第19話 作戦決行

 翌日の金曜の朝、俺は借りたPCを音楽室の楽器置き場に、見えないように仕掛ける。

 ノートPCだとこうやって画面の倒し方で角度が付けられるから、御誂おあつらえ向きだ。

 後は生徒会室にあった、前も使ったこのダンボールを被せれば……よし、完璧。側から見たら資材かなんかのダンボールが置かれてるだけだ。入口が見えるようにだけすりゃいいから、不自然にならん位置にだけ気をつけないと。

「これが監視カメラ?」

 付いてきていたはるかさんが、ダンボールを不可思議そうに眺めながら、運ぶ時に持ち手になる部分の穴から見えるレンズに手を数度振ってみせる。可憐かよ。

「おぉ、ほら、こんな感じになる」

「……本当」

「だろ?」

 俺は持っていたスマホを見せる。

 俺のスマホにはチームビューアの無料のアプリが入っており、このアプリが入っていれば、スマホから、同じチームビューアのアプリの入ったPCを遠隔操作、つまりは現在のPCの画面すら閲覧出来る。

 となれば、話は簡単だ。隠された状態のPCをチームビューアを起動させて、カメラモードにしておけば、その映像を俺のスマホが常に撮り続ける事が出来る。

 電池消費の面がかなり厳しいので時間は限られるが、今回は撮る時間も限られてるし何とかなるだろう。

 あとはちゃんとストーカー野郎が来てくれるかどうかなのだが、次からテスト期間に入る事もあるから、しばらくは盗めなくなる。今日がテスト終わりまでに楽器を盗む事が出来るラストチャンスのはず。

 この機を逃す事はしないのではないかという俺の予想。

 さて、当たるのか外れるのか。

 音楽室を出ようとした時に、携帯に電話がかかる。は? ヒロ?

「あんだよ。こちとら暇じゃねーぞ」

 電話越しの相手は元喧嘩仲間、ヒロことさかい浩史ひろしくんである。

『お前んとこの生徒でさー。なんかガタイ良くてストーキングする奴いない?』

「そんな具体的な行動まで把握されてる奴知ってたら警察に通報するか先公に報告しとるわ」

『ハハッ、そりゃそーだわ。なんか、うちの女の子達もつけられたりしてるみてーだからよ。気づいたらボコっといてくれや』

「ヒロんとこにも来てんのか?」

 外部の人間の線とかも考えてたが、どうやらやっぱりうちの高校に関係する誰かがストーカーなのだろうか。

 とゆうことは。

「ヒロんとこも学校の備品盗まれたりしてねーか?」

『いや? 初耳だな。何? そっちなんか盗まれてんのか?』

「おう、ちょっと学校に置いてある楽器とかがな」

『あー楽器とか質屋とかで売るとすげー金になるもんな』

「……いや、それが盗まれてから返されたりしてるんだわ」

『はぁ? じゃあ何で一回盗まれてんだよ』

「俺が聞きてぇわ」

『ほーん、愉快犯ゆかいはんとかかね。暇な奴がいるもんだ』

「もう、切っていいか?」

『おぅ……あ、そういやヤミサ」

 プツッ、電話が切れた。なんかあいつ最後ヤマサとか言ってなかった? 醤油なの? ちくわなの? 両方ともあいつの口からあのタイミングで出るの意味不明過ぎるけど。

 首を捻ってると、はるかさんがじーっとこっちを見ていた。

「友達?」

「え? あーヒロの事か。ダチってよりかは腐れ縁というか。こいつも別の高校で生徒会やってるんだけど、たまに情報交換したりしてんだ」

「そう」

 何で意外そうな顔……?

 あぁ、そういやヒロもかなり悪名高いヤンキーだったし、生徒会に入った事情とか知らない奴からしたら何事? って感じだよな。

「別の高校で楽器が?」

「いや、楽器は盗まれてないらしい。帰りのストーキングの方があったみたいだ」

「そう、他校にも」

 はるかさんが眉根を寄せて口元に手をやり、考え込む表情。

 愉快犯ね。確かにそういうのもあるのか。

 だが、こちとら何も愉快じゃない。女の子が恐怖する状況を愉しんでやがるのであれば、一刻も早く捕まえて二度とそんな事しないようにしねーと。

 再度意気込むのを神が見ていたのだろうか?

 数時間後の2限と3限の間の休み時間、俺の携帯は確かに現れたストーカーの犯行の一部始終を捉えていたのだった。

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