第4話 学年一位だって人間です。(作品フォロワー100人突破記念投稿)

 テスト一日目、今日やる教科は正直緊張しなかった。というのも、現文、倫理、日本史と得意教科だけだったからだ。得意と言っても今までは平均点ぐらいだったけど。今回は自信がある。

「お疲れ、どうだった?」

 帰りの準備をし始めると、昂輝が机までやって来た。

「まぁまぁだな。全部埋めたし、全く分からんってのはあんまり無かった」

「おー、凄いじゃん。俺のおかげだね」

「全くだ。ありがとな」

「こ、この人見るからに幸せオーラが溢れてる……ってごめん、内緒だったね」

 しーっと人差し指を口元にやる仕草がさまになっているのは、流石昂輝である。

「意味深みたいな事言う方が怪しまれるっての」

「まー、その辺怪しむ人は新垣あらがきさんくらいでしょ」

「何で新垣?」

「またまたー。新垣さん、孝宏たかひろに気があるでしょ。隠してる感じでもないし」

「……第三者から見てもそうなのか」

「何でそんな絶望顔?」

「お前はあいつの事を知らないからそんな能天気な事が言えるんだ……」

「ふーん」

 昂輝の見てる場所は教室の前扉に一番近い席。テストの時は出席番号順、というか五十音順になるからな。新垣は出席番号一番の為、テストの時はあの席となる。そしてその真後ろの席で生命の輝きを放つのはマイステディ、大天使ハルカエルである。

 地獄と天国が微笑み合っているのは、非常に画になっている。が、俺は天国だけ見ていたいのだぜ。

 はぁーとため息を吐くと、昂輝は視線を戻して、尋ねてきた。

「今日は生徒会室行くの?」

「おぅ……ちょっと」

 指でちょいちょいと誘う仕草をしてから、会話を周りに悟られぬよう、後ろの方へと誘導し、小さな声で事情説明を。

「ちょっと生徒会室で勉強してから、みんなが帰り終わるぐらいの時間帯に一緒に帰るって話になってる」

「へー、青春って感じ」

 ニヤニヤしやがって。俺が幸せ絶頂じゃなきゃぜったいはたいてんな。

 睨んでいると、昂輝の目には少しくまが見える。

「昂輝は帰って勉強か?」

「そうだね。今回あたり抜かれちゃいそうでヒヤヒヤしてるし」

「お前が? 誰にだよ」

 尋ねると、嘆息づいてから答える。

「新垣さんだよ」

 まーた一つあいつの嬢王レベルが上がってやがるのか。どこまで行くのかある意味楽しみなところあるよね。最終的に嬢神とか嬢神王とかになるんじゃないかな。

「新垣って、トップ5ぐらいの順番なのは噂に聞いてたけどそんなすげーの?」

「それって一年の最初の方でしょ? 一年の二学期からはずっと二番だよ」

「はー、それで、ずっと一番の昂輝くんは震え上がってるわけだな?」

「まぁ、そういう事だね。前回の一年最後の学年末テスト、二点差だったし」

 目の隈といい、おくびもなく自分の弱気を晒せるあたり、珍しく結構追い詰められてそうだな。

 二位になっても別にいいじゃんって俺は思うわけだけど、今までずっと一番だった譲れないプライドみたいなものが、昂輝にだってあるのだろう。

「昂輝って何で特進クラス行かなかったんだ? ずっと一位取りたかったんならそっち行けば勉強に集中出来たろ?」

「特進クラスは制約が色々あるからね。やれる部活動も限られるし、それこそ生徒会なんてやれなくなるしさ」

「そっか、昂輝は普通に、陣内じんないと同じ一年のタイミングで生徒会になってるし、その時点で特進クラスより生徒会選んでるわけか」

 特進クラスとは特別進学クラスの略。難関大学の受験希望者のみ集められた勉強の選抜クラスだ。

 どの学年にも一クラスだけ編成されているが、俺らの学年は昂輝がずっと学年一位を取り続けてる為、折り合いが悪いというか、実質あのクラスとはどのクラスも仲が悪い。

 なんか特進クラスの奴らって、通常のクラスより上みたいな風潮を持っているのが癪に触るんだよな。

 にしてもそうか、じゃあ、特進クラスより頭が良い奴が二人もこのクラスにはいるわけなんだな。

「生徒会入りたくて、特進クラス入らなかったのかよ?」

「うーん、そういうわけじゃないけど、ずっと好きな子が生徒会やってるからさ。なんとなくね」

「ほーん、は?」

 今こいつ、とんでもないこと言わなかった?

「あ、多分孝宏間違った事考えてる。別に会長や愛生あきが好きなわけじゃないからね」

「だ、だよなー。ビビった。昂輝自分の好きな女とか全然匂わせねぇからよ。マジなのかと」

「いや、嘘は言ってないけど」

「はぁ!? じゃあ、新垣かもしかして遥さん!?」

「声でかいなー。違う違う。違う高校で生徒会やってんの。まぁ、接点出来るかなーなんて。思っちゃったわけ」

「お前もなんだかんだかなり特殊だよな。普通好きな奴の為に生徒会入るか?」

「俺もその辺は自分をバカだなーと思いながら生きてるよ」

 苦笑いする昂輝が、いつもと違う、人間味みたいなのを感じて、少し、安心する。

 だがそうか。昂輝の好きな奴他校なのか。どんな奴なんだろ。

「どこの高校で生徒会やってんの?」

「天蘭高校だよ」

「ほーん、役職は?」

「会長やってるってさ」

「ほーん……うほーん!?」

「な、何故急にゴリラのモノマネ?」

 ……遥さんと付き合えた時レベルの驚きが脳から声へと突き抜けた結果が凄くゴリラだっただけである。

 そういった姿を全く以って見せてこなかったのに、衝撃の事実。

 昂輝の好きな奴って……まさかの……黒木さんかよ。

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