第7話

 今日は騎士院が休院の日。

 東騎士院所属、騎士見習いこと、ヴィオラ・スウィーティオは、外周街正面門広場で行われるであろう剣舞を見学する為、いつもの場所でど真ん中最前列を確保し待機をしていた。

 理由を問えば剣技の勉強になるからと彼女は答えるだろう。

 もっと言うと、普段騎士院で教わる前から、騎士貴族の娘の生まれ育ち。

 初等過程の内容は騎士院に入る前に身につけており彼女にとって取るに足らないものだった。結果、同じことの繰り返しが日々を色あせて見せていたのだ。

 成績も常に上から数えるほうが早く。歳が九歳という割りに随分大人びており、母親から教わった女の子の嗜みと自分で覚えた女の子の嗜みに加えて、育ちつつある容姿という条件が揃えば。目を奪われる同世代も、その少し上の世代も少なくない。

 容姿端麗、将来有望、東騎士院初等部に、騎士見習ヴィオラ有りと謡われるほど名の知れた存在。

 きっと初め出合ったのが彼らの剣舞でなかったら、彼女の行動周期も変わっていたのだろう。

 初めて見た剣舞は彼女の心に突き刺さり虜になって以来、異性からの誘いや友人知人からの誘いよりも優先し、ここへ来る様になっていた。

 見ていて楽しい。

 ドキドキワクワクが止まらない。

 こんな体験は騎士院では、絶対にできない経験だ。

 それを今日も楽しみにやって来たというのに、少しだけ様子がいつもと違う。


「・・・なんなのよコイツ」


 人が集まりつつあるものの、周りは広く空いているのに、わざわざ自分の真横に来たのだ。

 初めはよくある誘い目的かと思ったが様子が違い。ヴィオラ自身など、これっぽっちも視野に入っておらず、何が始まるのだろうと興味を惹かれ寄って来ただけだと分かった。

 隣で立ち続けている姿に親切心から声を掛け、本音は邪魔だからと、どこか離れて座ったらと声を投げかけたら。


「ありがとう」


 と、言うなり。いきなり真横に座ったのも衝撃だ。

 肩と肩が触れ合う距離。

 顔が真横に来て焦った自分とは違い、向こうは自分の事など気にも留ない様子に、何故だか苛立ちを覚えた。

 年は自分と同じくらいだろうか。

 何かお日様の様な匂いがする。

 何だか格好いいような。と、ぐるぐる考えが回ってしまうが。

 結局考えが纏らないまま、彼らの剣舞は始まった。


「おおおおおおおおおおおおおおお」


 集まった観客も、足を止め輪に加わった観客も、どんどん盛り上がる。

 この雰囲気が好きだ

 何度見ても胸が高鳴り。

 毎回見る度に、動作を変えている彼らの工夫も、ヴィオラが彼らを買う要因の一つ。加えて、見る側の人々との一体感と言うのだろうか、皆が一斉に声が上がる瞬間は最高に気分が良く。

 自分もこんな剣舞をしてみたい。

 こんなにも高度な攻防ができるようになりたい。

 何て思いながら彼らの剣舞を見ていると、騎士院で溜まった鬱憤は何処かへ吹っ飛んでいった。


「良かったあ・・・」


 なのに、だ。

 剣舞が終わり余韻に浸っていると、信じられない言葉を彼は、言ったのだ。

 それも不満げな、納得いかないといった表情で。


「どうしてあの人達は、打込み合いで無駄な動きをしていたの?―――」


 え?って声が出そうになった。

 それだけでは終わらず、とんでもないことを平然と言い放つ。


「―――わざと急所を外したり、動きが大きかったり変だなって。踏み込みだってもっと深く踏み込めると思った。あれじゃ鍛錬になんてならないのに」

「っ・・・」


 彼方みたいな子供に、彼らの何が分かるのかと言いたかった。

 あの域に達するにはどれほどの鍛錬を積まなければならないのか、騎士を目指している彼女だからこそ分かる辛さと彼らへの称賛。

 それを土足で踏んだのだ。

 思いっきり引っ叩いて、謝って欲しいとさえ思えた。

 父親も、息子の言葉を否定もせず、肯定したことにさらに苛立ちを覚えたけど寸前の所で我慢した。自分自身良く我慢できたと思う。

 言い表せない怒りに支配され、少しでも間違ったことを言ったりしたら、即座に言い返してやろうと心に決めた。

 だから、最後まで声の聞こえる範囲で見張っていたのに・・・

 気が付けば、親子の会話に引き込まれている自分が居たのだ。


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