第23話 アイラとの出会い


翌朝、オタカルさんとの待ち合わせの時間だ。


私たちが、ヴィーゼン側の門である西門で待っていると声を掛けられた。


「あんた達、もしかして冒険者か?」

振り向くと、そこにいたのはアレクシア教の修道服を着た若い女性。ただし、本来頭に被っているはず帽子部分は外しているが。

そのため、まず目を引いたのは赤い髪だ。燃えるような赤毛が朝の日の光を反射している。

そして、そばかすの目立つ勝気な顔。

前世で読んだ赤毛のアンを思い出す。アンが不敵な態度を取れば、目の前の彼女のようになるのだろうか。

「ええ、そうです。」

「そうかそうか!あたいは宣教師のアイラ。宣教師ってのは旅をする司祭みたいなもんだ。」

「はぁ。それで?その宣教師様がどのような御用でしょうか?」

「まあ、焦るなよ。宣教師ってのは、町から町、国から国と行き来する関係で、冒険者ギルドにお世話になってるんだが、あたいはちょいっと特技を活かしてね。護衛依頼を受けることもあるのさ。」

「なるほど、わかりました。私たちはルーク、ユニ、テオと言います。」

彼女の言いたいことは分かった。ここで一緒に、依頼人を待とうということだろう。

ただ、ここの段階でほぼ確実に同じ依頼を受けた冒険者だと思っていても、これ以上は言わないものだ。

この世界にも守秘義務という考え方はある。護衛を依頼した人間の情報なんて、特に扱いに注意が必要だ。

「あんたらもオタカルさんの雇った冒険者なんだろう?」

だから、こういう発言は冒険者として非常識としか言いようがない。

「って、アイラさん?」

「なんだルーク?怖い顔して。って、仮面のせいで顔は分かんないんだけどな。なんでそんなの付けてるんだ?」

私の仮面について、ここまで直球に聞いてくる人は初めてだ。私自身は気にしないが、この女性がかなり危なっかしい人だということは、既に分かる。ユニ達も、困惑しているようだ。いや、テオは少し怒っているな。テオは基本的に穏やかな性格だが、融通の効かない性格でもある。こう言った、非常識な言動には目くじらを立てるタイプだ。

「あのー、アイラさんだっけ?」

案の定、テオの声が硬い。

「なんだよ美少年。」

「なんだじゃないでしょう。まず依頼人の名前をこんな場所でいきなりいうなんて非常識ですし、ルークの仮面につい、て、も。」

そこで私とテオが違和感に気付く。

「しょ、少年?」

呆然とした声でテオが呟く。少し目線を向けると、ユニも目を見開いている。

「美を付けろよ。それとも子ども扱いが気に障ったか?なら謝る、悪いな。それに今、あんた、テオって言ったか?テオに言われて分かったが、あたいは随分非常識なことをしたらしいな。そちらについても謝るよ。悪かった。」

「い、いえ。分かってもらえれば。僕はそれで。」

「いや、悪い。あたいは冒険者として1人で仕事するのはこれが初めてでな。色々足りない部分があるみたいだ。それ以外にも、どーも昔から世間知らずとか、言われてな。悪気はないんだが、迷惑を掛けちまうことがある。あたいも気をつけるが、もしよけりゃ、これからも気になることがあれば教えてくれよ、テオ。」

「わ、分かりました。」

どうもテオはまだ動揺してるらしい。ただ気持ちは分かる。それだけ私たち、というよりテオにとっては衝撃的だ。

「アイラさんは。」

「アイラで良いぜ。あたいも、ユニって呼ばせてもらう。ルーク達もな。」

「ん。アイラはテオが男だって分かるの?」

「そりゃ分かるだろ。こんだけの美男子なんだから。」

あ、少年が直ってる。アイラは、どうにも粗野な言動はあるが、随分素直な性格らしい。

それにしても、よくテオが男だと分かったな。

「んー。普通は分からない。今まで、初めて会ってテオが男だと分かったのは、アイラを入れて2人目。」

「まじかよ。もしかして、もう1人って、ルークか?」

「いや、私の師匠だ。わたしも初めて会った時は女の子だと思った。」

「ふーん。不思議だねー。俺には男にしか見えないとけどな!なあ、テオ?」

そう言ってテオの肩を叩いてる。

「ちょっ、痛いんだけど!?」

テオが抗議する。だが、彼はすぐにアイラに向かい、

「けど、ありがとう、アイラ。」

「礼を言われるようなことはしてねーよ、おかしな奴だな。」

アイラが、そういうと馬車の御者席に座ったオタカルさんの声がした。

「おはようございます。おやおや、お待たせしたかと思いましたが、随分仲良くなられたようで。これなら自己紹介は必要なさそうですな。では早速、出発致しましょう。」

「おはようございます、オタカルさん。わかりました。では、そちらの馬車にお邪魔すればよろしいですか?」

「ええ。一応荷台には、いつくかの商品がありますので、気をつけてください。御者台にはどなたが?」

私たち3人なら、遠距離に対応出来るということで、私かテオだ。御者台に乗るのは、早く脅威を見つける必要があり、今までの言動からアイラに任せるのは不安だ。悪い人ではないようだが…

「私が乗りましょう。後ろには、テオが頼む。」

ちなみにオタカルさんの馬車は、馬がひくリヤカーに布で屋根をつけたようなタイプだ。その中に商品があるらしく、そちらに3人が乗る。テオには後ろの方に立ち、後方から何かが攻めてきた場合の対応を頼んだ。

「では、乗ってください…それでは、出発しましょう。」

馬車は商人用の門を抜け、チェルミを目指し馬車を進めた。


ここまでの道中は特に問題無い。

オタカルさんの説明では、

クーベルからチェルミに行くには、まず関所を越えて、ヴィーゼンに入る。その後、ヴィーゼン側の貿易都市ライタムを超え、更にいくつかの村と町を越えるとチェルミだ。だが、実際に立ち寄るのは2つの町だけらしい。それぞれの町で一泊し、3日目の昼過ぎにはチェルミに着く予定でいる。

もちろん道中、問題がなければだ。

その道中でアイラのできることを聞くと、回復魔法が使えると言うことだった。回復魔法は空間魔法のように特別な才能が必要な魔法で、私も結局擦り傷を治す程までしか使えるようにならなかった。アイラ自身は先頭は護身程程度と言っていたが、それでもいざという時に回復魔法が使えるのは頼もしい。ランクを聞くと、7Cらしい。納得のランクだ。



最初に気付いたのはテオだった。


門を超え、2時間ほど進んだ頃、

「ここで、半分ですか。あと2時間も馬車で進めば、関所が見えますよ。」

オタカルさんのそんな言葉に少し気を緩めると、テオの大声が響く。

「馬車止めて!ルーク、左右誰か潜んでる。」

その言葉に気配探知の魔法を飛ばすと、テオの言うようにだいぶ遠いが、左右それぞれに5人程の人間が穴を掘って、しゃがんでいるのが分かる。

最悪のパターンは両側から弓を射掛けられ、乱戦にもつれ込むこと。

私はすぐに指示を出す。

「テオ、ユニは左に備えろ。アイラ、オタカルさんはその場で身を屈めて。」

馬車を止めたことで、異変に気付いたのだろう。矢が左右から射掛けられる。

私はシールドを張るが、全体は無理だ。なんとか人だけは守るように展開する。

あまり腕は良くない上に対して準備もしてないようで、殆どは外れ、すぐに矢が止んだ。

私は盗賊がこちらに来る前に身体強化を使って馬車から飛び降りる。

そしてこちらに走ってくる盗賊と大地に意識を向け、魔法を発動する。

「ランス」

その言葉に、盗賊の足元から土の棘が飛び出し、1名を除き足元から脳天までを貫き絶命させる。前世から比べ血生臭くなったが、初めての殺しは数年前に済ませてある。

「いてぇー!いてーよー!!」

わざと足だけを貫いて動きを止めた盗賊の生き残り、土魔法で使った鎖で拘束する。

その後私が様子を伺う頃には、ユニ達も1人を除き殺し終えていた。半分は矢で脳天を撃ち抜き、残りは剣で斬り殺したようだ。

残りに関しては、手と脚の腱を切ったのか、こちらの男のように何やら喚いているが、多少もがいているだけだ。

「オタカルさん、お待たせしました。」

「い、いえ、お、おきになさら、ずに。」

息も絶え絶えと言う様子で、それでも返事を返してくれる。顔色もだいぶ悪いが、目の前で10人近くが一瞬で死ねば当然だろう。

アイラも何も言わないが、顔色は倒れるんじゃないかと思うぐらいに、真っ白だ。

「オタカルさん、申し訳ありませんが、盗賊の殲滅にご協力お願いします。」

これは護衛依頼を出す際に説明されることだが、盗賊に襲われた際には可能ならばアジトを特定し、殲滅。それが難しい場合は特定後、最寄りの街の騎士団への報告義務がある。

「わ、分かりました。お任せします。」

「ど、どう言うこと?」

よくわかっていないのか、アイラが気弱な口調で聞いてくる。ユニが説明してくれるようだ。本当に彼女はC級なのかと、疑いたくなるが、例えば宣教師としての腕が優秀なら、護衛の経験はなくても関係ない。もしくはこの様子だと、魔物相手の護衛はしても盗賊は初めてか。

まあ、いい。意識を目の前のことに向ける。

「テオ、向こうでやろう。」

そう言って、生き残りの1人を担ぎ半れた場所に行く。

「分かった。」

テオももう1人を引きずって来る。

私は魔法で土の壁を作り、盗賊を押し込んだ。


この先は少し割愛しよう。

ヒントとしては、2人いる場合、悲惨な死のイメージが鮮明だと口が軽くなる、とだけ言っておこう。1人いれば、聞きたいことは聞けるからな。


当然、私たちは2人で戻った。

「アジトの場所が分かりました。ユニとアイラを残し、私とテオで向かいます。」

それがベターだろう。すると。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。」

アイラからの横槍が入った。

「わ、私も一緒に行かせてくれ。」

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