第23話
ユーティリア・レディース・レイクは、寝る前に庭をしばらく眺めてから寝床へ入るのを習慣にしている。
いつものように窓を少し開け、用意してある椅子に座り、壁へと寄りかけた。
湯浴みを終え侍女のアナシアよにって手入れされた姿はとても美しく、この姿を見るものが居れば一目で心を奪われること間違いない。しかし、一向に被害者が出ない理由はアナシアのおかげと、朝の訪れと供に庭へと飛び出し土を弄るが為に土埃を被るからなのだが、当の本人からしてみれば自身が他人の目にどのように映っているのか全く考えにないのが一番の原因かもしれない。
いつものようにしばらく庭を眺めるユーティリア。
「・・・」
空けていた窓の隙間から、ふわりと一陣の風が舞い込み、彼女の肩に掛かる薄手の生地を優しく揺らす。
別にそれだけのことなら気にはしないし、それを合図に寝てしまってもよかったのだが・・・
「何かしら?」
今日は何処か違うと感じるのだ。
昼間は色とりどりに見える庭も、月明りの元ではまるで違う姿を見せてくれるのはいつもと同じなのに。
分からない。
気になって仕方ない。
まるで、こっちにおいでよ、と誘われているような感覚を覚えたユーティリアは庭へ出る事にした。
「・・・・・・」
そういえばこんなに遅い時間に庭へ出たのはいつぶりだろうか。
見慣れた庭のはずなのに、夜に香る独特の香りや、いつもと違う様子を見せてくれる花々に心が弾む。
やがて中央にある噴水近くへ来た時だ。
日中に手当てした花の様子が気になってそちらへと歩を進めると、そこに―――
「ぁ・・・」
誰かが、居た。
外套で姿を隠し、表情は仮面を身に付けて見えない誰か。
いくらお気に入りの庭と言えど、ここは宮廷内であって、皆が眠りに付き始める時間帯。
誰がどう見ても不審人物と断定するのは容易いはずなのに、その存在を見てユーティリアが取った行動は、見守る、だった。
大声を上げて助けを呼ぶでもなく、恐怖に身を強張らせるでもなく、見守るという選択。どちらかと言えば、観察するという表現に近くもあったかもしれない。
不審人物の目先には、自身が剣の鞘を添えて手当した花があるのだが、その触れ方があまりにも優しく、まるで赤子を優しく撫でている様な姿に、ユーティリアは目を奪われた。
邪魔したくない。
そんな感情を覚え、見守る事にしたのだ。
だが何時までも眺めているわけにも行かずにいると不意に。
「う~む。どうするかなぁ・・・」
と、困った声が上がる。
自分でもどうしてこんなにも大胆な行動に出られたのか説明できないけれど、気付いたときには声を掛けていた。
「どうされましたか?」
「っ!?」
振り向いた瞬間、ユーティリアとノクトの視線が交差する。
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