第24話 思いもよらぬ爆弾

 ぬぼーっ……。

孝宏たかひろ?」

 ぬぼーっ……。

「どうしたの? テストそんなやばかったの?」

「ぬぼーっ」

「ぬぼーっとした顔でぬぼーって言う人初めて見たよ。何? 赤点でもあった?」

 心配半分、呆れ半分ぐらいの顔でこちらを覗く昂輝こうき

 俺は絶望の全てを語る事にする。折り紙を折るときより丁寧に折りたたんでおいた答案用紙を一枚広げて見せた。

「物理38点……」

「物理!? 頑張らなきゃいけなかった理系教科じゃん。何回もテキスト解いてバッチリって言ってなかった? あれ……これって」

 俺の見せた答案用紙を、最初から最後までしっかり問題用紙と照らし合わせて、何か間違いがないかと探してくれてる昂輝さんマジいい奴。

「最後の大問……回答欄1個ずつズレてたんだよ……途中1個分からん問題のとこ空欄にしてたせいでごっちゃになってたみたいで」

「本当だ……マークシートじゃないんだから気付きなよ」

「だよな……俺もそう思う」

 死にたい……究極に死にたい。ズレて無ければ+30点……68点なら平均点が57点だから充分合格点だったのによぉ……。

「今回大問4が配点40点だったからキツいね。他の教科は?」

「他の教科?? 何の事だよ」

「今日物理以外にも現文とかOCとか生物も返ってきたでしょ?」

「は? え、なんだ!? もう今日授業終わり!?」

 確かに周りは帰り支度を整えて帰ろうとしている。

「今日一日の記憶が曖昧なほど意気消沈してるのは分かったよ。だから休み時間も声かけなかったんだし」

 流石に苦笑いの昂輝。マジで賀来かくセンの物理のテストの答え合わせ以降の記憶ねぇぞ。

 机の中をガサゴソと漁ると、回答用紙が確かに乱雑に3枚入ってる事に気付く。

 それをひょいっと全部広げてみせると……。

「OC72……生物78……現代文88!? 全部平均より15点オーバーだよ!?」

 興奮した声で言う昂輝だが、俺は逆にドライな返事になってしまう。

「おぉ……そうか」

「いやいや、孝宏って確か新年度最初の実力テスト5教科で200点とかだったよね!?」

「うん……まぁ」

 気の抜けた返事で返してしまうと、昂輝の顔が、不満げに渋くなっていく。

「孝宏、確かに石原さんと同じクラス目指した上でのミスはショックかもしれないけど、一生懸命教えた側としては、もう少し喜びを分かち合いたいとこなんだけど?」

 やるせなさそうに問いかけられ、俺は頭を抱えてしまう。

「無理言ってあんだけお前に時間割いて教えてもらったんだ。こんなもん当たり前だし、だからこそショックなんだ……物理でやらかした事がな。本当申し訳ねぇ」

「孝宏……」

 クッソォ、新垣と競ってる昂輝の大事な時間もらってまでやってんだぞこっちは……なっさけねぇ……あ。

「昂輝は大丈夫だったんか?」

「大丈夫ってテスト? 今のところはほぼ100点だし、負けてないと思うけど。というか、多分新垣さん今回いつもより点数よくないかも?」

昂輝自身も少し戸惑っているのか、ただ自信が無いのか小首を傾げて言う昂輝。

「点数聞いたのか?」

「いや、先生が誰かとは言わないけど、テストの最高点は言うでしょ? それが俺じゃなかったら、新垣さんかなと毎回思ってたんだけどさ」

「あぁ……つまり今のところ昂輝がこのクラスの最高点を出し続けてるのね……」

 ようは新垣は昂輝以下の点数か、取れてても同じ点数って事だ。相変わらずサラッととんでもねぇこと言う奴だぜ昂輝さんよぉ。

「でも全く同じ点数って事もあり得るんじゃねぇか?」

「まぁ、そうなんだけど、今日返ってきた教科でOCに関しては、新垣さんってずっと100点取ってたんだよ。なのに俺の97点が今回の最高点らしいからさ。もしかしたら今回調子悪いのかなって」

「え、なんだあいつ。なんかあったのか?」

「テスト勉強のし過ぎで体調が悪いようにも見えなかったし、なんか精神面で左右されることでもあったのかな?」

 うぅむ、フッたのは一昨日だからテストとは関係ねぇはずだもんな。大方婚約者云々で勉強がおろそかになっていたとかだな。婚約者グッジョブ。いやまぁその婚約者俺だったんだけども。

「俺のことはいいから。それより孝宏が心配だよ。1年生のときのサボったツケの分孝宏2年で頑張らないといけないんだから」

「おぅ……まさかいきなり赤点スレスレとはな。数学とかでもやらかしてない事を祈らんと」

「名前書き忘れてるとかね」

「あぁ、それな」

「計算途中で間違ってたり」

「あぁ、あるある」

「数字を漢数字で書いてたり」

「あぁ、あるあ……ねーよ。どこまでヤンキーか」

「あっはっはっはっは」

「いや、あっはっはっはっはじゃなくて……」

 俗に言うフラグが立ってしまうからやめて欲しい。しかも陣内みたいな笑い方しやがって。あいつはだーっはっはっは、だけどな。女度0の大笑いだけどな、あ、陣内といやぁ、あの新垣の誕生日パーティーの後、陣内や昂輝達がどうなってたのか俺知らないんだよな。

「なぁ、そういや一昨日のパーティーの後、遥さんと陣内って一緒に帰ったのか?」

「そうだ、それそれ、孝宏婚約するの? 新垣さんと」

「んなわけねぇだろ。昂輝でもぶっ飛ばすぞ」

「顔怖いなぁ、ぶっ飛ばされたら、勉強もう教えられないね」

「すいませんでした」

 顔怖いなぁって言った昂輝の顔の方が絶対怖かったぞ今。お陰で俺の心臓が止まりかけた……おかしいなぁ、10人相手でもビビらない鋼の心臓だと思ってたんだけどなぁ……なぜバックバクするのかしら?

 俺の完全敗北謝罪をまた可笑しそうに笑った後、昂輝は何気ない感じで尋ねてくる。

「石原さんにはもう事情説明した?」

「あぁ、陣内がな。予め俺に説明する場を作ってくれてて」

「へぇ、会長が。意外だね」

「意外? なんでだよ。あいつ結構周りの為にフォローとかするタイプだろ?」

「あぁ、そうなんだけど、俺の見てる感じ、会長は孝宏の事好きだと思ってるから」

「…………はい?」

 昂輝さん? 今なんて?

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