第31話 夜空の下で
その後、乗り合い馬車に乗ろうと西門に向かうと、なにやら立て札があった。
『西関所方面、落石のため今日より2日、運行中止』
「だって。」
ユニがこちらを向きながら言う。
「どうしようか?」
これはテオだ。
2人は、2日くらいここで待っても構わないのだろう。しかし、
「な、なあ!せっかくだし歩いて行かないか?いつも馬車じゃ飽きるしさ。石だって、歩きなら迂回できるだろ?」
必死な宣教師が1人いる。
「どうしたんだ、アイラ?」
まあ、別に歩いてもいいのだが、何に必死なんだろうか。
アイラは言いにくそうにしていたが、最終的に口を開いた。
「だって昨日の夜、先生とケイトさんの前で泣いたのに、これで会ったら気まずいじゃんか。」
なるほど。気持ちは分かる。
それにしても、彼女は気持ちが弱るとすぐ口調に出るな。
「私は歩いても構わない。」
「僕も。それにたまには歩かないと、足の筋肉も弱くなるしね。」
「私も反対する理由はないな。」
そう言うわけで、私達4人は門に向かう。
アイラは心底安堵したようだった。
頭上を雲が流れて行く。
私達は街道を西へ向かって歩いていた。道自体は街道を行けば良いと、昨日ギルドで確認済みだ。
「うー。わがまま言ってごめん。」
アイラがそう謝罪してきた。
「いや、全然気にしてないさ。むしろ、たまにはこんな風にのんびり歩くのも良いものだ。」
「ん、風が気持ちいい。」
「確かに、いつもは馬車だもんね。大丈夫だよ、アイラ。一緒に旅をしていれば、わがままを言うことも、聞くこともあって当たり前だもの。」
「そっか。ありがとう。」
アイラはそう言いつつ、気にしているようだが。
まあ、そのうち慣れていけばいい。
時間は、十分あるのだから。
途中休憩もはさみつつ、私達は歩いた。
確か、村までは馬車で4時間程度。
私、ユニ、テオはまだ体を鍛えているので問題ないが、アイラのスピードに合わせるとどうしても今日中の到着は難しいだろう。
「少し日も傾いてきたし、今日はここで休まないか?」
みんなも異論はない様子だ。
私は収納から簡易のテントを出した。
地球にあるようなしっかりとしたものじゃないが、雨風を避けたり、一晩休んだりする分には十分だ。
私達はカイゼル師匠に仕込まれた手順に従い、組み立てていく。かなり手際良く出来たと思うが、それでも数時間。
あたりは既に夕暮れどきになっていた。
焚き火の用意を終えた私達は、火を囲みパンを食べている。
取り止めのない話をしながら夕食を終えた私達は、見張りを立て交互に休む事になった。
今、私はアイラと共に火の番をしている。
3時間の交代の予定だ。
私はチェルミで購入したリンゴをアイラに渡す。因みに、仮面は夕食の時から外している。
「何度見ても、ルークの魔法は便利だよな。特に収納はさ。それに、今も魔法を使っているんだろ?」
リンゴを受け取りながら、アイラがそう言った。
彼女のいうように、私は見張りの時は気配探知の魔法を使っている。範囲は大体1キロメートルか。
かつて森の中で使い続けたおかげで、こういう落ち着いた状態であれば負担にもならない。
「まあ、確かにとても助かっている。」
「やっぱり、遠距離移動の空間魔法も使えるのか?ってごめん。こういうのも聞いちゃダメだったか?」
「いや、そんな事はないさ。」
なるほど。どこか遠慮があるとは思っていた。
付き合いが浅いせいだと思っていたが、私が思っていた以上に、初対面の時の態度を気にしているらしい。
「アイラ。」
出来る限り、優しい声を心掛ける。出来ているかは分からないが。
「な、なんだ?」
「そう、緊張するな。何度も言うが、最初の時の事はもう気にしていない。それに、私の1番の秘密と言えば、この顔の事だ。それを受け入れてくれたアイラには感謝こそすれ、何を聞かれても今更怒らないさ。」
「でも、聞かれたくない事はあるだろう?」
「それならそう言うさ。私だけじゃない。私達は、アイラに悪気がない事は理解している。」
「そっか。」
そう言ってアイラは俯いた。そして、1度頷くと、私の顔を見て話す。
「じゃ、じゃあ、ルーク達の事、色々教えてくれよ。子どもの時とか、さ。」
「ああ、何でも聞いてくれ。差し当たって、さっき聞かれた遠距離移動は使えるぞ。ここからなら、チェルミぐらいまでは行けるな。」
「はー。いや、魔法に詳しくはないけどさ。多分、凄いんだろうな。」
「まあ、私の師匠ならもっと遠くまで行けるだろうがな。」
そんな風に、私はアイラに聞かれた事に答え、逆にアイラの子ども時代についても聞いたのだった。
ユニ目線
「ユニ、テオ、交代の時間だぞ。」
テントの中で寝ていると、ルークが起こしてくれた。
寝起きは良い方で、すぐに起きた私達は見張りを交代した。
ルーク達はテントに入り、もう寝たみたいだ。
「アイラ、笑ってたね。」
テオがそう言ってくる。確かに、少し固かったアイラの表情が柔らかくなっていた。きっと、ルークと少しでも打ち解ける事が出来たんだと思う。
「うん。良かった。」
そう素直に答えた。私達の中では、ルークとアイラの間が1番距離があったから、それが埋まったなら、良い事だと思う。
「そうだよね。うん、良い事だよね。」
テオの返事の歯切れが悪い。
「ユニはさ。ルークとはどう?」
テオに聞かれたけど、よくわからない。
「どうって、何が?」
「だってさ。その、両思いって事でしょ?何も無いの?」
そう言われて、私は顔が熱くなった。
そう、私達は両思い。ずっとルークの事が好きだったけど、この旅に出る直前に彼の気持ちを聞くことが出来た。
夢に見ていた状況とはまるで違ったけど。
それでもその後色々あって、今は両思いだと言えるようになった。
確かに告白とかはされていないけど。
「ユニ?どうしたの?」
そこまで考えて、テオの質問に答えてない事を思い出す。というか、テオがいた事を思い出した。
「ごめん。テオがいること、忘れてた。」
「それは酷くない!?」
「声が大きい。2人が起きる。」
「あっ、ごめん。って僕が悪いのかな?」
そしてテオはため息をつくと、
「まあいいや。それで?もう1度聞くけど、ルークとは何もないの?」
それが恋人らしい事、という事なら。
「うん、無いよ。」
実際特に無い。2人になる事はたまにあるけど、そう言う時も今までのように、おしゃべりをしている。
「うんって、ユニはそれで良いの?」
「うん。」
これは嘘でも強がりでも無い。
「私も、多分ルークも今が楽しい。私と、ルークと、テオと、アイラの4人でまだまだ世界を旅したい。だから、恋人になるのはまだ先でいい。」
「僕はてっきり、2人の邪魔になってるのかなって思ってたけど。」
テオがそんな事を言ってきた。
テオもたまに、意味のない事を考えるけど、こういうところ、ルークもテオも男の子だなって思う。
「大丈夫。むしろ、テオはアイラとは何かないの?」
「はっ!?な、ないない。何もないよ!」
「だから、声が大きい。それに、そんだけ言うと、逆に怪しい、よ。」
そう言うと、テオは顔を俯ける。顔が赤く見えるのは、火の明かりのせいだけではないよね。
実際、テオの周りには家族以外の女の子はあまりいなかったし、何よりテオを男の子扱いしてくれる女の子は全くいなかった。
そんなところに、アイラが現れた。
これからどうなるかは分からないし、そもそもアイラの気持ちも分からない。
でも、2組の夫婦が楽しそうにしている。そんな未来も素敵だな、と思えたのだ。
翌朝、ユニ達に起こされ、片付けと朝食を済ませた私達は、街道をまた歩きだした。
そして、3時間も歩いていると、途中谷のような細い道に入り、道を塞ぐ落石までたどり着いた。
「立札の落石って、多分これだよね?なんか、横を通れそうに無いんだけど。」
テオの言う通り、綺麗に岩がはまっている。
「やっぱり、チェルミで待ってた方が良かったかな?」
アイラは少し涙目だ。
仕方ない。
「?ルーク、どうするの?」
「なに、土魔法は得意だからな。」
私は岩に手を当て、魔力を通す。
そして、イメージを作った。
「サンド。」
言葉と共に、魔力が岩を砂に変えていく。
「よし、これでいいか。」
振り向くと、そこではみんなが呆れていた。
その後もさらに歩くと、昼は過ぎたが、日がまだ高いうちに村に着くことが出来た。
そこは、低い柵に囲まれた、とても小さな、村だった。
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