。」

「教会から独立していると言うのは大丈夫なのですか?」

統制されていない武力とは、大分危なく感じるが。

「君の心配も分かるがね。教会が武力を持たない事の方が重要なのさ。それに、神聖騎士団の行動規範はアクレシア教の教義だ。独立していても、互いに意識し合っているんだよ。」

「なるほど。」

まあ、今はあまり気にする時間もないし、そんなものだと思っておこう。

「では、その神聖騎士団に通報すれば良いですね。」

「ああ。それは私に任せて欲しい。神聖騎士団とは付き合いがあるからね。」

そう言う事ならば、是非もない。

「では、よろしくお願いします。」

「では、それはこれから行くとして、こうして教会に来てくれたのも導きだろう。実は、冒険者であるルーク君たちに頼みたい事があるのだけど、いいだろうか?」

「どのような内容でしょうか?」

「なに、ある男の護衛依頼だ。彼を聖都まで連れて行って欲しい。順調に行けば、4日程で着くはずだよ。詳しくはギルドで聞いて、良ければ受けて欲しい。無理にとは言えんがね。」

とはいえ、渡世の義理というものもある。可能ならば受けるとしよう。

「分かりました。では、これからギルドに向かいます。」

さて、ユニ達はどうするか。出来ればみんなで行って決めたいが、カタジナの事もある。

なんにせよ、相談するとしよう。



「どんな人の護衛だろうね。」

結局女性陣は残り、私とテオでギルドに来た。

「まあ、司教の紹介だ。教会関係者ではあるんだろうな。と、すみません。マーティン司教から護衛依頼の紹介できた、ルークとテオと申します。また、依頼を受ける場合は、ユニ、アイラの2名も参加します。」

そういって、預かったものを含めギルドカードをカウンターに置いた。

「畏まりました。確認致します…はい、C級のルーク様達ですね。こちら依頼書になります。問題がないようであれば、依頼主を呼びますので、お声がけください。」

「分かりました。」

そう言って受け取った依頼書を見ると、

護衛対象、修道士一枚。目的地、聖地都市エサム。

報酬は…

と、条件を確認する。

移動は乗合馬車か。まあ、見た限り問題なさそうだ。テオにも確認し、私達は依頼を受けることにした。



「お待たせ、し、ま、した?」

相手もだが、依頼人を見て私も驚く。テオだけはキョトンとしていたが。

そこにいたのはあの、受愛証なるものを売っていた、理想に燃える青年。ミゲルだった。


受愛証の事は伏せて、テオにミゲルを紹介する。

「テオ、こちらは修道士のミゲル。こないだ自由行動の時に、偶然知り合ってな。それでミゲル、こちらはテオだ。私達はマーティン司教と知り合いでな。一応、私とテオ、後2人の仲間で依頼を受けようと思っている。」

「そうだったのか。知り合いに頼めればこちらも気持ちが楽だからな、助かるよ。」

「えーと、よろしくミゲル。テオって言うよ。ルークとは幼馴染でね。一緒に冒険者をしている。僕もアレクシア教徒だし、仲間の1人は宣教師だから色々話せると嬉しいな。」

「こちらこそ。今回、僕は聖都で修行する事が決まってね。そのための護衛を頼みたい。もし可能なら、出来るだけ早く出発したいんだけど。」


そうして私達は明日の朝、北門で合流する約束をしてその場を別れるのだった。

その後私達はまっすぐ教会に戻る。

「あ、ルーク、おかえり。」

教会に戻ると、ユニがこちらに気づいてくれた。

「ただいま、ユニ。アイラやカタジナさん達は?」

「2人ともケイトさんの手伝いをしてる。私も、さっきまでここの掃除してた。それで、カタジナなんだけど、ここで住まわせてもらえるみたい。それとマーティンさんは出掛けてる。」

「そうか。それなら安心だな。それにマーティン司教は神聖騎士団のところだろう。行動が早い。それと、さっき話した護衛依頼受けることになった。明日の朝、出発だ。」

互いに情報交換を終え、私達も教会の中に入るのだった。


その夜。

「えっ。マーティン司教も騎士団に同行するんですか?」

「うん。その予定だ。なに、実は私はもと団員でね。意外と多いのだよ。騎士団から司教への転向は。体力的な問題で逆は少ないがね。」

言われてみれば、年の割に随分元気だとは思ったが、そう言う過去があったとは。

するとケイトさんが、

「とはいえ、騎士団長から宣教師になったのは、後にも先にもうちの人くらいかね。」

「騎士団長!?」

それはすごい。

「なに。他に出来る人がたまたまいなかっただけだよ。まあ、そう言うわけで安心してほしい。それに、あくまで手伝いだからね。必要なくなったら帰ってくるよ。」

そう言って笑うマーティン司教の笑顔は、その話を聞いてもやはりとても穏やかに見えた。


翌朝、マーティン司教は騎士団に、私達はカタジナに見送られ待ち合わせの門に向かう。

「皆さん、このご恩は忘れません。本当にありがとうございます!」

そう言って頭を下げ、そして上げた彼女の顔は前を向く決意に輝いていた。

強いのは女性か、彼女か。

どちらにせよ、私達に出来るのは彼女の幸運を祈る事だけだが、彼女ならきっと大丈夫だろう。


「おはよう。改めて修道士のミゲルです。これから聖都までよろしく。」

こうして予定とはだいぶ違ったが、私達は礼拝都市チェルミを後にしたのだった。

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