第2話 電話で遥なる幸せを。
日曜の夜一九時。こんだけ勉強したの高校受験以来だ……。
机にはびっしり解き終えた問題集十数冊の山。これをきっかり全部三周ずつ解いた今なら、テストの点数もそこそこ取れるだろう。
はー疲れた。やっべ、FG○のログインしてなかったわ。携帯を……は!?
『
「二時間前にLINE来とるやんけ……
思わず出る独り言。まさかのまさか、遥さんからLINEが来る事があるなんて!!
嬉しいいいい!!! これが……神のお告げ……いや、女神のお告げ?
へ、返事、どうしようかしら。えっと……えっと。
「ぼちぼちです。遥さんは、身体大丈夫ですか?」
力の入る返事って何で、声出しながら文字打っちゃうんだろうな。
一人何故か気恥ずかしさを覚えていると、数秒で既読が付き。
『電話していい?』
「ホゲェ!?」
「兄いうるさいし、独り言エゲツない」
うちの妹って何でこんなに目だけで人に蔑みの感情を主張出来るのだろう。
凄い才能だと思う。いや本当に。
「ご、ごめん。ちょっと知り合いからのLINEにびっくりしてな」
「ふーん」
「外で電話してくるわ。うるさくなっちゃうからな」
「…………」
そんなに睨まんでも良いだろっつーくらい目が威圧的な
お互い部屋で勉強してる分には平和なのだが、愛衣ちゃんが勉強中とかに漫画でも読んで笑ってようものなら、その日は絶対口を聞いてくれなくなるのである。
昔はもうちょい可愛げがあったもんだけども。
いやいや、妹の事より今は遥さんの事! 俺はすぐにアパートを出て、階段下の踊り場というか庭っぽいとこまで降りた。
電話したいって何だろう! ま、まさか、親に俺と付き合う事を反対されてしまってフラれるとか? あり得る……。
それとも、勢いでOKしてしまったけれど、よくよく考えたら進路の事も考えたら付き合うとか難しいかもとフラれるとか? おぐぉ……ありうぇる……。
は、はたまた……今日占いで元ヤンの人とは別れた方がいいって言われたから別れようねとか言われちゃうとか?
あ、あ、あ、あ、うぉあるぃうぇるぅー!!!!!
いやあああああああああ!!!
その瞬間鳴る着信! 折れてる心!!
だが電話が鳴る事により無意識に指が伸びてしまう通話のボタン!
『もしもし』
「まだ、ずでられだぐないでずぅ」
『何事?』
至って冷静な声で返されると、俺も幾らか冷静になれた。というか、第一声からしてヤベー奴を彼氏にしたと思われて、フラれてしまうのでは? ずでられだぐないでずぅ……。
「い、いや、遥さんから電話なんて一体どういった理由でフラれてしまうのかと思いまして」
『何故? 孝宏くんの事好きなのに?』
「……ハッァ」
過呼吸もどきなう。死ぬ、死んでしまう。幸せで死んでしまう。戸惑いつつの簡素な返事なのに、百点じゃ足りない、二億点くらい叩き出す遥さんほんま世界の宝。
『孝宏くん?』
「あ、ごめん、俺も遥さん大好きです。えっと、何の電話だったんだ?」
尋ねると、電話口からさっきより明るめの声が返って来た。
『明日、学校行けそう。お礼言いたくて』
「そっか! 良かったぁ。でも勉強出来なかったんじゃねーか?」
『うん、でも、テスト受けれない方が問題』
「確かに、休んじゃうと、うちの高校救済措置あんまり無いからな」
我が平成高校は、テストを休むと、その期に行う、残りの中間か期末テストで取った点数×八割だかが、休んだテストの正式な点数として捉えられてしまう。
逆に言えば中間で百点取りゃ休んでも期末が八十点になるんだから、もう休んだ方が勉強しないでいいから楽じゃん。とか一年の頃は思ってたんだが、勿論、そんな志が低い遥さんでは無い。
『明日テストダメかもしれないけど、頑張る』
「遥さんなら大丈夫だって」
『……ありがとう』
耳に伝わる優しい言葉が、しばらく反響して、嬉しさがこみ上げる。
俺の言葉が、彼女に安心を与えられてるような気がしてしまう。自惚れかもしれないけれど。
「そうだ。遥さん、国公立理系行くって本当か?」
『知ってたの?』
「
そういえば、付き合う時、あの約束以外、特に決まりごととか無かったけど、付き合った事を何の躊躇いもなく昂輝に言っちゃってるの問題だったかもしれない。
なんせ元ドチンピラが彼氏になったとか、周りからしたらバッドステータスに見られてもおかしくない。
「因みに昂輝に付き合ってた事言っちゃったけど……大丈夫だった? 俺と付き合ってる事とか、誰かに知られたりしたくない……よね?」
イヤーー! 何言ってんだ、俺の馬鹿野郎! こんな尋ね方したらダメなんて言えるわけねぇだろ普通。遥さんみたいな天使がよぉ!! いかん、気を遣わせる前に何か話題を……。
『駄目な事、ある?』
ただ意味を問うた。そんな無垢な尋ね方を遥さんはするのだ。
邪念も雑念も微塵もない、本当に意味を知りたいというだけの問いを。
「……遥さんってさ、よく騙されやすいって言われない?」
『言われる! どうして分かるの?』
いつも大人しい遥さんの、ちょっと熱の入った声が、可笑しくて、可愛くて、この子と付き合えた事を、俺は幸せに思い続けるだろうと、そう思えたのだった。
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