第32話 ヴィーゼンの田舎で

街道を歩いた末にたどり着いたのは小さなヴィーゼンの片田舎だった。


「これはこれは。あの道を歩いていらっしゃったとはさぞお疲れでしょう。」

当然宿もないが、教会はあるのはヴィーゼンだからだろう。

私達は冒険者であることを話、泊めてもらえるよう頼んだところ、恰幅が良く、人も良さそうなイグナツと名乗る司教は快く受け入れてくれた。

この教会は、イグナツ司教とカタジナという修道女の2人で運営しているらしく、冒険者が来ればいつも泊めているらしい。

「感謝します、イグナツ司教。」

「なんの。これもアレクシア様のお導き。このような田舎に来てくださった方の急になれば喜ばしい限りですよ。」

彼はそう良いながら、笑うのだった。


「さあ、質素なものですが、カタジナが用意してくれました。」

その晩、イグナツ司教は夕食を用意してくれた。

「皆さんは、何かお仕事の途中ですかな?もちろん差し支えるようならお聞きはしませんが。」

「いえ、旅をしているのです。」

「旅、ですか?」

「ええ、冒険者として色々な場所に行くうちに、どうせなら世界を見てまわりたいと。」

「ほう。それはまたお若いのに勇気がある。いや、お若いからですかな。」

そう言ってイグナツ司教はまた大きく笑うのだった。


その後、私達は部屋を案内された。冒険者を泊める事が多いというだけあり、大きな部屋にいくつかのベッドがあった。

「親切な司教様がいて良かったぜ。」

「そうだね。それに夕食まで用意してくれて。」

そんな風に、アイラとテオが話をしている。


言いにくいが、言わざるを得ないな。

「あいつを、信用するなよ。」

私がそういうと、皆がこちらを向く。その顔を見るに、意味が分からないようだ。

「ルーク、どうしたの?」

ユニが聞いてくる。

「あの料理な。薬が盛られていた。」

「「「え?」」」

全員が同じ反応。やはり気付かないか。

「いやいやルーク、嘘でしょう?」

テオが聞いてくるが、残念ながら本当だ。

「違和感は無かったか?」

「違和感って。」

「言われても。」

テオとアイラは半信半疑どころかほぼ疑っているようだが、ユニは思案している。そして、

「!ルークの顔を見たとき。瞑想しながら。」

気付いたようだ。

「つまり、魔法的な力に勝手に抵抗したって事?」

「言われてみれば、そんな感じもしたような気がするけど、それこそ気のせいじゃないの?」

テオは信じたくないようだ。

「いや、恐らくユニの言う通りだ。逆に私は、私の素顔を見た時の感覚は知らないがな。それでも違和感を感じ危険判断の魔法を使った。これは、森ではキノコの毒なんかを判断するのに使っていたんだが、魔法薬の類にも使えるんだ。」

「それで、イグナツ司教があたい達に毒を持ったって?」

「けど、何も無いよ?」

「何も無いのは抵抗したからだろう。恐らく、私の顔を何度も見るうちに魔法的な力に対する抵抗力が上がったんだと思う。」

地球でいう免疫や抗体の考えは、この世界にはまだ無いが、言葉が無いだけで現象としては、可能性は十分にあるだろう。

「まあ、これで分かるだろう。」

そう言って私は筒状の物体を取り出す。

「これを覚えているか?」

盗賊退治の戦利品だが、まあ、ユニ達はあの時から興味がなかったからな。説明は必要だろう。

「これは、簡単に言えば音を集めて、伝える魔道具だ。」

そう。私は初めこれは電話のように会話をするための魔道具だと思ったし、実際普通に使うならその理解でいい。

「実はこの魔道具、珍しい物ではあるが、ギルドや上位貴族のような立場であれば普通に利用している。普通の人の魔力なら遠くでも会話出来るような効果になる。」

「それは確かに便利そうだけど、なんで急に?」

「さっきも言ったが、この魔道具は、本来音を集める効果と伝える効果があってな。少し工夫して使うと。」

「そろそろ、あいつらも寝た頃だろうな。」

「と、こうなる。」

筒からは、イグナツ司教の声が聞こえている。

先程から聞こえていた会話を、音を大きくしてみんなに伝えた。

つまり、この魔道具の音を集める効果により多くの魔力を注げば、地球でいう集音マイクのような効果を発揮するし、音を伝える効果に魔力を注げばスピーカーのようにも出来る。

音の選別は出来ないので、都市など人が多いと、こんな使い方は出来ないがな。

それに今回はもう一つの魔道具を用意してある。

こちらは私の持ち出しだ。

とはいえ、みんなはそんな事より筒から聞こえる会話の方が気になるようだ。

「し、司教様。またあんな事をするんですか?」

これは確か、カタジナと言う名の修道女の声だな。

「ほお?カタジナ、お前は私のやる事に不満があるのか?」

「い、いえ。そんな事はありません。」

「ふん、親が死んだお前を引き取ってやった恩を忘れるなよ?まあ、私が悪だといえば、この村で生きて行く事は出来ないだろうがな。」

「……」

「さて、念のためもう少し待つとしよう。あの2人の女はなかなかの上物だしな。全く、村人の素直さには感謝してもしきれんよ。世間知らずの冒険者を殺して埋めても、朝早くに旅立ったと言えば誰も疑おうともしないんだからな。ああ、カタジナ。お前はちゃんと朝のうちに死体を埋める準備をしておけよ。ついでに、あいつらが寝ているか見てこい。」

「は、はい。分かりました。」

トトト、ギー、パタン。


最後は扉が閉まる音だろう。

「…」

みんなは、三者三様の表情だ。

ユニは怒っているし、アイラの表情は苦々しい。

そしてテオに至っては無表情だ。あまりの怒りに表情も作れないらしい。

「まあ、それぞれ言いたい事はあるだろうけど、問題はどうするかだ。今の会話によれば、カタジナの方がこれから来るぞ。」

「ん。カタジナさんはやりたくなさそうだった。出来れば話がしたい。」

「そうだね。あたいもユニに賛成するぜ。」

「…僕も。」

テオがやっと反応する。まだ、ぎごちないが。

と、そうと決まれば、準備が必要だ。


少しすると扉が開き、カタジナがやってきた。

彼女の顔に驚愕が浮かぶ。恐らく私達が起きている事に対してだろう。

その隙に、扉横にいたユニが彼女を拘束し、アイラが扉を閉める。流れるような動作だった。

叫ばれて困るので、ユニが口を塞いでくれている。

「さて、手荒な事になってしまい、申し訳ありません。色々と話す前にこちらをどうぞ。」

そう言って私が起動した丸い物体は、もう1つの魔道具。

蓄音球だ。効果は名前を見れば分かるだろう。

先程のイグナツとカタジナの会話が流れる。因みに音のボリュームは込める魔力で調整可能だ。

カタジナの目がそれ以上ない程に見開かれたが、会話が終わる頃には脱力していた。

ユニに目配せすると、ユニはカタジナを解放する。

彼女の第一声はやはりというべきか感謝の言葉だった。

「ありがとうございます。これで、やっと終わるんですね。」

そう言って泣き出すカタジナ。

少し待ち、詳しい話を聞く。

とはいえ、ほとんどは先程聞いた通りだ。

両親を魔物に襲われ無くした彼女は教会に引き取られる。司教のイグナツは善人として村では慕われているが、たまに訪れる女性の旅人のうち、隠蔽できそうな場合に薬を使い眠らせると、弄んだ後に殺して森に埋めていたらしい。

彼女はそれの手伝いを強制されていた。

まあ、敢えて言われてないのを聞きはしないが、それだけでは無いだろう。

彼女はそれなりに整った容姿をしているからな。


その後どうするべきか話し合う。

「この魔道具を、みんなに見せて見たら?」

ユニが言うが、

「いや、多分難しい。嘘だとか言われ信じてもらえないだろうな。」

田舎では、1度ついた評価は良くも悪くもなかなか覆らないからな。

ましてや、今まで評判の司教といきなり来た冒険者では比べもされないだろう。

「多分、ルークさんの言う通りかと思います。」

カタジナも同意見のようだ。

「もう、いっそ殺ろしたほうが、世の中のためじゃ無い?」

「いやいやいやいや、まあ待て、テオ」

いっそここで殺してしまおうというテオをなんとか宥めた。

気持ちは分かるが、今度は私たちがこの国の治安維持組織、神聖騎士団に追われるのがオチだろう。

「先生なら力になってくれると思うぜ。」

アイラの意見を受けた私達は。

結局、私の空間魔法でカタジナ共々チェルミに逃げ、マーティン司教経由で神聖騎士団に、訴えるのが最善だろうということになった。


そうと決まれば、長居は無用だ。

カタジナが私物が入っているというランドセル程度の大きさの袋を持ってくるのを待ち、私達はチェルミ近くまで転移したのだった。

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