第26話 思い出クレーンゲーム

 思い出の屋上庭園。その中のクレーンゲームの前で、景品をずっと眺めている奴がいた。白帽子に白ワンピースだから多分女の子。

 さっき通った15分前にも同じようにあぁやって眺めていたと思う。

「どれが欲しいんだ?」

 尋ねると、女の子はこっちを向いた。

 白い帽子を深く被っていて、自信なさげな表情。というか、いきなり話しかけられたから怖いのかも。

「俺が取ってあげるよ。お金ある?」

 聞くと握りしめた百円玉五枚。

「これだけ……」

「なんだ、五百円あるならここのクレーンゲーム六回出来るよ!」

「でも、私、取れないから」

 ボソッとか細い声で女の子が言ったので、クレーンゲームの景品を眺めながら俺は尋ねる。

「どれが欲しいの?」

「そ、そのリッピーのぬいぐるみ」

 指をさした先の太眉恐竜のぬいぐるみ。あんまり可愛くないけどいいのかな。

 俺は持ってた自分の百円を投入口に入れる。

「え、こ、これは」

「いいよ。俺が取れたらお金頂戴」

 女の子の心配にピースで応える。

 なんせ小学校一年生の頃から三年間ここのクレーンゲームを遊んでる俺。

 アームの強さ、掴むタイミング、離すタイミング全部分かっているのだから、こうやっていとも簡単にリッピーのぬいぐるみが取れてしまうのである。ここのクレーンゲーム限定だけど!!

 胸に抱きかかえるサイズのぬいぐるみが景品口から出てきた。

 それをヒョイっと女の子に手渡す。

「はい、一発だった!」

 受け取った女の子は、ちょっと怯えていた表情からパッと華やぐ表情へと変わる。

「凄いね!」

 目を輝かせた女の子は、さっきまでの臆病さ加減が嘘だったかのようにぴょんぴょん飛び上がって喜ぶ。

 すると、跳んだ勢いで女の子の帽子が落ちる。

 現れた女の子の髪は、何というかくすんだ茶色……黄土色っていうんだったか、あまり普通では見かけない色だった。

「あ……あ」

 すると直ぐに女の子は、髪の毛を隠すように右手で押さえて、左手で直ぐに帽子を拾い上げて、被り直す。

 髪の毛を見られたくなかったのだろうか?

「どうして隠すの?」

「……へ、変でしょ?」

 さっきと同じく自信なさそうな尋ねる女の子。

「うーん、変なのかな?」

 これに困った顔で返してしまう俺。だって、大人とかいっぱい茶色の髪になってる人とかいるし、子供でそういう人がいてもいいと思うから。

 両腕を組んで、真剣に考え始めていると、女の子は目をパチクリさせてから、ふふっと笑った。

「変なの」

「変だとぉ!?」

「あ、ご、ごめ、違くて。みんなは……この髪見ると気持ち悪いって言うから」

 しゅんとしょげた女の子、学校でいじめられてるのかな? 確かに隣のクラスの奴で丸坊主にしてる奴がいるけど、ずっとボーズボーズとかナンマイダーとか馬鹿にされたりしてるし。色が違うだけでいじめたりする事もあるのかも。

「俺は別にいいと思う」

 うんと頷いて言うと、女の子はまた大きな黒い目をパチクリさせてから、顔を赤くして下に俯く。

「ありがとう」

「うん、大事にしろよ!」

 なんせ俺が一発で取った人形だからな! とか思っていると、女の子は顔を真っ赤にしたまま直ぐに走り出してどっかに行ってしまった。

 あまりに突然だったので、しばらく呆けていたが、あ、100円取られたままだということに気づき、やられたー! とがっくりうずくまる。

 もう遊ぶ気が完全に無くなった為、帰ろうかなと思ったら、庭園は走っちゃダメなのに、さっきの女の子がこっちに走ってきた。お腹にぬいぐるみを抱え、もう片方の手で何かを持っている。

「こ、これ、お返し、あと100円も」

 渡されたのは下の階で売ってるカップタイプのソフトクリームだった。わざわざ降りて俺に買ってきてくれたのか。

「ありがと! 一緒に食べよーぜ」

「え、う、うん」

 二人で食べたソフトクリームが、とても美味しくて、その日から、俺と女の子は会う度に、帰る前にソフトクリームを買うようになったんだったな。

あにい、兄い」

「……あ、なんだ夢か」

 懐かしい初恋をした夢を見ていた気がする。久しぶりに、アーケードゲームの事とか思い出したからかな。

 感慨深げにあくびを一つすると、妹が俺の様子をアイスクリームのパル○を食べながら見ている。

「兄いさ。今日なんか用事あるって言ってなかった?」

「用事? 土日に俺に用事があるわけ……はっ!! 今何時!?」

「9時15分」

「詰んだ……」

 どうやら身体が修復をきっちり行う為に、深い睡眠を要したようだ。

 うん、遅刻だ。今日は新垣あらがきに遅刻の連絡を……俺あいつの連絡先知らねーわ。詰んだ。

 いや、待てよ。確か執事の才原とかいう奴の連絡先をLINEで……ブロックされとるぅ。なんでやねん。

 となると遅れてでも行くべきか……。他の奴から連絡先聞くのもめんどいし。会うの約束だし。

 愛衣ちゃんが最後の一口を美味しそうに食べるのを見ながら話しかける。

愛衣あいちゃん、俺ちょっくら行ってくるわ……。帰って来なかったらごめん」

「何? 朝帰り的な?」

「いや、フォーエバー的な」

「女の子と会うだけって言ってなかったっけ?」

 そう、女の子に会いに行くだけのはずなんだけどこれ俺的には聖戦なのよね。

 とりあえず、30秒で支度だなァ!

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