第34話 これからの二人。

 食事を終えた俺たち、帰りは俺はバスで、新垣は地下鉄だった為、新垣を地下鉄のホームまでは見送る事にする。

 歩きながら、疲れてしおらしくなっている新垣あらがきを見て、尋ねてみる。

「お前、お付きのあいつ呼んだ方がいいんじゃねぇの?」

「お付き……あぁ、才原さいはらのこと? なんでよ?」

「めっちゃ疲れてんじゃん。車で送迎頼めば?」

「無理よ。他の人ならともかく才原ペーパードライバーだもん。栄なんて逆立ちしたって来れないわ」

「逆立ちしたら来れるわけねーだろ」

「言葉の綾だから……何? 生徒会ってバカでもなれるわけ?」

「なれるみたいだぞ。陣内じんないからの指名でな」

「……ふーん」

 何だその面白くなさそうな顔は。情報の途中でそんな反応すると次が言いづらい。

「でも、本人がもう指名する気無いというか、頼めるような奴がいないっぽくてな」

「え? 何? まだ頼む必要があるの?」

 その意外そうな顔に、俺は苦笑いしてしまう。

「まー生徒会事情なんて普通興味ないよなぁ。今生徒会立て続けに三人抜けたからよ。俺ともう一人1年まで駆り出されてる事態で。あと一人探してるとこなんだよ」

「今も?」

 何だよ。さっき興味なさそうだったのに。ぐいっとにじり寄ってきたので、人一人分距離を取ってから答える。

「いや、こっちで交渉して多分石原が入ってくれるって事になってる」

「あぁ、だから最近石原さんと休み時間どっか行ったりしてたわけ? 珍しい組み合わせとは思ってたけど」

「ん? おぉ」

 あれ、なんか、フッた時と話が噛み合わないような気が……とか思っていたら、新垣は何かふむふむと考え込んで突っ込むのがはばかられる。

 そして駅に着いたあたりで、ようやく口を開いた。

「これからの事だけど」

「あん?」

 新垣はまた真面目な表情で、俺に告げる。

「私、欲しいものは全力で取りに行く主義なの」

「汚い金を使ってか?」

「おのれはそこまで私の事が嫌いか」

「まぁ、苦手……というか嫌い……いや、大嫌いだよな」

「うん、何でガチなトーンで言い直した?」

「ほら俺、お前に対しては常に本気だからさ」

「トドメさしてんですけど!?」

 何だ。まだ元気残ってたのか。すげータフだな。あの頃の弱メンタルが嘘のよう。でも。

「新垣はどうか分かんねーけど、やっぱり俺の中でお前は、思い出の女の子じゃなくてどこまでいっても新垣ゆかななんだよ。だから思い出の女の子だったからって、好きになるとかは違うと思うんだよな」

 言うと、新垣は特にショックを受けたような様子を見せない。

「言ったでしょ。欲しいものは全力で取りに行くって」

「すまん、分かる言葉で言え」

 ホームまでの階段を降りながら言うと、新垣は止まって、数段下にいる俺をビシッと指さして言い放つ。

「あんたが欲しい私を私は手に入れてみせるってだけ」

 ドヤ顔決まってるなぁ……モデル雑誌の表紙みてぇ。柴咲しばさきみたいにクソムカつく顔じゃないの凄い。

 そしてとても言いづらいが……。

「別に欲しくな……」

「あぁん!?」

「何でもないです」

 ひぇえ、まさかそんな感じに来られるとか思ってなかった。諦めろよ。俺の事なんか。お嬢様だし選び放題だろうに。

「そもそも俺に固執する理由が分からん。少女漫画脳か。運命とやら信じてるパターンのやつか」

「そーいうんじゃないけど……いや、そうなのかな」

「自信ねーのかよ」

 笑うと、新垣は、早足で俺の隣まで階段を降りて告げる。

「自分の気持ちなんて自分でもちゃんとは分かんないし。ただあんたの事好きってのは、フられても変わらない。というかフられたからこそ、こいつ如きにこのままフラれたままのわけで良いわけがないってなるわよね」

「それ自分大好きって事と違いません?」

「言ったでしょ。私もよく分からないって。でも諦めないわよ。私だもの」

「かーっくいい」

「それはどうも」

 ぺこりと執事のようなお辞儀を披露する新垣ゆかなに、周りの人たちが見惚れているのを脇目に、俺はあざといなぁこのお嬢様と思っていた。あ、そうだ、お嬢様といえば。

「このPS4、本当もらっちまっていいのか?」

「言ったでしょ。お詫びの品だって。鎌瀬かませの時に嫌な思いをさせたのも含めてね」

「うーん、そりゃ反省の意思は感じ取れるけども、何でも金で解決するのは良くねーぞ。俺以前に普通に人への好感度稼ぎたいなら」

「う、き、肝に銘じとくわ」

 その辺は痛いところを突かれた自負があるらしい。けど、小学三年生当時の俺が欲しいものを考えての意向だろうし、言い過ぎるのも酷かもしれないが。

「そんじゃ、今回は妹とこれで楽しませてもらうわ。貰えるもんはむしり取れがうちの家訓だし」

「貰えるのに毟り取るのね……」

 可哀想な目で見られる俺もしかして可哀想?

 新垣は定期を持っているのか、そのまま改札口の方へ歩いていく。どうやらここまでか。

「んじゃな」

「うん、それじゃ」

 改札口を通っていくのを見たので特に余韻もなく振り返り、駅を出て行こうとする。

「ぶきお!」

「ぐっ、ぶきおって呼ぶなァ!」

 振り返ると新垣が意地悪そうに笑ってやがった。あいつほんま嫌い!!

 がるると唸っていると、新垣はまたビシッとこちらを指さし、公衆の面前で堂々と言い放つ。

「あんたが違っても、私は全部引っくるめて、今のあんたも好きよ!」

「……それはどうも!!」

 何故かその勝ち誇ったような、楽しそうにしてやがる笑顔から目を逸らし、喧嘩に負けたチンピラさながらに俺は最後の捨て台詞と共に早歩きで駅を出ていく。

 絶対に、絶対に俺は、あんなヤベーお嬢様の事なんか、好きにならないからな!

 誰に対してでもない、自分自身への宣言を脳内で大声で復唱する事で、新垣の再びの告白の余韻を消そうと尽くすのであった。

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