第3話 秘密にしよう、そうしよう。
朝から大欠伸をして登校。結構早めに寝たのだが、それまでの睡眠不足が祟ったのか、眠さが中々にキてる。
こんな注意力散漫じゃあ、テストに支障が……。
「
完全覚醒!!! 心を燃やし、熱く生きてみせろォ!!!
「おは、おはよう! 遥さん!」
意気込んだ割には普通の挨拶だなとか突っ込んではいけない。俺の目のシャッキリさを見て。ほら、ダイヤモンドより輝いてるんだから見て。
「おはよう」
あー、顔色が良いーーーー! その笑顔は、俺のゴミクソダイヤモンドなんか比べるのもおこがましいほど輝いてるううううう!!!
幸せえええええええええ!!
「本当に、身体は大丈夫そうだな」
「バッチリ」
ガッツポーズ、世界獲れるよ。可愛さで。
一句詠んじゃうよねぇー。可愛すぎてねぇー。古典これで百点だわー。(意味不明)
「孝宏くんは……重くなかった?」
「え、え、え、何が? 俺の想いが? 想いが重い? いや待って、ごめんけど、やっぱり俺的に遥さんへの想いが軽いなんて事はあってはならないとそう思うわけでありまして、因みにどの辺が重かったのか、今後の参考に教えてもらっていい?」
尋ねると、目を数度パチクリさせた遥さん。え、ご理解頂けなかっただろうか。もう一度言った方がいいかしら……。
「……私の事なんだけど」
「は、遥さんが重い!? そんなわけないじゃないねぇか? え、あれか? 俺に対する想いが実は結構重いものを持ってるとかそういう事なの? 何それ嬉し過ぎるんだが。だって、遥さんは物理的にはスッゲー軽いし、この前遥さんのお家の近くまでおぶって行った時も本当にアレ? 羽根背負ったかな? って思ったもんな? あれ本当羽根だったうん。羽根以外の何者でもなかった……あ」
そこまで言って遥さんの顔がみるみる熟れたトマトの如く赤くなっていった。
……もしかして重いって……その事?
「……孝宏くんって、馬鹿?」
「うん、ごめん、スッゲー馬鹿です……」
頬を膨らませてる遥さんもかーわーいーいー。何なの? あまりの可愛さにこの世界にキレるわマジで、ありがとよ!! 世界!! 覚えてろよ!?
「お家の人、心配しただろ? 家帰ったら体調悪くしてる遥さん見て」
「ううん、体調崩したの、親が帰る前に言ってた」
「え、用意周到! 流石遥さん!」
「大袈裟」
苦笑いされてしまった……。ちゃんとしよう。ちゃんとした彼氏にならねば。
告白してから、遥さんに相応しい男になる事は、俺の大事な誓いのうちの一つになった。
その為にも今日のテストは、けちょんけちょんにしてやる次第だ。
テスト用紙にへいパンチを25連続で打ち込むイメージトレーニングをしていたら、いつのまにかジッとこっちを見ている遥さん。
視線が交差した時、遥さんは口にする。
「孝宏くんは、付き合ってる事、内緒にしたい?」
「俺は全然。
「じゃあ、会長さんと、新垣さんは?」
「んー別にいいんじゃ……ハッ!?」
余りにも幸せ過ぎて新垣ゆかなの存在を記憶から抹消していた……が、忘れてた。あいつ、俺の事諦めてないのでは?
学校から消えた彼女の姿がチラつく。
鎌瀬が今どうしてんのか知らんけど……新垣が邪魔と思えば、そういう事も出来てしまう女というわけで……。
だが、ここで新垣をピンポイントで名指ししたら、明らかに怪しい。『え、新垣さんには言わないなんてもしかして……実は孝宏くんって、新垣さんの事が……』なんてよくあるドタバタラブコメディ展開は要らない。マジいらない。海外のお土産にある、よく分からないおっさんの人形より要らない。
考えろ。木を隠すなら森の中、新垣ゆかなを隠すなら何処だ? ドブか? ゴミ処理場? はたまた墓地か? くっ、ダメだ。あいつ何処にいてもゾンビのようにやってきそう。なんせ生徒会に入ってまで俺追っかけてくるし……あ。
「せ、生徒会の昂輝以外には言わない方がいいかもな!」
大きな瞬きを一つしてから、訝しむように、遥さんの視線はこちらに向けられる。
「……どうゆう事?」
「ほら、同じ生徒会の中で彼氏彼女になったりすると、仕事上で変に気を遣われたりして、効率面で影響出ちゃうとダメだろ? ただでさえ昼休みも駆り出されるくらい陣内とか忙しいしよ」
「なるほど」
遥さんはうんうん頷く。即興にしては上手いこと言えたな!
信じてもらうなら、遥さんに新垣の本性やら、あいつの俺への感情やら伝えるのが一番いいんだろうけど、勝手に人の想いをバラしたりするのは、男としてやりたくねぇ事だし。
「昂輝には周りに言うなって言っておいたし、あいつの事だから大丈夫だと思うけど、周りに言うと結局昂輝以外の生徒会の奴に知られるかもしれないし、黙ってようか。秘密にした方がなんか、彼氏彼女っぽくて俺的に良いしって思うっつーか……ん?」
あ、後半何も考えずにそのまま言っちゃったぞ!?
俺の気持ちを押し付けてらみたいに思われてしまうのでは!?
恐る恐る表情をうかがうと、遥さんは、朗らかに微笑んでいた。
「……うん、そうだね」
え、百カラッツ? この笑顔百二十カラッツ? 遥さんの俺への輝きが留まることを知らない。
朝にあったはずの気怠さ、眠さが本当に無かったことになるようなその笑みが、隣にある事が、まだ信じられなくて、教室に入るその時まで、彼女の横顔を盗み見る、挙動不審な俺であった。
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