第14話 冒険者になるために

時間が過ぎ、私たち3人は12歳になった。

この世界では誕生日を祝う習慣は庶民には無いらしく、数え年を使っている。

王侯貴族などは誕生日を祝うようで、誕生日祝いとして社交の場に利用しているらしい。


そんな私たちは今、冒険者ギルドに来ている。

最初ガインの街に入った日のことを思い出す。

初めて冒険者ギルドに来た時は、私は師匠の弟子として、つまりオマケとして登録してもらったわけだが、12歳になると個人として登録してもらえるようになる。

しかし、成人として扱われるのは15歳からで、12歳での登録は見習いとして扱われる。

これは他の職種でも同じようなものらしい。

要するに私たちは、見習い冒険者として登録してもらうためにギルドに来ているわけだ。

ギルドには素材の買取をしてもらうために何度も来ているが、やはり緊張してしまう。

その緊張を気遣ってくれたのだろう。

横に立っているユニが肩を叩いてきた。

「やっと、だね。」

ユニもまた12歳。

美しく成長していた。子どもっぽさも残しつつ、それでも女性らしさを身につけている。

昔から変わらない肩の長さで切り揃えた髪に、眠そうな目つきは相変わらずだが、顔立ちの美しさのせいかミステリアスな印象を受ける。

身長はあまり伸びなかったが、胸部の成長が女性であることを意識させる。

手足もバランスよく伸び、しなやかな筋肉が程よく付いていた。

そして、美しくなった以上に彼女は強くなった。

才能に加え日々の鍛錬を欠かさなかったユニは猛者が集まるガインの街で、既に上から数えた方が早いくらいの実力者だ。

「僕たちもとうとう冒険者かぁ。」

ユニとは反対側に立っているテオが声を出す。

彼もまた成長した。

初めてあってしばらくはテオとそっくりだった彼は、成長した結果、それでもユニとそっくりだった。

というよりは穏やかな性格と表情のせいなのか、テオの方が母親であるマリーさんに似ている印象を受ける。

幸い身長は女性として小柄なユニよりは高いが、平均的な身長のマリーさんとは肩を並べている。違うのは髪の長さくらいだろうか。

「男だからまだ伸びるかもしれないでしょ!」

とは、彼の主張だ。残念ながら父に似るのは諦めたらしい。

そして彼の弓の腕もまた成長した。流石にこちらはまだマリーさんに並ぶほどでは無いそうだが、時間の問題だとは師匠としてのマリーさんの意見だ。

実際森の中の私達の家に来た際に、空を飛ぶ魔鳥ブラッドクロウを1発で射落とした時には度肝を抜かれたものだ。

私達3人は見習い冒険者として登録したらそのままパーティ登録をするつもりだ。

ついでに私について話すと、顔は相変わらず師匠のくれた仮面のお世話になっている。街で動くには一生手放せる気がしない。

ただ体についてはまずまずで、正確に測ることは出来ないが、160くらい。少なくとも道場の子どもの中では頭1つ背が高いし、まだまだ成長出来そうだ。

戦力としては、魔法に関してはまずまずで、ミリア師匠からは魔法の技量だけなら熟練の魔法使い並みと評価されている。ただ、実際の戦闘では技量だけではなく経験もまたものをいうので、慢心はしないよう釘を刺された。

拳闘術の方は実はよく分からない。カイゼル師匠からは基礎は充分身に付いていると、こちらもお墨付きをもらえた。が、未だにユニを相手に一勝も出来ずじまいで実感は出来ない。

そうそう。ユニに関してだが、以前話した身体強化は、剣を持ったユニが相手の時のみ使用を許可された。

これは私の技量以上にユニの成長によるところが大きい。

もちろん稽古なので威力は抑えるが、それでも岩にヒビが入る程度に強化した拳を木剣で受け流されたときはユニ、恐ろしい子。と内心思ってしまった。当然、その後のカウンターで、私は道場の床に寝転ぶことになる。

まあ、なんだかんだ言ってユニのおかげで身体強化を実戦で使える程度まで持ってくることが出来た。

身体強化に限らず、魔法も使った私だけの魔拳闘術はまだまだこれから育てることになる。


ふむ。ユニやテオ、私について考えるうちに冷静になれた。

というかよく考えなくても新人の見習い冒険者としては過剰戦力にも程がある。

「待たせてすまない。じゃあ、入ろう」

私は、ギルドに入るため足を動かした。



ギルドに入ると、人々の喧騒が聞こえる。


初めて来た時は朝と昼の中頃だったため、ほとんど人がいなかった。

それに比べこの賑わいは、少しでもいい依頼を取りに来ているからだ。


少し説明すると、冒険者にも色々な人がいるわけだが、一般的な人が冒険者としてイメージする人は、ここにいる普段からギルドを利用する人達だ。

そういった人達が収入を得る方法は、自分から町の外で魔物を狩って素材を売るか、依頼を受けてそれをこなすかに分けられる。

前者は要するに今まで私がしてきたことでぶっちゃけ冒険者でなくても問題ない。

逆に後者の依頼は冒険者として登録したものしか受けられない。


そして依頼の内容も様々だ。

多いものは、村の近くに魔物が出たから早めに狩って欲しいというものだが、他にも商人や貴人の護衛や工事など力仕事への助っ人。祭りがあるから来て欲しいというのは旅芸人や吟遊詩人向けの依頼だ。場合によっては、山賊などの討伐を依頼されることもあるが、これは町からギルドに依頼が来て、ギルドから信頼出来る冒険者へ直接依頼される。

まあ、そんな感じに色々な依頼があれば割の良し悪しはあるし、何より自分の得意不得意に合わせた依頼を選ぶには、まずはギルドでの争奪戦に勝つ必要があるわけだ。


とりあえず、今日の私たちにはまだ関係ない。

気がはやってこの時間に来てしまったが、待合所で待っていよう。ギルドの右手奥には机と椅子があり冒険者同士や依頼主との待ち合わせに使われる。

移動の為、ユニ達に声掛けをかけようとすると、1人の冒険者が私たちに気がついた。

「お、ルークじゃねーか。それにユニにテオも。今日も素材の売却か?しかし、この時間に来るのは珍しいな。」

髭面の男が声を掛けてくる。山であったら山賊だと思うだろうが、彼、アントンはこの街でも古株の冒険者だ。

面倒見が良く、駆け出しの冒険者の中には彼を慕うものも多い。

「いえ、今日は冒険者登録に来ました。やっと12歳になれたので」

それを聞いた他の冒険者達からも次々と声が出る。

「お、とうとうルーク達も冒険者か!」

「もうそんな歳かよ」

「今までだって似たようなもんだけどな」

「今じゃ慣れちまって感覚が麻痺しちまったが、中層の魔物を狩れるガキなんざほかにいねーからな。」

「ああ、俺は最初に聞いた時はこの街流の冗談だとしか思えなかったぜ」

今までも素材を売りに来たので、冒険者の顔見知りは多い。


ちなみに中層とはエルバギウス大森林の区画のことで、手前から浅層、中層、深層に分かれており、基本的に深いほど強力な魔物が出る。

さらに奥には不明層と呼ばれるどのような魔物がいるか分かっていない場所がある。ここの探索を目標にする冒険者も多いが、行って帰った者がほとんどおらず、帰ってきた一部の人たちは、怖くてやっぱり止めたという賢明な人々なので、結局何も分かっていない。

そして、どこの層を狩場にするかは、その冒険者の実力を見る1つの指標になっている。

浅層は、冒険者になってまだ日の浅いものやあまり戦闘が得意でないものが行く。

中層に行けば、戦闘を生業にする冒険者としてはベテラン扱いだ。

さらに深層に行くようになれば、熟練の冒険者として尊敬を集めるようになる。ここまで来るのは、本当にごく一部の人間だけだ。

これらは大まかな分け方で正確にはギルドではランク制度がが取られているが、それはまたの機会に。

ユニもテオも中層の魔物を1人で狩れる程度の実力はあり、やはり私たちの戦力過多ぶりが分かるというものだ。


「おーい、ソフィーの嬢ちゃん。ルーク達が冒険者登録だってよ。ちゃちゃっとやってやってくれ」

アントンが受け付けにいたソフィーさんに声を掛ける。ソフィーさんは寿退職したアリスさんの後輩で、まだ1年も経っていない新人さんだ。余談だが、アリスさんの相手は門番のルイーズさんだ。どうかお幸せに。

ソフィーさんは明るく元気な性格で、冒険者からは好感を持たれている。仕事覚えも良く期待の新人だそうだ。

「嬢ちゃんはやめて下さいよ、アントンさん。で、ルークさんですか。とうとう12歳になったんでしたね。おめでとうございます。では、準備するのでこちらにどうぞ。」

「いえ、急いでいませんし、皆さんの準備が終わってからゆっくりでいいですよ。」

後ろを振り向くとユニもテオもうなづいている。

「気にすんなよ。むしろ俺たちはお前が冒険者になる瞬間を見たいのさ。なあ、お前らもそうだろう?」

後ろのお前らはここに集まる冒険者達に向けて。すると返事があちこちから聞こえる。

「ああ、構わねーぜ。むしろ自慢の種になるもんさ。」

「そもそもルーク達ならすぐに一流になるだろうし、そうしたら先輩らしいことが出来る機会なんてこれが最初で最後かもしれないからな。」

「ちげーねー。」

ソフィーさんはソフィーさんで

「そういうことらしいので、どうぞ!」

と、にこやかにしている。

どうしたものかと悩んでいると

「ルーク、ここは甘えさせてもらお」

とユニが声をかけてくる。

「なんだ。ルークはユニに尻に敷かれることになりそうだな。」

「ん。ルークは頭がいいくせに優柔不断。私が引っ張る。」

「かー、熱いこって。ごちそうさまってな。」

なんて会話が聞こえるが、私はテオとうなづきあい。カウンターに向かった。


ところでユニはいつ頃からか私への好意を隠さなくなった。

過ごす時間も長く、自然とそうなったらしい。

マリーさんなんかは食事の時に

「ルーク君とユニがうちの道場を継いでくれたら安泰ね。」

なんて言い出し、カイゼル師匠から魔物に向けたこともない殺気を向けられたことがある。翌日の稽古がいつも以上に厳しかったのは、気のせいではないだろう。

そんな彼女に、私は態度を決めかねている。もっというなら、彼女の前で仮面を取る勇気を持てずにいる。

この仮面を使い始めてから、師匠以外の前で取ったことはない。

食事さえ、少し焦らして口だけを出している上に、俯きながら食べる始末だ。

結局ズルズルとなんの返事もしないまま、しかし離れることもせず、幼馴染として今日まで過ごしている。

1度好意に耐えかねて、これでいいのかとユニに尋ねたことがある。すると

「ん、待っているから大丈夫。」

結局、彼女のこの言葉に甘えて今まで来たし、しばらくはこのぬるま湯から抜け出せないままだろう。

決して、その後に彼女がボソッと呟いた

「どうせルークは私から逃げられない」

というセリフに感じた狂気を恐れているわけではないのだ。


閑話休題。

私たちはカウンターの前に揃って立った。

ギルド到着から随分時間が掛かった気がするが、とうとう登録する事になった。

「では、改めまして。ルークさんはラトさんの、ユニさんとテオさんはカイゼルさんの弟子として既に登録されてますが、今回は個別での冒険者登録となります。ただご存知の通り皆さん成人前ということで、見習い冒険者という立場になります。ではこちらの紙に、ご自分のお名前と得意技術を記載してください。」

ソフィーさんはそういうと3枚の紙をカウンターに置く。

私たちはそれぞれ持参した筆記具で書いていく。冒険者は出先でサインをもらうこともあり、携帯式の筆記具を持つのがマナーだとカイゼル師匠から教わった。

名前はいいとして、得意技術だが、まずは魔法。

攻撃魔法、探索魔法、回復魔法を記載する。

空間魔法は使えることが知れると貴族から目をつけられるなど面倒につながるので親しい人以外には秘密だ。収納魔法は、ラト師匠から収納袋を譲ってもらったことになっている。

次に拳闘術を書く。

本音を言うなら、魔法拳術と書きたいが、これはオリジナルどころかまだ開発中の技術だ。まだ書けない。

いつか堂々と魔法拳士を名乗ってやる。

ユニ達も書けたようだ。

私たちは紙を提出し、ソフィーさんが確認する。

「はい、問題ないですね。では、冒険者のカードを作りますので、改めて冒険者のお仕事を説明します。皆さん、私より詳しいでしょうけど、カードが出来るまで時間もありますし、お付き合いください。」

「はい、よろしくお願いします。」

「では、まず冒険者の仕事は多岐に渡ります。基本的にはあちらの壁の依頼から自分に出来る物を選んでこちらに持ってきてください。ギルドが内容を確認した時点で依頼が開始されます。その後依頼をこなしたら依頼主にサインを貰うか依頼をこなした証拠になるものをギルドに提示してください。サインか証拠をギルドが確認した時点で、依頼は達成。あらかじめ依頼主から預かった報酬をお支払いします。もしくは、魔物を討伐し利用価値のある素材を持って来ていただければギルドにて買い取ります。買取額は相談可能ですが、未知の素材やよほど数が足りてないなどの理由がなければ、基本的にあらかじめ決めてある額になります。また素材の状態によっては減額もあり得ますのでご注意ください。」

そこでソフィーさんは話を切ると、表を見せてくれる。そこには1から7の番号とSからFまでの文字が、2列並べられている。

「次はランクについて説明します。ランクはその冒険者の実力と信頼を図るためのものでそれぞれに実力ランクと信頼ランクと呼ばれ、評価しています。実力があってもギルドでの実績がなければ、信頼ランクは低いですし、逆に戦闘は苦手な方でも実績があれば信頼ランクは上がります。これらのランクは数字が小さいほど評価が高く、例えば実力が6、信頼がFの冒険者は6F級冒険者もしくはただF級と言うのが一般的ですね。人気の旅芸人さんなんかは、7S級という方もいらっしゃいます。信頼ランクは今までの依頼の実績を見てギルドが判断します。実力ランクは、ギルドにて行う実技試験を受けていただき、その評価で上がっていきます。ただ皆さんに関してなんですが。」

そこで1度言葉を切りこちらを見るソフィーさん。

「本来は未成年という事で7F級冒険者として登録し、2、3年はこちらが指定した依頼をこなして頂くんですが、皆さんはあまりにも例外という事で、希望される場合は実技試験を受けて頂き正式な冒険者として登録するようあらかじめ上から指示されています。いかがなさいますか?」

なんと、これは予想外だ。

「そういことらしいけど、2人はどうしたい?」

「ん、私は試験を受けてもいいと思う。」

「僕もかな。折角だし自分の実力がどう見られか、知りたいな」

「分かった。私も早く冒険者として働けるならありがたい。では、ソフィーさん、そういうことで試験の方よろしくお願いします。」

「分かりました。では、準備が出来次第お呼びしますので、待合所で座ってお待ちください。」


その後、私たちは待合所で1時間ほど待つことになった。

アントン始め冒険者からは祝福され、特別待遇に驚かれた。

ギルドにおいてランク制度は特に厳格で、昔勘違いした金持ちの息子が賄賂でランクを上げようとした結果、ギルドから除名。その家も、ギルドとの今後の付き合いを考え、その息子を勘当したという噂がある。

都市伝説のようなものだが、そういった噂がある時点でギルドの立場が現れている。

つまりはそれだけ期待されているという事だ。

師匠たちの顔に泥を塗らないようにしないとな。

ちなみに、ラト師匠は5B級冒険者でカイゼル師匠は2B級冒険者だったらしい。ラト師匠の実力ランクが低いのは、仕事が主にポーションを卸していたからで、特に試験を受ける必要がなく勧められて仕方なく受けた結果らしい。


「ルークさん、ユニさん、テオさん。準備が整いました。試験場までご案内するのでついて来てください。」

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